国立演芸場7 その2(隅田川馬石「粗忽の釘」)

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隅田川馬石師は先週も聴いたが、この人は毎週聴いても楽しい。
今年4席目である。それまでしばらくご無沙汰していた。避けていたわけじゃないが、今になって後悔している。
力の入らなさ具合がたまらない。手抜きじゃないですよ。
これは師匠・雲助から引き継いだもっとも大きな財産と思う。
高座が生々しくなく、ワンクッション挟まっている。現代の噺家らしく自分自身も見せるのだが、昔の噺家っぽくもある。
そんな芸だから、「自分の親父を忘れる」粗忽マクラでもスベリ知らず。お前の親父だ、のあとでのけぞってみせてオチになる。
「帰ってからゆっくり笑ってください」。
マクラも義務的に振っているのではなく、師自身が楽しいのだろう。

粗忽の八っつぁん(名前が出ないが、たぶんそう)は、通常の演出では「あちら側」にいる人だろう。
そりゃそうだ、こんな粗忽者と同じ世界にいたらくたびれてかなわない。演者も客も、こちら側から眺めて楽しむ。
だが、馬石師の場合、この八っつぁんを決してあちらに追いやらない。
釘を謝りに向かいに行ってしまう重度粗忽ぶりっからして、八っつぁんだから仕方ねえやという気になる。
そして隣に出向き、カカアとのなれそめを一方的に語った後、あの頃はあんなに可愛かったのに、今じゃアゴを上げるようになっちゃったんですよとなぜか人生相談を始める八っつぁん。
聴き手の気持ちにぴったりハマる八っつぁんなのだ。
隣に向かって、釘の場所を「ここです」という八っつぁん、普通は客も呆れながら聴くもんだ。
でも、これもなんだか仕方ないと思ってしまう。

釘が阿弥陀様の喉から突き出ている。
関係ないのだが、他には脳天とか、股ぐらから釘が出ていることがある。罰当たりっぽいから股ぐらにしてるのかなと思うが、よく考えたら天井に蜘蛛が這っている描写があるのだから、ある程度高い位置に釘を打っていなければならない。
そうすると、阿弥陀様のサイズにもよるが、股ぐらは変である。もっとも、ホウキなんてそんなに高い位置に掛ける必要ないわけで、そうすると蜘蛛の描写がおかしい。
昔ながらの人気演目も、よく聴くとご都合主義ではあるな。いいけど。

仲入り前は柳家小里ん師。ヘボ将棋のマクラから。
ここから入る「碁どろ」を黒門亭で聴いたことがあったが、「笠碁」だった。どちらも師匠・五代目小さん譲り。
梅雨の時季だけでなく、長雨の続く秋にもぴったりの噺。
小里ん師は、胆力があって客を制圧してしまう。胆力でかなう人は、小三治師ぐらいか。
前半は不規則発言をしたり、わけのわからぬ掛け声(馬石師に「がんばって」とか)をしたりするキチガイ客が数人いたのだが、そんなのも見事に制圧し、とても静かな客席。

私はこの笠碁が大好き。大ネタだがトリより、仲入り前の出番に向いた噺なのかもしれないな。
最近、この噺はドラマチックな和解を描いたストーリーなのではなく、爺さん二人のごく普通の仲直り、つまり日常を描いた噺なのだと解釈するようになってきている。
小里ん師、雲助師とも一緒に会をやっている柳亭小燕枝師のものだと特にそんな感じ。
小里ん師はもう少しだけ劇的に描くものの、でも日常の話の枠組みに収まる。そんな聴き方が楽しい。
日常なんだから、喧嘩の後悔も軽いし、行こうかどうしようかという逡巡も軽い。行けばすぐに仲直りできるという算段があるのだが、メンツをどう守るかのほうが重要なのだ。
きっと爺さんたち、また喧嘩しては仲直りするんだと思う。軽いのを。
そうして、たったふたりだけ残された自分たちの友情を確認するのだ。
菅笠被って雨の中、通りを行ったり来たりする爺さんは冷静に考えればみっともない。だが、小里ん師を聴く限りそうは感じない。
それは、子供みたいな真似をしてはいるがご隠居であり、ちゃんと貫禄は持っているから。これは大事なところ。

この、馬石、小里んの連続2席はもうたまらないものでしたね。
国立定席の顔付けは、いわゆる寄席に顔付けされなかった人の余りで作るそうな。だから、喬太郎、一之輔といった超人気の師匠はまず出ない。
だが、そんな中にもすばらしい高座が隠れている。

続きます。

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作成者: でっち定吉

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