阿佐ヶ谷にもく落語2(上・柳家小はぜ「蔵前駕籠」)

阿佐ヶ谷に出向く際は通常コーヒー豆絡みなのだが、今回は違う。
最終目的地は文京区。
13日まで、文京区20%還元と東京都10%還元がWであるからして。
1日券があれば、どこへだって立ち寄るのだ。

阿佐ヶ谷の足揉み専門店、エンゼルウイングの第二木曜日は落語会「にもく寄席」。
1年半ぶり2回目の参加。
1時間半で2,500円。朝昼通しだと4,000円になる。
通しもいいが、とりあえず朝11時開始の部へ。
キャッシュレスで木戸銭が払えるのは嬉しい。

先日ラジオ聴いて取り上げた入船亭扇七さんが出る。
柳家小はぜさんとの二人会。
扇七さんは、私の勝手なイメージだが神田連雀亭にはたぶん出ないと思う。見つけたら聴いておこうと思い。
真打になって卒業の、古今亭志ん橋(志ん松)師の後釜なんだそうだ。

行ってみると、お店の前で穴掘ってる。水道工事らしい。
落語聴くには最悪の状況だ。
外の工事音をなんとか入れないように、開演中シャッターまで閉めていたのでお店に感謝です。
おかげで、高座の最中騒音は気にはならなかったです。

店内は以前、施術用のベッドを最後部に置いて「桟敷」と称していた。私もそこ座ったんだけど。
それはなくなって、これでもかと椅子を詰めている。最前列はちっちゃい丸ベンチ。
まあ、面白いじゃないか。
前回同様、非常に簡潔で必要事項をしっかり盛り込む、見事な主催者挨拶。ウケを狙って楽屋を苦笑させるようなことは一切ない。
いや、具体的に誰かを指してるわけじゃないけど、絶対いるでしょそんな人。

蔵前駕籠小はぜ
のっぺらぼう扇七
(仲入り)
明烏小はぜ

朝の部は小はぜさん二席とのこと。
工事の日に当たっちゃいましたね。仕方ないですね、落語の間だけやめてもらうわけにもいかないですし。
それに、どっちが世間で重要かというと、ねえ。
トイレの水流せなかったり、蛇口ひねってなにも出ないほうが困りますよね。

本格派の小はぜさん、マクラだけが課題だと思ってるのだが、今回は実に面白かった。
ただ、マクラじたいは10分あった。上記ツカミのあと振った、駕籠の゙話がたっぷり。
人力車と違い、現代で駕籠を見る機会は少ない。時代劇か、深川の資料館でも行かないと。
宿駕籠と辻駕籠の違いをたっぷり語る。
吉原に辻駕籠で行って安くあげようとすると、だいたい酒手をねだられる。

こんな説明、聴いたことない。
まあ、振る機会があるとしても、蜘蛛駕籠のときぐらい?
でもトリネタでもないから、こんなの振ることまずない。
もっとも、吉原が出てきたところを見ると蔵前駕籠のようだ。
私の好きな噺。女郎買いの決死隊。
珍品ではないと思うが、そうそう出ない。この季節しかできないだろうし。

そして、圓生の速記でしか読んだことのない小噺。
最初から「酒手は出さねえよ」と断って駕籠に乗る男と、なんとか酒手を出してほしい駕籠かきとの攻防。
駕籠かきは、昨日の客はよかった、豪儀なもんだった。一分も弾んでくれてな。
中の客の方は寝たフリ。駕籠かきも負けてない。道中駕籠をゆすぶりまくるが、男もこらえながらいびきをかいている。
吉原土手に着いたら逆襲する。昨日の駕籠かきは実に良かった。あなたほど駕籠に乗る姿がサマになってる人はいないと、一分くれたぜ。
今度は駕籠かきが駕籠担いだまま寝たフリ。

得した気分のまま蔵前駕籠へ。
ちなみに蜘蛛駕籠は柳家の噺と思う。
蔵前駕籠は柳家じゃないと思う。どこから来てるのだろう。
蔵前駕籠の冒頭は、まだマクラっぽい。
幕末の騒然とした世の中、それでも吉原へ通う男たちがいる。
だが、途中の蔵前通りに浪人たちの追い剥ぎが出る、身ぐるみはがされてしまうというので、駕籠屋もナカへは行かなくなった。

ナカへ駕籠を出してもらいたい男だが、駕籠屋に断られる。
昨日今日出たんなら、追い剥ぎだって休むだろ。今日は出ると決まったもんでもない。
いえ、出ます!
請けあっちゃいけねえ。お前仲間だな。
冗談言っちゃ困ります。
女が待ってるんだよ。頼むよ。
とここで、劇中落語が始まり「おまえさん一晩寝かさないよ」という女が登場。

どうしても吉原に行きたい男に、なんだかすごいリアリティが漂っていて驚いた。
リアリティなんておかしいのだ。追い剥ぎが待ち構えているのにどうしても行きたい男なんてこの世にいないだろう。
だが、小はぜさんがいかにも落語らしく描くと、ないはずのリアルが湧いてくる。
落語のリアルは現実のリアルと異なるルールが支配している。

結局、見上げたお客さんだということて、駕籠かき二人が名乗り出る。ぜひお供させてくんなさい。
駕籠賃倍と、酒手。そして襲われたら逃げていいという約束で、女郎買いの決死隊出撃。
そして客の男はふんどし1枚になる。
寒くねえっすか。
なに、寒くったって向こうであっためてもらうんだ。

殺伐としたご時世でも落語の世界はひたすらのんき。
ありえない男がイキイキ描かれる見事な一席。
いつも上手い人だが、今日の小はぜさんは本当に上手いなと思った。
抜擢されてもいいぐらい。受賞がないから無理だろうが。
抜擢されなくても2026年には順番回ってくる。
そのときは11代目小三治襲名をぜひ。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

失礼のないコメントでメールアドレスが本物なら承認しています。