神田連雀亭昼席(下・柳家小もん「二十四孝」)

最後30分を使って柳家小もんさん。
この人は、昨年8月と10月に、続けて「三人旅」をここ連雀亭で聴いて以来。結構開いた。
当時続けて聴いた三人旅は、かなり印象の強いものだった。

私がこの席のお掃除役、柳家小もんですと挨拶。
あれ、と思ったことがある。この人の名前の発音、私はずっと冒頭高の「モン」だと認識していた。
誰かからそう聞いて覚えたわけではなくて、頭の中で勝手にこのアクセントになっていたのだ。
だがご本人は「コモン」とフラットに発音していた。古文書と同じ発音。
そういえば、師匠小里んも、大師匠小さんもフラットだ。それに合わせたら、フラットに読むのが正解なんだろう。
ご本人から高座で自己紹介を受けたのも初めてだったわけだが。
先日、テレビで「先代サン」と発声したナレーターに苦言を呈したのだが、あまり偉そうなことは言えませんな。

参考記事:噺家の名前のアクセント(続)

最近ふと思ったのだが、「マスク」って、平板に発音する人がいない気がする。
でも、これだけマスクが日常手放せないものになったので、来年あたりには平板にマスクと発音する若者が登場していると思う。

小もんさんは、若手なのにウケたいという欲の一切ない、得難い人。
一晩寝かせたカレーのように、スパイスが丸くなり、マイルドになった噺家。
昔ながらの方法論で、柳家に伝わる古典落語を語る人。それが結果的に大きな満足につながるのである。
別に、ウケを狙う手法が悪いなんてことは言わない。
だが、基礎ができてない若手がウケを狙うと最悪。そういう若手には見習って欲しい人。

そんな小もんさんにぴったりの演目、二十四孝に入る。
私、この噺聴くのたぶん15年振りぐらいだと思う。三三師から聴いて以来。
先代小さんのものは繰り返し聴いているので、結構なじみはあるのだけど。
いまだにちょくちょく出る「天災」と違う味わいがあって、好きな噺。でも天災ほどトリネタには向いておらず、フルバージョンだと30分掛かるという噺、そうそう出番がないのも当然かもしれない。
でも八っつぁんがカットバックで語る猫とアジの話など、もうたまらないですな。
八っつぁんに掛かると、猫があぐらをかいたり、豆絞りの手ぬぐい絞めてたりするのだ。
この噺、古典落語には珍しく、大家と八っつぁんが終始対立している。だが手練れは、本当に対立させては描かない。表面的なセリフの下で、しっかり二人のコミュニケーションが描かれる。

この昼席、ウケる人が3人すでに上がった後だが、小もんさん、落語のモードを堂々と根底から変えてくる。噺を楽しむ空気自体を、ガラっと変えるのだ。
足腰がしっかりしているからこそできる手法。

昔の音源で知っているクスグリが、しっかり忠実に入っている。
「忠実に」というのも実は難しい。教わった通りにしっかりクスグリを入れていくことで、噺が伸びやかさを失っても不思議はない。
ごく普通には取捨選択して、自分の好きなクスグリだけに絞り込むほうがいい。
だが落語のモードが違う小もんさんの場合、クスグリ一個一個に反作用が生じない。そもそもクスグリを入れるのに気負いが一切ないし。
くすくすという笑いだけが増えていくのだ。たまらないね。
そして昨日も竹千代さんの噺について書いたが、二十四孝もまたは教養の塊。落語でもって、庶民も中国の故事を教わるのである。
現代人の場合、得てして八っつぁんと同様に、「もろこしのばばあは食い意地が張ってやがんな」と思ったりもするが。

小もんさん、全般的に、ちょっともたつく(次のセリフが出ない)場面もあったけど。
あまり出す機会なさそうな噺だし。
でもすぐ手の内に入ってくるだろう。落語にもいろいろあるが、ちゃんと覚えるとスラスラ出てくるタイプの噺では。
好きな噺をじっくり聴かせてもらえて大満足です。

というわけで、仕事を抜け出して行った連雀亭、二週続けてヒットなのでした。

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作成者: でっち定吉

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