続いて入船亭扇七さん。
平日昼間からお集まりいただいてありがとうございます。いいんですか? 皆さんがよければいいですけど。
お仕事はどうしたのか訊かないだけまだいいとしようか。
でも、あなただって安定したNHKを辞めて、特殊な世界で芸人やってるんでしょとは思った。
怒りを覚える(ヒルハラ)まではいかないが、こういうのは好きじゃない。
前座のときには出していただいたんですが、二ツ目になってからは今日が初めてです(拍手)。
今日は小はぜアニさんと一緒で。
楽屋で一緒になる先輩と、共通点があると急に近づいたりしまして。
小はぜアニさんとの共通点は、入門が遅いことですね。アニさんも私も28で楽屋入りです。なので前座のころからかわいがっていただきまして。
先ほど(前説で)ご紹介いただきました、手ぬぐいもお見せします。これです。
「NEWS1007」というパネルとともに、マンガ絵のニュースキャスター扇七がニュースを読んでいる絵柄。
背景には線が7本引かれている。
絵心のある知人に描いてもらったんです。
五明楼玉の輔師匠いらっしゃいますね。常任理事にもなって年々出世している師匠ですが、この方が毎年ベスト手ぬぐいを決めてまして、私のもエントリーさせていただいてます。
先日春風亭一蔵師匠のラジオに出ましたが、「あんな賞獲ってもなんにもならないけどね」と言われました。一門でしょ。
しかし、アナウンサーを絵にしている手ぬぐい見せておいて、自分の前身については一切語らない。
なかなか語りづらいのかもしれないが。
小はぜさんが語ればいいんだろうけど、そういうことはしないタイプの人。
怪談噺は夏のものですけど、冬にふさわしい怪談噺もありまして。
落語の中で最も長い噺なんです。あ、芝浜じゃないですよ。
長いというか、終わりがない噺です。
というわけで、のっぺらぼう。
別に冬の描写はないけども。
珍しい噺だが、日曜日に柳家やなぎさんから聴いたばかり。あちらは改作だが、冒頭部分だけは本物ののっぺらぼうだった。
身投げの舞台は吾妻橋ではなくて、赤坂見附の弁慶橋。
小間物屋が碁で遅くなり、弁慶橋に通りかかると身投げの女。助けるとのっぺらぼう。
逃げ出して夜泣きそば屋にほうほうの体で駆け込み、のっぺらぼうが出たと訴える。そば屋は、この辺には悪いカワウソがすんでやしてねと。
しかしそば屋のおやじがたもとで顔を覆うと、出てきたのはのっぺらぼう。
家にたどり着いてのっぺらぼうについて報告すると、かみさんものっぺらぼう。
夢から覚めるとまたかみさん。
今日はこのへんでと扇七さん。
扇七さん、今回は極めて普通の印象。とはいえ悪いところがないだけ偉いと思う。
いずれ才気あふれる高座に出くわすだろう。きっと。
仲入り休憩後、もう一席小はぜさん。
羽織のいらない、厚手の着物に着替えている。
一席めで、「(シャッター閉め切っているから)もう途中では帰れません」と言ってたのを思い出した。
この二席め、マクラを振らずに「もう行こうよ、来やしないよ」と本編に入る。
これは明烏だが、こんなセリフ(若旦那を待ってる源兵衛に、太助が言う)から始まるもの、聴いたことはない。
小はぜさん、自分で作ったんだろうなあ。
たまに、若旦那を交えた3人のシーンから始まって、家に戻った若旦那を待つというものは聴くが。
噺の冒頭で、若旦那を吉原に連れ出す策略がバンと出る。そして、次は家で大旦那が若旦那に、さっそく出かけてきなさいと声を掛けるシーン。
お籠りのために、大旦那は湯に行かせたのだ。だから源兵衛たちを待たせる羽目になるのだが。
若旦那がお祭りで太鼓叩いて遊んできた回想はない。
これ画期的かも。
お祭りが入ると、若旦那がいかにも子供に見えてしまう。既存の明烏は例外なく、子供に望まない筆おろしをさせる噺になってしまっているのだ。
大旦那は、非常にやさしく、神社へのお籠りがいかに若旦那のため、そして商売のためになるかを語って聞かせる。
親心が伝わってくるではないですか。
大旦那、必ず翌朝には帰りなさいよと。あそこはいつまでもいたくなっちゃう。
源兵衛と太助に任せて、お前は安心して遊ん…信心して来なさい。
この先はしばらく普通の展開。
見返り柳が御神木と聞いて、手を叩く若旦那というクスグリが面白い。
源兵衛太助は周りに笑われきまりが悪い。
創作力に長けた人は、既存の古典落語にツッコんでいって噺をブラッシュアップさせるのだ。
若旦那が騙されて吉原に連れてこられたのについに気づく。
帰りたいと泣く若旦那を源兵衛がなだめるが、収まらない。
そこで太助が受付替わる。
「受付替わってくれえ」というクスグリ、百川なんかにあるが、明烏で使ったのは初めて見た。
太助が、大声で怒鳴っている演出も初めて見る。
と言って本気で怒ってるのではない。若旦那をビビらせてやろうという啖呵。啖呵じたいが客に楽しいのだ。
勝手に帰って大門で縛られても知らねえぞ。
翌朝、大旦那の予言通りに生まれ変わった若旦那。
またしても見ない演出が。
帰ろうと言われた若旦那、布団からぴょこぴょこ抜け出そうとして果たせないのを、所作として描く。もちろん花魁が捕まえてるから。
これまた、既存の噺をじっくり観察して生まれたもの。
たっぷり中身が詰まった噺を、小はぜさんは意図的にスピーディにサゲるのであった。
小はぜさん、最近の充実振りはスゴいです。
廓噺はたぶん初めて聴いたが、噺の作り込みが半端でない。
これからどんどん手掛けていくのでは。