一昨日、落語協会の前座「柳家小ごと」が破門されたという未確認情報を取り上げたところ、普段より多くのアクセスをいただいた。
「破門」には誰しも、心動かされるなにかがあるらしい。
関係者でないので、柳家小ごとさんがどれだけのしくじりをしたのかはわからない。
わかる日が来ることもないはず。外に向けてペラペラ喋るような性質のものじゃないからである。
ただ決して、部外者に対して誇れる事例ではなさそうだというのが、次の2点から感じられるというだけ。
- たびたび若い芽を潰し続けてきた小三治一門であること
- 文蔵師のツイート
私から、噺家志望者に言うべきことはただひとつ。
現在80歳の柳家小三治が存命の限り、決して孫弟子になってはいけない。
人間国宝だから人格者だなどと思ったら大間違いもいいところ。弟子のみならず孫弟子までクビにするのだ。
たまたまだと思う? 現に孫弟子は、柳亭こみち師と、柳家小八師の真打二人しか残っていないのだ(小八師は師匠が亡くなったので現在直弟子)。
(※すみません、言い過ぎです。はん治師のところに私も好きな小はぜ、小はだというふたりの孫弟子がいました。お詫びして訂正します)
伸びなさそうな前座が破門されたとしても、正直それほど残念ではない。
伸びなさそうというのは、下手だということとイコールではない。前座ならヘタで当たり前。
ウケようとして一生懸命オリジナルギャグを入れたりしている(そしてスベる)状態を見ると、ああこれはダメだなと思う。若手の漫才師の感覚だ。
そういうのは、困った二ツ目となり、困った真打になっていく。いないほうがいいとも思う。
だが、活躍が見込めそうな小ごとさんについては、地位を追われるのは非常に残念。上方ででも復活してくれないかと願っている。
現在は、協会内で拾うというのはダメになっている。
新ニッポンの話芸ポッドキャストで馬るこ師が言っていたが、このルールもよくわからない。香盤が乱れたりするかららしいが。
協会内はダメだが、落語協会から芸協など他の団体に行き、改めて修業するのはいいのだ。
ちなみに立川志らくは、破門した弟子が他の一門に行こうとしたのを全力で阻止しようとした。
といって他の一門ににらみが利くほど偉い人ではないし、人徳者でもないので、移籍を妨害などする力などない。あくまで辞めさせる側に圧力を掛けたに過ぎない。
でもそのことを、自著でわざわざ自慢している。
アホか。そのくせ、文治師のところをクビになった弟子(志ら門)を拾っているので行動原理が意味不明。
師匠のカミさんと不倫した話題の弟子も、向こうからアプローチされたのだろうが、これに関しては、さすがに破門は当たり前。
それにしても、実の師匠にクビ切られたとしたって、すべてが納得できる話にはならない。なのに大師匠からクビだなどというのは理不尽としか思えぬ。
小ごとさんの落語は、前座噺自体に内在する面白さをしっかり描く見事なものだった。
それはまさに、小三治が繰り返し語っている、あるべき論だと思うのだが。
小三治一門の、クビにならずに残っている真打がいずれも見事なら、破門のシステムが効果的に働いているということになる。
とてもそうは思えない。
小三治という人は、先代小さんの偉大なる包容力をまったく受け継がないにとどまらず、破門システムだけ弟子にも引き継がせているということ。
困ったもんだ。
今から弟子入りするなら、先代小さんの温かさを引き継いだ大師匠の、ましな一門を選ぶべき。馬風さん喬権太楼の弟子。
直接弟子入りするなら市馬、花緑。
柳家花緑師など、小さんの包容力を見事に受け継いでいると思う。そして弟子がいずれも上手い。誰の弟子になるかというのは本当に大事だ。
ただし花緑師も、弟子はひとりだけクビにした。
新ニッポンの話芸ポッドキャストで馬るこ師が語っていた、クビになった人のエピソードは、どうやらこの人のことらしい。
どうやら、噺家としてのまっとうな了見が育たなかったらしいのだ。
自分の会に先輩を呼んで、とても安いギャラしか支払わないということが続いたのだそうだ。
本人にはなんの悪気もなかったらしい。親しい先輩だから、安くてもいいという本人の解釈だったのだと。
噺を教わっている先輩に対してまで、「お世話になっているのだからこれでいい」という感覚だったのだと。普通、逆だろうと。
その行動が楽屋で評判となり、最終的に師匠の耳に入り、破門につながったのだという。
噺家の了見についにそぐわなかった人なら、辞めさせても仕方ないかもしれない。
この場合に関しては、破門システムがまっとうに機能したということになる。
でも師匠のほうも、気に病んでいると思う。
小三治はいっさい気に病まない。先日出た著書は立ち読みしただけだが、弟子のエピソード、亡くなった喜多八についてしか筆を割いていなかった。
今度ゆっくり、破門のシステム自体について論じてみたいと思う。