雲龍亭雨花真打披露 その3(桂宮治「たらちね」)

そういえば、萬橘師だけでなく幸丸師の口上もコンプライアンス的にやや問題あるものだった。
いや、私は怒ってるわけじゃないんですが、ただシャレとしては現代的にアウトかなあと。

幕がいったん閉まって、高座がもとの形に戻る。
先ほど口上の司会をしていた桂宮治師の出番。

宮治師の高座は久々だ。調べたら4年振りで、最後に聴いたのは二ツ目時代。
コロナの初期の頃、最も世間が恐怖に満ちていた時代である。
国立演芸場の花形演芸会が中止になり、三遊亭好の助師が企画して、そのメンバーを亀戸梅屋敷に集めたのだった。
この際、私は師が決定的に嫌いになった。その1年前の堀之内寄席にも遠因があるのだけど。
毒舌が、一線を越えてしまっていた印象。
ただ、その後はあそこまでの毒舌は吐いていないと思う。
だいたい笑点ファンは、毒舌を吐く人だなんて一切知らないと思う。
最近の宮治師は、決して嫌いではない。笑点メンバーになったときは、まあ仕方ないなぐらいの感想だったが。
嫌いでなくなったのは全面的に笑点のおかげである。チームマカロンとして、私の好きな好楽師のお世話をしている姿に、むしろ好感を持つようになって久しい。
テレビの姿をまんま信じるなんて単純?
芸人さんたちは、お茶の間に好感を持ってもらうため懸命にがんばってるんじゃないんですかね。
いっぽうで、笑点のネタ選択のおかげで嫌い、というかすっかり苦手になってしまった人気の噺家もいる。いろいろである。

先日の笑点(地上波)で、「娘がそっくり」とネタを振られた宮治師が、反撃していた。思春期だぞと。
全部お約束といえばその通りだが、私は「家族を全力で守る」という強い意志を勝手に見た次第。

世間の評価を見てると、「夢グループCMネタをしつこくやってるのが嫌い」なんてのも目に入る。
それはそれでわかるが、私自身は別にイヤじゃないな。
ともかく、高座でなく、笑点のおかげで好きのほうに振れてきた。これが事実。
ラジオではたまに聴くが。
当ブログの昔の記事を読むと、高座をベタ褒めしていたりして。

さて宮治師には「待ってました戸越銀座」と声が掛かる。
黒門町その他、地名で声の掛かる昔の芸人を取り上げ、私もそんなふうになったんでしょうかと答えつつ、でも戸越銀座ってただの商店街ですからね。
住所は戸越ですから。それに、そこそこテレビで知られるようになったとはいえ、どこ住んでるかなんて個人情報ですからね。
今声を掛けた人は通報します(訴えますだったか)。

こういう挨拶も、昔からやってる。
4~5年前なら、同じ挨拶で不快感を持ったに違いない。実に不思議である。
まあ、客と表面的に対立することは、ギャグでもいいとは思ってないけど。

そして自ら、顔がそっくりの娘のネタを出す。
なんだそら。ただ、クローズの空間だから出しているので、テレビでは慎重にということか。

ひとの披露目であるから、軽い噺を出すところ。
八っつぁんが大家に呼ばれて、たらちね。
たらちねか。
上野広小路亭の芸協定席という、その後もそうそう出向いていないところで前座・宮治のたらちねを聴いたのは、もう10数年前である。
すげえ前座がいるとたまげたんだから。当ブログは2016年に始めたので、さらに昔のことである。
その一回り昔の強烈な印象は消滅しておらず、今回聴いたものに結構シンクロした。宮治師は、二ツ目に上がってすぐNHK新人演芸大賞を獲ったように、当時から完成されていたわけだ。

セメントで? とか、サイも持たないことないですけどなに食うんですかね、とか、こういうクスグリはトレンドではない。
最近の若手はボケっぱなしの技法を心得ている。だから、大家から予定調和的なツッコミが入るのを待つ、ボケのフリはあまり好ましくないわけだ。
でも宮治師、とにかく勢いよく語りつつ、ボケで一瞬制止するそのスタイルがだんだん気持ちよくなってくる。
先に出た萬橘師もそうだが、宮治師もリズムを一瞬変えることで、客の快を呼び起こす芸だ。

10数年前は、「傷があんじゃねえですか」と訊かれた大家が、「はっはっは」としばらく狂気じみた笑いを入れて、「ある」と答えていた。
そこまで長くはなかったが、まだ残っていた。
最近、前座からは、「チンチロリンのガンガラガン、ざーくざくのぽーりぽり」を聴かない。
ひとりキチ○イが流行らないからだろう。野ざらしが珍しめになってしまったのと同じ。
たが宮治師、堂々と妄想に飛び込む。なんだか新鮮。
妄想を爆発させ、昼間っからかみさんに迫ってエロシーン炸裂。
妄想が限界までいったところでフッと大家のセリフに変わる。

この先、おかみさんが登場してからはわりと普通なのだけども、妄想シーンのお釣りで楽しく聴ける。

狂気がほどよく漂う、見事な一席。
この一席のレベルなら、たとえ私がまだ宮治師を嫌いでも、一発で逆転してくれた可能性まである。
だから、いつまでも芸人に対する悪い評価を固定化したままじゃいけないのだ。そう思う。

披露目なのに、脇役の宮治師だけで埋まってしまった。
明日は雨花師匠です。続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. むかし、「宮治」師がまだ二つ目のころ、わりと独演会に通ってましたが…ご自分で『戸越銀座!!!』と声掛けてください。と言ってました。ははは。

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