鈴本演芸場10 その4(柳家喬太郎「抜け雀」)

ヒザはのだゆきさん。これも短かった。
落語協会の色物、ウクレレえいじ、岡大介といった人が売り出し中であるから、音楽ものはどんどんリニューアルしていかないとこれから競争に勝てなくなるかもと心配だ。
今回はいつものでした。ウケてるけど。

いろいろ不満の多かった鈴本昼席。ここまで個人的な不満がたまることのほうが珍しいのではあるが。
楽しんだ初心者が大勢いるであろうこともわかるし、その層を狙って演者がしっかり仕事していることも理解している。
でも、その縛りの中で圧倒してほしいなと思うのです。寄席はそうあって欲しい。
ともかくも、トリの喬太郎師はさすがであった。

釈台の説明は、もうしない。釈台、鈴本ではあまり出番がないが、右から鈴本と書いてある。
ちなみに、今回はずいぶん釈台を手で叩いていた。講釈における場面転換とはちょっと異なり、歌舞伎のバタバタを意図してるらしい。
釈台は手放せなくなった喬太郎師、次々と新たな使い方を開発中なのであった。
しがみつく、とか穴の深さを出す、とかね。

あまり開演中に喋るのは感心しないけども、母娘連れらしい人のお母さんが「あの顔」って喜んでた。わかります。
顔芸落語。こういうスタンダード演目の時に、特に狙ってるみたい。

ちょっと振っていたマクラは、旅につなげるための落語協会九州巡業。
ずいぶん以前に参加しただけなのだと思うが、たまに師から聴くネタ。
もう20年ぐらい毎年巡業しています。落語普及のために。これだけやってるということは、普及できてないということではないでしょうか。
1日目が沖縄で、2日目が高知。
飛行機の経由地は羽田。帰らせてくれ。
3日目からは九州各地を行ったり来たり。先方の都合しだいでぐるぐる回らされる。
この巡業のマクラも、市馬師の故郷豊後大野のネタであるとか、いろいろ引っ張れるのであるが、短い。
マクラの楽しい人がマクラを大して振らないとき、その大ネタは絶対に楽しい。

旅から、タチの悪い雲助へ。あ、人間国宝じゃないですよ。
これで抜け雀と確定。
喬太郎師は、「ふてえ野郎だ」なんて気分の悪くなりそうなクスグリは入れない。

「抜け雀」、細かい部分もいろいろ気にはなるのだが、なによりも「劇団キョータロー」大活躍という趣き。
喬太郎師は、自分の中に俳優を多数抱えている。俳優が、演者により与えられた役をこなす。
だからとにかくコントっぽい抜け雀。
そんなにストーリーをいじっているわけでもなく、なにか強烈に噺を強調するセリフがあるということでもないが、とにかく楽しいコントが続く。
宿屋の主人と、絵師はキョータロー劇団の役者の中でも双璧であろう。

テレビで観た際、「狩野派の絵師」を「化膿して壊死」と聞き間違えるというギャグは強烈に面白かった。
でもこれはなくなっていった。なくても全然いいけども。

主人はかみさんの尻に敷かれ、そして商売センスがないらしくたびたび一文なしを泊めてしまう。
最近、抜け雀あるいは竹の水仙を聴く際、「主人が意外と怒らない」ことを高く評価する傾向が私の中にはある。怒る能力を持ち合わせていない人が好き。
喬太郎師の描く主人もそれほど怒りは見せないが、この人は「怒りたいけど怒る能力に不足を感じていて、自分でもわかっているのでどうにもならない」人である。
だがそんな人うっかりすると、落語の客が主人に代わって怒り出しかねない。それではいけないのだ。
だから絵師は人を常におちょくっているが、そんなにイヤなやつでもない。
ただただ乱暴な人である。乱暴を楽しんでいる、そんな人。
硯に水を入れてこいと言われて主人のほうももちろん怒り気味なのだが、でも妙に平和なのが楽しい。

絵師のお父上がやってきて、「すずみを持ってきなさい」。硯と雀がごっちゃになっちゃった。
今、「すずみって言いましたね」と、亭主だか演者だかわからない人のツッコミが入る。
ツッコまれて怒り気味に、「主任も6日目にもなると、疲れてるんだ!」。
ここが一番面白かったけど。
そりゃ、昼だけでなく夜もあるんだから疲れるよね。

そういえば、「くりぬいて銀紙でも貼っとけ」って入れない。
先人と違うところで盛り上げたいという矜持であろうか。
ただ、お父上に墨を摺らされる際、「そういうものらしいですね」とあきらめの境地なのが楽しい。

そんな主人だから、客が増えまくって建て増しし、本館新館に加えアネックスまでできていても、そんなに変わってはいない。
全然そのまんまなのだ。

長い噺だが、師の眼鏡にかなわない部分は相当に省略している。
絵師も、親に反抗してフラッと家出し、許されて帰るというだけ。背景など描かない。
大久保のお殿さまもチラッと描かれるだけ。

帰ってきた絵師が、絵に向かって深々と詫びる。
のんきな主人が、「あなたと私しかいないのに、誰に話してるんですか。気味悪いです」。
いや、その気になったらクスグリを入れる場所なんていくらでもあるものだな。
「絵から抜け出るのはガヴァドンだけだ」なんてのも。
さすがに寄席の昼トリで抜けガヴァドンはないか。

さりげないギャグをぶっこむおもしろ古典。しかしながら同時に、徹底した編集に基づく、本格派の一席でもあるのだった。
大満足です。

8日目は「仏壇叩き」が出たようですね。当ブログにも訪問あり。
これも聴きたいねえ。

その1に戻る

 
 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

粘着、無礼千万、マウント等の投稿はお断りします。メールアドレスは本物で。