オリンピックなんてやってる場合じゃないと、世間の意見が一致する日が来るなどとは。
振り返ると驚きだ。
そんなご時世に、私は寄席に行く。いろんな意見もおありでしょうが。
池袋演芸場、3月下席は恒例の新作台本まつり。
日替わりで、落語協会新作台本募集の入賞作品がネタ出しされている。
25日のトリは、柳家喬太郎師。ネタ出しの演目は「東京タワー・ラヴストーリー」。
昨年もこのネタが出ていて行きたかったのだが、なんで断念したのかは忘れた。
池袋に通う私だが、この新作まつりは2017年以来。年末にも新作まつりをやってるためもある。
私も新作台本募集には、2018年に2作応募したが落選。
当ブログでもって、一番反応が薄いのが自作の落語である。もっと精進しよう。
噺家は仕事がなくなって大変だという側面が強調されて報道される。
だが高齢であったり、基礎疾患を抱える噺家の中には、嫌だなオレ、命のほうが大事だから寄席出たくないななんて人もいそうな気がしてきた。
この日のメンバーはどうだろう。喬太郎師は痛風。
この芝居も、さすがに客入りは薄いらしい。だが、喬太郎師は別格である。長蛇の列。
コロナがなかったら、立ち見スタートになっていただろう。
濃厚接触が気になる混みようだ。
地下2階の池袋、換気はどうなんだ。
まあでも、人生最後に聴く落語が喬太郎師だったらそれでもいいやなんて思ったりして。勝手に死なれたら、周りはさぞ迷惑だろうが。
夜席は落語会で、中止。
池袋は、通が揃う寄席。
まあ、通といっても通ぶっているだけの人だっているし、昨年末の芸協の席みたいに、いちいち声を出すクソみたいな客がいることもある。
だが、この日の客は揃って本物だ。
古典落語をネタにした新作が掛かると、すぐに反応する。
といっても、自分が落語を知っていることをアピールするために、一生懸命笑ってみせるような気配は薄い。そんなのが濃厚に漂う席だってあるが。
真に落語がわかった人たち(ひとり客が多い)が集結している。
喬太郎師のファン、それも新作派こそ、もっとも落語をよく知る人たちなのかもしれない。
新作落語は古典落語よりとっつきやすいと思っている人もいるかもしれない。真逆です。
そのいい客の前で、濃密な楽しさ溢れる池袋秘密倶楽部でありました。
わけがあって | ごはんつぶ |
おもち | きく麿 |
隣の男 | 正雀 |
三方よし | わん丈 |
のだゆき | |
鉄道戦国絵巻 | 駒治 |
極道のバイト達 | 丈二 |
(仲入り) | |
トイレの死神 | 志ん五 |
(演題不明) | 天どん |
ダーク広和 | |
東京タワー・ラヴストーリー(ネタ出し) | 喬太郎 |
前座からいきなり新作である。「わけがあって」というタイトルは、検索したらわかった。
三遊亭ごはんつぶさん。天どん師の一番弟子で、香盤はわりと上のほうに来ているのだが、私は初めて聴く。
扇子で床を叩いて、「田中です」。社長に呼ばれた田中社員がノックしていたのだ。
なんだ前座の癖に新作かという自己ツッコミが入る。狸札かと思ったけどな、なんて。
前座は寄席で新作やっちゃいけないなんてルールがあるが、この芝居ではそんなルールは関係ないんだって。
前座の新作なんてどうなのかなと思ったのだが、実に面白かった。
新作台本募集に落ちてる程度の人間が言うことなので聞き流してもらいたいが、新作落語には飛躍が絶対に必要だというのが私の持論。
世界が飛躍に満ちているのでない、日常を描く新作落語の場合、登場人物に飛躍が必要なのである。
ごはんつぶさんのこの自作落語、会社における社長と、最近欠勤が多い社員との会話でできている。
日常の世界かと思っていると、これがどんどん常識を踏み外してくるのである。素晴らしい作り。
欠勤が多いのは、宝くじで10億円当たったためなのだそうだ。会社で頑張っても年収300万円に過ぎず、どうしても意欲がなくなるのだと。
宝くじの1等が当たったのは劇的ながら、日常の世界の落語かと思うと、どんどん新たな、現実から飛躍した事実が明らかになってくる。
ネタバレは遠慮しておくが、東京の新作派が競って作りあげそうな領域の落語であり、すっかり嬉しくなってしまった。
そしてごはんつぶさん、喋りもむやみに張り上げない、落ち着いたいい感じ。
とぼけて語らないとダメな噺だが、語り口がぴったり。どんどん過激に変容する落語世界を描くのに最適だ。
普段寄席で掛けてるであろう古典落語の前座噺、かなり上手いのではないかな。
前座から驚かせてくれる迫真の池袋、続きます。