喜楽館AWARDの生放送を聴く

日曜日は黒門亭のあと北千住で「上」を書き上げ、足立区で買い物し、戻って笑点大喜利を観た後、夜はABCラジオの生中継。
神戸新開地・喜楽館の大会「喜楽館AWARD」の第2回である。
入門16〜25年目の上方落語家による大会。昨年の第1回が成功した。
昨年は中継はあったっけ? 私は聴いてないが。

このところ上方落語のラジオを聴いていても、ずっとこの話題だった。
盛り上がっていいことである。

入門16年以降としているのは、東京を意識したものである。東京だと、若手真打の世代だ。
上方落語協会員に出場資格がある。
ということは、東京の鶴光一門はダメなわけだ。

この世代の上方落語家は結構馴染みがある。
ただし林家染吉師はよく知らない。吉本所属だと、ラジオにあまり出ないものでそうなってしまいがち。
桂三四郎師も吉本だが、活動拠点が東京。
それ以外の3人は同期で、松竹芸能と米朝事務所。ラジオでもよく遭遇している。

替り目三四郎
くっしゃみ講釈佐ん吉
妾馬ちょうば
茶屋迎い鉄瓶
夏の医者染吉

NHK新人落語大賞のように持ち時間が短くはなく、たっぷり20分。
ネタ出しはしておらず、当日抽選で順位を決めて、演目はその場で決める。スリリング。
順位による有利不利のないよう、トップバッターの前には前座の一席があった。

優勝は桂米之助を襲名する桂ちょうば師。
師匠・ざこばが今年亡くなったこともあり、大団円であった。
笑いあり涙あり、聴き返すと実にいい内容。寅さん映画を観ているような。
それはいいのだが、妾馬でねえ。ちょっとびっくりした次第。

妾馬(めかうま)は純然たる東京落語。そして人情噺。
東京の人情噺も次々大阪に移植されている。最近急に始まったわけではないはずだが、長年かかって今目立つようになっている。
それは結構なこと。
だが、上方落語の大会でこの演目が受賞とは、驚きを禁じ得ない。

私はかねてより、東京も大阪も落語は一緒だという持論を持っている。
東西の個性の違いなど、言うほどはない。演者の個性のほうがずっと大事。

「江戸落語と上方落語はどう違いますか」「同じです」

この点からすると、東京の人情噺が大会で優勝というのは、私の説を裏付けてくれるものではあるのだが。
昨年(優勝は桂雀太師)の演目も東京落語の「粗忽長屋」であるが、これは滑稽噺だから。
それにしても、江戸時代の大坂の町家の娘が殿さまの側室に取り立てられるなんて、ちょっと変。
大阪弁だが、大阪が舞台ではないのだろう。
元が東京のお武家の落語だと、そんなの結構ある。いちいち気にしたらいけないけども。

この大会、現場で聴いてる人と、ラジオリスナーが投票できる。
どちらも、ちょうば師がトップなので文句のない優勝。
私も投票しました。私が入れたのは笑福亭鉄瓶師の「茶屋迎い」。
これはかなりよかったと思いますが。

大阪のラジオをここ数年聴いていて、鉄瓶師が文珍師から「茶屋迎い」を教わったというエピソードも知っていた。
大阪でも珍しいほうの噺。
東京に来て、前半が「木乃伊取り」に、後半が「不孝者」になったのだと思う。詳しいことは知らないのだが、ストーリー的には明らかにそう。
東西比較すると面白い。
東京の二つの噺とも、「人情」が大きなキーワードになっている。
木乃伊取りは主従関係の人情を、不孝者は旦那と妾との人情を。
だが上方落語の原典である茶屋迎いには、人情味は非常に薄い。時間の関係はあるだろうが、本来がそうでは。
やむなく芸者と別れた旦那の事情なんてものはないのだ。
この演目こそ、東西の落語の個性を強調したとき、上方落語の大会にしっくり来るものではある。

鉄瓶師も上手いし。
教えてくれた文珍師の口調やクスグリが残っているのは、それはそれで非常に楽しい。

桂佐ん吉師はマクラで、「いろいろな賞を撮ったがやっぱりAWARDが欲しい!」と叫んでいたのは印象よくなかったのではないか。なら今回はいいよ、になるんでは。
くっしゃみ講釈面白かったけど。
どさくさに紛れて伯山先生の悪口言ってたのは愉快であった。
くっしゃみ講釈には、復讐に来た喜六が講釈師の後藤一山に聞き惚れてしまうシーンがある。ラストのわけわからない悪態の唄の前に、講釈師を改めて一度褒めているのが面白い。
復讐は復讐だが、芸は認めたらしい。

トップバッター桂三四郎師は、新作落語好きの私なのに昔からあまり好きじゃなかった人。ほんとにちょっとしたことばかりなんだけども。
でも今回出した替り目(これも主に東京落語)は、わりとよかった気がする。
ただ、亭主がメタ視線を取り入れた独白のギャグで進めていくもので(三遊亭遊雀師の強い影響がうかがわれる)、このやり方で戴冠はできまいな。
メタ視線で、寝てる客を揶揄していた。

ラストの林家染吉師は、パペット落語の笑福亭鶴笑師から教わったらしい、座布団で遊びまくる落語。
ラジオでは何をしてるのか、もう一切わからない。
もう、爪痕だけ残すことにしたようだ。

上方落語も実に面白いもの。
鉄瓶、佐ん吉といった人たちはしばしば梶原いろは亭とか、東京にも来ている。
佐ん吉師は実際に聴いたが、いずれ鉄瓶師も聴きたいものです。

作成者: でっち定吉

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