復活初回、馬久一花夫婦の会に参加した、新横浜コットン亭。
毎月開催で、昼の会と夜の会とを交互にやっている。
今月は昼。
今回は、秋に志ん橋襲名で真打昇進の古今亭志ん松さんと、三遊亭歌彦さんの二人会。
二人とも神田連雀亭メンバーではないし、他の二ツ目が主要メンバーの会のレギュラーとしても、それほど名を見ない。
こういう人は見つけたら聴いておかないと。
歌彦さんは、前座(歌つを)時代に聴いて以来。上手かった印象は持っている。
ちなみに圓歌襲名披露興行であった。
馬久・一花の会はよくわかるが、この日もまたお客はなかなか多い。
粗忽の釘 | 志ん松 |
さじ加減 | 歌彦 |
(仲入り) | |
新聞記事 | 歌彦 |
火焔太鼓 | 志ん松 |
志ん松さんから。
携帯電話の諸注意。撮影や録音もご遠慮くださいと。
すると客席から「撮っちゃった」と女性の声。
「はい、これからはやめてくださいね」
さらにこの人「携帯切り方わからない」。
スタッフがフォローに入ってしてようやく切れた模様。
その他のお客も一斉に切り出す。
困ったもんだが、でもこの会のお客さん、そんなに悪くない。
喋り続ける人とかいないし。まあ、普通はいないのだが。
古今亭志ん松と申します。しんしょうではございません。
名前覚えていただきたいのですが、あと3か月で真打に昇進し(拍手)、名前も師匠の志ん橋に替わります。
落語界の階級制度など、初心者にもわかりやすい話を合計10分ほど。
初めて聴く人に好感を持ってもらうのには成功した模様。
本編は粗忽の釘。
オリジナリティ高めであった。古今亭の誰のものとも似ていない。
既存のクスグリである「仏壇変わったところはない」がウケなかったのは不思議。
引越しが完了し、ホウキを掛ける釘だけ打っておくれの場面から。
かみさんが釘を出してくれてるのに、わざわざ道具箱から八寸の瓦っ釘出してくる亭主、あんまり同情の余地はない。
向かいのうちに怒り気味に出向いて、「向かいに越してきたもんです」とごくさり気なくネタバレする。
徐々に亭主がおかしなことを言ってる様子が客席に伝わり、ジワジワ来る仕掛け。面白いやり方。
ここのおかみさんは、珍客の似顔絵描いて回覧板を回すらしい。
隣の家に行ってからは、上がり込んでまずはじっくりくつろぐ。
他に類を見ないじっくりさ。一服するのもたっぷり時間を掛ける。
ここがいちばん面白かった。
志ん松さん、「間が長い」というギャップで笑わせようというのではない。
どうやら、演者自身が高座の最中、本当にくつろぐことに決めたらしいのだ。
まさに登場人物の了見になっている。
おかけで亭主は見事に落ち着いて、先ほどまでとは別人になっている。
訊かれてもいないかみさんとのなれそめを語るのも、自然なこと。だって落ち着いたんだもん。
初デートから、その日のうちに結ばれたことまで語ってしまう亭主野郎。
その後尻に敷かれるようになってしまったが、でも人によるとこういうのが一番安定しているらしい。幸せですだって。
なんだか演者自身のセリフに思えたけど。
釘は阿弥陀さまの喉から飛び出ていた。これがほんとの喉ぼとけ。
ちなみにここのおかみさんは、向かいの家で出した回覧板をすでに見たらしい。
そんな時間あるわきゃないが。
続いて5年ぶりに聴く、三遊亭歌彦さん。
志ん松さんはまだわかるのだが、歌彦さんは普段どこで活動してるのだろう?
東京かわら版に名前はあるが、どこに出ているかのイメージが持てていないのだ。
落語協会にはこういう不思議な二ツ目さんが割といる。
上手かったことだけは覚えていても、前座で聴いた一席の記憶なんて残っていない。
二ツ目として、まったく未知の状態で私の前に現れた。
マクラの話芸に深く感心。
おもしろ話を繰り広げながら、ときどき自分自身についてツッコミを入れていく。歌彦さんの場合は、自分の顔の面白さをよく入れてくる。
こういうやり方はよく耳にするが、上手いなと思ったことはまずない。
流れのある話を聴いていたのに、関係ない自虐が流れを断ち切って、ずっこけたりなんかして。
あるいは、面白いのだけどやたら口調が強いとか。
歌彦さんは、本当に絶妙の加減。自己ツッコミは話の流れを損なわないが、しかしちゃんと機能している。
まあ、もともと漫談の多い一門だからなのだろうけども、そうだとしても誰ともやり方が違う。
これはすごいものを見たと思った。
師匠は歌奴と言います。年金もらってるお客様の中には山のアナだと思う方もおいででしょうが、私の師匠は山のアナではありません。
山のアナ、のちの三代目圓歌師匠は私の大師匠です。
私が入門したとき、大師匠はまだ生きてました。ギリギリ間に合ってます。
寝込みがちでしたけども、私が挨拶に行くと座ってくださいました。
ちっちゃい人でしたね。座るとこのくらいです。立つとこのくらい。でもオーラはすごかったです。
元気だったときは伊豆の温泉に一門で出かけまして。
「小川のせせらぎみたいないい湯だからみんな入ってこい」と大師匠に言われてみんなで湯に行くと、足湯でした。
足湯に30分浸かれる偉い師匠です。
あと、大師匠が実際にやってたどもりの話。「次は新大久保」とアナウンスする間に電車は高田馬場に着いていた。
昔の人の話って、嘘かほんとかわからないですよね。嘘に決まってますけどと歌彦さん。
本編「さじ加減」に続きます。