雲龍亭雨花真打披露 その4(雲龍亭雨花・飲んじゃう「芝浜」)

そういえばだが、東京ガスの団体が入っているということで、宮治師東京ガスヨイショ。仕事くださいだって。
後で雨花師がこれを受けてた。

ヒザは東京ボーイズ。
現在は二人揃って「さ〜よお〜な〜ら〜」から始めるスタイルらしい。
いっぺんハケようとしてまた戻ってくる。
なぞかけ問答で始まって、長崎は今日も雨だった、そして中之島ブルースで締めるご機嫌な高座。
結成60周年だそうで。もっともナカハチ先生は途中から参加だが。
「3歳からやってるんですね」「歌舞伎役者じゃねえんだよ」
超ベテランなのに最近また出番が増えてるように思うのだが。
秘訣は、二人揃って実に楽しそうなこと。
東京ボーイズ、ボーイズ&バラエティー協会脱退を知ったばかり。この協会「ボーイズ」が一組もいなくなってしまっている。

主役の雨花師登場。
今日はやらないでおこうと思ったんですけど、と断って顔マネ。
芦田ママ、綾瀬はるかかなた、そして自然に笑った秋野暢子。

NHKのニュースで取り上げられた話。なんと密着取材が3つの番組で流れた。
今度ラジオ深夜便に出ますとのこと。落語ではなく、トークらしい。
だから私はNHK大好きです。まあ、NHKの人もいらしてるので言うんですけど。
あと、東京ガス。仕事ください。

お前さん起きとくれ、と芝浜が始まったのでびっくり。
真夏なのに。
それはそうと、結構な一席だった。
かみさんの泣かない芝浜。最後に旦那が酒飲んじゃう芝浜。
既存の人情噺に疑問を抱き、メスを入れていった一席。
雨花師の中では、きっとウソのない芝浜ができたということなのだ。
従来の芝浜とは、言ってしまえば客も一緒にウソを楽しむ噺。だが、その分陳腐な感動を味わう噺にもなりかねない。
プロの噺家でも、芝浜が嫌いでやらない人、たくさんいるはず。

魚勝(という名は出てなかったように思うが、便宜上)が仕事しなくなった理由に文学的な謎はない。酒をいつまでもやめられなくなっただけ。
かみさんは、割と旦那に対する信頼が厚い。仕事に戻りさえすれば腕は一流だから。
テキパキ送り出す。

財布を拾う場面はなく、どんちゃん騒ぎの場面もない。
顧客の信用を取り返していく描写もなければ、女房と畳は、うっかり言い掛けるなんてのもない。
進行はスピーディだし、キャラは日本一記号的だ。
もちろん、意図してこうやっているわけだ。
それぞれの場面はカットバックで振り返られる。

林家つる子師も、芝浜の女房を都合のいい女として描かないという方法論でやっているとのことだが、あいにくドキュメンタリー番組でのダイジェストしか聴いてないから比較はしようがない。
雨花師が考えているのは、ナチュラルに強い女房みたい。
かかあ天下ということではなくて、ごく自然に芯の強い女。
かみさんは、だから泣かない。
亭主を騙す際にも泣かないし、財布の実在を語る際にも泣かない。
亭主に隠しごとをしていたのを白状する際にはさすがに詫びていたが、このかみさんなら、別に謝らなくてもいいのではなんてちょっと思った。

演者によっては、短期間で店を持って奉公人も使ってという展開が、不自然すぎて描けないなんて人もいるみたい。
だが雨花師は、とにかくアクセントをつけず、こうなったという事実を描く。そうすると、無理のある展開なんてものはないのである。
芝浜はなまじ文芸的な作品だ。だが文芸に深入りしなくてもいいのだ。

亭主のほうも、感情の激しい葛藤を見せることはない。すんなりと現況を受け入れる。
いったん怒って、よく考えて反省し、深く礼を言うなんてのがよくあるところか。

そして酒が出る。畳の匂いだけじゃないと思ってたと亭主。
亭主は酒に口を付けてしまうのだが、意外なぐらい驚きはなかった。
というか、飲むな、という予感があった。いずれそんな芝浜も出るような気がしていたところでもあり。
雨花師は、徹底してナチュラルを描くことにしたらしい。なら、飲むのも自然。
当然、夢になるといけねえのサゲは使えないので、この先に新たなものが加わる。
やはり、自然をモットーにしたサゲであった。
一富士二鷹三なすび、つまり初夢を織り込んでいる。

展開とサゲの改変も、やっぱり劇的ではないのである。
無理やり夢にされた物語の振り返り、というイメージ。
劇的じゃないから単調か。逆です。

人情噺は劇的にやろうとするのではなく、抑えていくほうが感動するものという。
だが、この方法論で芝浜をやってしまう人はそうそういないと思う。

寄席がはねたら外は豪雨。雨花だからこれでいいのかも。
初日の記事を書き上げてから、帰りはニューオータニの通路を通って赤坂見附へ。まだやんではいなかったが、それほど濡れずに済んだ。
芸術協会の新しいスター、雲龍亭雨花師に今後も期待です。
早めにトリが取れるといいですね。

その1に戻る

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。

2件のコメント

  1. はじめまして。
    初「芝浜」が雨花師匠版でした。
    女性演者ならではの視点かつ表現、結構好みかも。
    今月も国立(内幸町)に行くのですが、代演で雨花師匠
    いらっしゃるようですので、違う演目が楽しみです。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

失礼のないコメントでメールアドレスが本物なら承認しています。