池袋演芸場34 その1(スーパー前座「三笑亭夢ひろ」芸術協会にデビュー)

月が替わって11月1日。今年5度目の池袋。
この席に今年よく来ているのは、国立演芸場が休館した理由も大きいと思う。
ただ、芸術協会の芝居で池袋はやや珍しめ。

主任は瀧川鯉朝師。仲入りが柳家蝠丸師。
そして文治師の芝居のように上方交互枠が。1日2日は、女流新作のパイオニア、桂あやめ師である。
上方落語界と付き合いの深い鯉朝師が呼んでるのだろう。

夜のはじめも聴こうと思ってるので長丁場。演芸場のテナント、東京油組でW盛りを食べてから出撃。
満腹なのでどこかで寝るのは確実。
油組も、遅ればせながら交通系ICが使えるようになっていた。
大家のほうは、いつキャッシュレスになるのだろう。
鯉朝師のチラシ画面見せて500円引き。2,300円は素晴らしく安い。

つ離れした程度ではじまり、仲入り休憩時は30人弱。
非常に落ち着く席である。

【昼席】
つる夢ひろ
コールドスリープ昇輔
八好
都々逸親子鯉津
大安売り可龍
おせつときょうた
浅草の灯枝太郎
応挙の幽霊蝠丸
(仲入り)
日の丸太郎 武者修行の巻頼光
セールスウーマンあやめ
雑学刑事今輔
コント青年団
ペコとマリアとゆかいな仲間鯉朝
【夜席途中まで】
牛ほめ幸路
たいこ腹幸朝
陽・昇
老人ホームごっこ伸衛門
死ぬなら今傳枝

新作多め。演題調べるのは困らなかった。
落語協会の場合、新作の席では演者自らが特殊な席だということを語る。今日は江戸の風は吹きませんなんて。
だが芸協の場合、古典多めの席とシームレス。これが協会としての個性のひとつ。

芸協は前座の出囃子も違うなあなんて思う。
と思ったら、夜席の前座はいつも聴く前座の出囃子だった。

昼席の前座は五厘刈りの坊主頭。メクリには「夢ひろ」とある。
前日、あかね噺の記事書くため、芸協の前座香盤を確かめたばかりだった。
そこにはこの前座の名はない。だから楽屋入りして間もないはず。
もしかすると、この11月1日からかも?
と思ったのだがすでに浅草、新宿には入ったみたい。
むひろ? ゆめひろ?
ご本人がさんしょうていゆめひろと名乗る。
夢丸師の弟子なのだろう。小夢師の弟子の可能性もあるが、夢丸師だった。
広島出身かなと思ったら、数少ないWeb情報からは本当にそうだった。

声が大きい。実に場慣れしている。
オチケンなんだろう。
声だけでなく、表情と所作がワンセットでスムーズ。
そしてあざとさ皆無。
最初の1分、いや30秒でもって、これは只者ではないぞと。

八っつぁんに熊さんご隠居さん馬鹿で与太郎と振って、ご隠居を八っつぁんが訪ねてくる。
八っつぁん嬉しそうに、町内の若いもんが隠居の悪口言ってましたよ、教えにきました。
あたりまえの前座噺のようで、どこか違う。でも、叱られるような工夫でもないのがミソ。

隠居は昼間っからブラブラして旨いもん食って、泥棒じゃねえか。
お前さんまで一緒になって言うことないだろ。
ちゃんと言いましたよ。隠居がやるのは強盗だって。

既存の噺に実にさりげなく手を入れ、客の脳内テキストを裏切ってくる。

でも褒めてもいましたよ(間)。生き地獄だって。

最近落語協会の前座が、ウケたい病に罹っているのかヘンな間を取るなあと書いた。
この夢ひろさんはちゃんと間を取って、バカウケ。
ウケるために間を取る、なんて発想じゃないんだろう。当然間が入るべき部分と設計している、そう推測。

鶴は昔首長鳥と言った、から、八っつぁんがいきなり暴走し、なんで鶴になったかを教えてくんないんですか、生き字引なのに。
隠居は釈明するとか考え込むとか、フリを入れてない。
八っつぁんが突っつくのでいわれを考えるのである。よそでやっちゃいけないよと断って。
不自然のようで、結果としてこれ以上なく自然な流れ。

この先はまあ、ギャグは多いが枠組み自体は普通。
だが、二度目の実演で「ると止まった」になる、その流れがやはり素晴らしいのだった。
隠居を再訪し、「ポイと止まった」まで聞かずに「つー」で駆け出してしまうから。
演者がよく噺を研究しているのだ。

八っつぁんに掛かると、「爆発の老人が浣腸しながらはるかカナダを眺めている」になってしまう。
隠居に教わり直した二度目は、間違えた自分に自分でツッコんでいる。
かなたがカナダになってしまい、結局八っつぁんは両目を片方ずつ使ってカナダともろこしを眺めることになる。

素晴らしい。
叱られない程度に入れているギャグもいいが、そもそもすべてのレベルが高い。
また、夢丸師に入門するセンスがいいじゃないか。
円楽党の三遊亭けろよんさんがデビューしたてで見事な高座を披露した際と、同程度のインパクトを受けた。
けろよんさんには最近遭遇できてなかったが、久々に産経らくごの配信(兼好独演会)で聴いた。安定のレベルでホッとした。
けろよんさんを褒めた記事は大いにブレイクしたけども、本人天狗になったりすることはなかったようだ。
まあ、中途半端なほうが天狗になる。それが世の常。
夢ひろさんも大丈夫でしょう。

その後夢ひろさんはずっと高座返しをしてました。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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