黒門亭、年内は12月15日が最終日。その第1部へ。
トリが柳家さん遊師でネタ出しは「寝床」。
さらに、駒治、花いちと、私的にはすごい組み合わせ。
わかる人にはわかるでしょう。
客は20人弱。
子ほめ | わたし |
時そば | 駒平 |
お菓子の伝言 | 花いち |
(仲入り) | |
同窓会 | 駒治 |
寝床(ネタ出し) | さん遊 |
開演前に前座さんがハキハキと諸注意。誰だっけ。
隅田川わたしさんだった。三度目なのだが、わりとハッキリした顔立ちのわりに、なぜか覚えられない。
横浜吉野町の小満ん喬太郎で聴いて激賞したのだが、この記事だけなぜか検索に掛からない。NGワードもないと思うのに。
リンク貼っときます。
今回で検索に掛かれば幸い。
今回も見事。
ウケたい気持ちは一切なく、淡々と、しかし時には抑揚つけて語り込む。
前回の商売根問もそうだが、隠居の語りに常時独特のアクセントがついている。
とりわけ好感を持つのが、ツッコミが非常に緩やかなこと。
そしてたまにはボケっぱなし手法も用いる。
聴いていて心穏やかになるのだが、でも気持ちよすぎて右から左へ抜けていく口調でもない。
そして、細かい部分に教わったままでない工夫を入れる。
上手いのだが、この前座噺子ほめがとにかく面白い。声出して笑ってしまう箇所が多いが、でもあざといギャグなんてない。
世辞愛嬌を振って、タダの酒飲ませろと乱暴な八っつぁん登場。
酒については最終的に隠居が飲ませてくれるというのだが、八っつぁんは断って帰る。
たまにこの言及を入れているものは聴く。入れないと、八っつぁんの来訪目的が消えてしまう。
だがわたしさん、もうちょっと丁寧。隠居の酒はいつでも何升でも飲めるから、教わったのをさっそくやってきますと。
ダメだったらまた来て酒いただきますとそう返事している。
最後に二人の関係をちゃんと回収していくのだ。
八っつぁんは実際に酒への執着が強く、隠居が教えてくれる世辞の実践中ちょくちょく「タダで(飲めますか)?」と訊いている。
隠居も、いちいち飲めるとは限らないけどなと返す。
向こうから50の人が来たら、のくだりは省略。
ここ抜くの珍しいが、ここやると隠居一回怒らないといけないから避けてるのではないかと。
子ほめのレクチャーでは八っつぁん、「洗濯はふた晩で乾くかな」「ジャワスマトラは南方だ」を本番に先んじて言い間違えている。
実践で再度出すと、繰り返しのギャグになるのだ。
知らない人を褒めようとする八っつぁん。
失敗して初めて、知らねえ人褒めちゃいけねえんだというルールの存在に気づくのだった。
改めて八っつぁんという人がよくわかって面白い。
伊勢屋の番頭さんは怒って行っちゃうけど、ひっぱたいてはいかない。
隠居のレクチャーに出たとおり、番頭ほんとに上方行ってた。上方ならこっちのもんだと張り切る八っつぁん。
竹のうちに行っても傍若無人の八っつぁん。
最初拒否されているのを強引に上がり込む際、「親の因果が子にむくい」と非常に不謹慎な唄を歌っている。ここはボケっぱなし。
だが、紅葉みたいな可愛い手だと褒めると、ようやく竹が喜ぶ。
竹が喜んだので八っつぁん驚いて、「ここんとこ教わってねえんだけどね」。
聴いてる私もびっくり。
噺のこんな構造、気づいた人は今までいなかったのでは。
どう見ても半分のまだ先があった。
「竹の子は生まれながらに重ね着て」という上の句を置いてもらっている。
これはさん喬師からしか聴いたことがない。
前半から省略もしてるから、ここまでできるのである。
寄席ではカットだろうか。
そこへ八っつぁんが、強引に下の句付けていく。「育つにつれて裸にぞなる」。
「子ほめの失敗というおはなしでした」とわたしさん。
素晴らしい一席に、大きな拍手。
次の駒平さんを挟んで出た柳家花いち師が、「前座さんも二ツ目さんも本当に上手いですね」って言ってた。
あんまり人に感心したなんて言うもんじゃないんですけど、と。
わたしさん上手いなと、楽屋で聴き惚れてしまいましただって。
前座は教わった通りが基本だが、噺に疑問も何も持たずオウムのように再現するようでは先が知れている。
噺の隅々まで組み立てなおす、楽しみな前座さんだ。
まだ前座になって1年半。