三遊亭丈二の落語の腕

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コロナ渦中の池袋演芸場、新作台本まつりの模様を1週間にわたり続けた。

トリの喬太郎師は言わずもがなであるが、ユニークな新作落語家が勢揃いの、楽しい寄席であった。
さて、このうち一日使ってご紹介したのが、三遊亭丈二師。演目は「極道のバイト達」。
円丈門下の3番弟子。とてもユニークな個性を持ち、素晴らしい落語のセンスを持つ人であるが、溢れる才能に比して売れているかというと、現状そうでもない。
でも、この芝居でも仲入りを務めていたし、いずれ池袋のトリが回ってくるはずだ。
それにしても丈二師。東京かわら版を見ても自分の会など全然開いていない。寄席(両国寄席を含む)に出ているだけで生活できるはずはない。
知らないけど、なにか仕事をお持ちなのだろうか?

落語が副業なのか知らないが、丈二師のユニークな新作落語について語りたいことは無数にある。
しかし今回に限らず、師の新作落語の創作力と、ユニークなマクラについてしか、今まで語っていなかったことに気づいた。
これでは片手落ちもいいところである。ごめんなさい。
古典落語を掛ける師匠については、もっぱらその演出に着目する。他人と違う噺の作り込みかたであったり、強調する部分の違いであったり。あるいは演技力であり。
「省略」するセンスに着目することもある。
しかし新作落語について語る際は、比べる相手がいないため、しばしば落語の演出についての大事な部分が抜け落ちてしまうのだ。
見事な新作だとなおさらそういうことがある。

でも、新作派の落語の腕について、感じ入ることはないのかというと、そうでもない。
柳家小ゑん、三遊亭白鳥、林家彦いち、古今亭駒治といった師匠たちについては、古典落語と共通する、その高いウデも必ず語っている。
だが丈二師については、落語のウデについての記述が抜けてしまう。
冷静に振り返ると、これはなかなか興味深いことだ。
上記の師匠たちから古典落語を聴いたことなどほとんどないが、常に古典落語らしさがそこに漂っている。
私がうっかりしてしまうというより、古典落語の空気を感じないので、丈二師の技術面に目が向いたことがなかったということだろう。

新作派について、落語が下手だったらそのヘタさを理解するのは簡単。
特に自作の新作落語の場合、もう目も当てられないひどい作品になることもある。聴く機会はめったないが。
下手さとは、まず創作の部分における作り込み方のヘタさもあるが、それよりもまず、落語自体の演出について感じるものである。
この意味において、丈二師をヘタだと思ったことはない。この師匠の新作落語を聴いて、悪いほうに引っ掛かったことはないのである。

丈二師のスタイルはいっぷう変わっている。
もうじき49歳なのに長髪で、まったく落ち着きがない(ように映る)。
声も妙に高く、常に上ずり気味。
いい男だが、中性的なキャラであり、それを打ち出している。
確立した個性は唯一無二のスタイル。
ワンアンドオンリーのスタイルを作り上げた意味では、一見対極に見える、林家彦いち師に通じるものも感じる。

寄席ではそうでもないが、黒門亭ではマクラが実に面白い。
繰り返し掛けるためにマクラを作り込み、それが面白いという人は、新作派にも古典派にもいる。
だがそういう人たちとは異なり、その場限りのマクラ。作り込んでいないのに、スラスラ出てきて客を爆笑させる。
本質的に、アドリブの語りに強い人なのだと思う。
これが最大限に活きるのは、自分の会か、寄席のトリ。トリも取って欲しいものだ。

そして丈二師、演技力は結構高い。ドラマに出てもいいぐらい。
ただし、落語の世界が独特なので、この演技力はあまり着目されないかもしれない。
高い演技力は、もっぱら語りを世界にアジャストさせるために費やされる。師の「驚き」を表明するシーンは、噺とは非常に親和性が高く、リアルな世界からは遠い。
丈二師の新作は、語り手との距離を必要とする。そしてその、必要な距離の程度は噺により異なる。
このたび聴いた、「極道のバイト達」は、比較的近い距離で演じることができる。客にも近い。
この世界自体はかなり変だ。
ヤクザの兄貴分がツッコミ役、つまりもっとも常識的な役割を演じるという噺。ボケ役はヤクザの組事務所に面接に来た、バイト志望の女子高生。
それでも、落語ファンなら結構容易についていける世界。こうした噺では、比較的特殊な方法論は使わない。

ただ丈二師には、もっとすごい噺もある。
黒門亭で聴いた「大発生」なんて、ある島に「中村さん」が大発生したのでどうしようと県庁で悩む噺。
こんな噺だと、噺についていけない客もいるので、もっと距離を置かないとならない。
その場合は、噺に没入することを避け、全体を俯瞰して演じることに務めるようだ。
ただし設定は特殊だが、会話自体は普通の人間同士のものなので、会話の際には割と迫る。

今日はこのぐらいにしておきます。
追って、具体的な噺をひとつ取り上げ、改めて丈二師の腕を語ってみたい。

作成者: でっち定吉

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