文蔵&喬太郎・二人落語

また配信落語からネタを拾わせていただく。
もう5月31日の生放送のものだが、第4回文蔵組落語会がYou Tubeにアップされている。
当時もったいないから参加しなかったのだが、こうして後でタダで聴かせてもらえるとはありがたい。払って生配信に参加した人も、5か月も経っていれば別に腹は立つまい。

この配信落語のオープニングトークから続けて入った、二人落語「道灌」がとても楽しかったので取り上げる次第。
通常落語はひとりでやるものだが、二人落語はセリフを割って、芝居のように複数の演者が担当するもの。
まあ、趣向だ。ごく普通には、ひとりでやる落語のほうが面白い。
二人落語については、かつて真面目に考えてみたことがある。

落語はなぜひとりで演ずるのか

真面目に考えてはみたものの、何しろ二人落語のサンプルはない。せいぜい、昭和元禄落語心中の劇中に出てきたぐらい。
だが、「こんな二人落語があったら楽しいのではないか」と当時想像した内容に近いものを、文蔵・喬太郎の両師が魅せてくれて、とても嬉しくなったのです。
具体的には、「アドリブをどしどし入れ、予定調和を壊す。噺家は、役柄本人になりきって、セリフの多くを即興で作っていく」ということである。
それが現実に繰り広げられていた。

この日は、本来であれば新宿末広亭で「文蔵・喬太郎二人会」があったはず。それで文蔵組落語会のゲストが喬太郎師であるようだ。
この会でかつて、文蔵・喬太郎両師は二人落語を出したことがあるそうで。今回はその流れである。

文蔵師は自粛期間中、この配信落語の会がある。
だが喬太郎師はまったく喋っていなかった。3月27日の池袋の新作まつり(東京タワー・ラブストーリー)以来だという。
その席で師はすでに、最近落語を喋っていないと言っていた。そしてその後また開いたのだ。
3月31日の余一会も、自主判断で中止をしたのであった。
そんな状況だが、翌日6月1日からは末広亭夜席のトリを取っていた喬太郎師。私は行けなかったが満員札止めだったそうで。

落語会では、オープニングトークというものがよくある。
楽しいものが多いが、毎回楽しいとも限らない。楽しい落語会における、つまらないトークも現に聴いた。
つまらないトークは聴いて嬉しくない。
トークは難しい。あらかじめネタなど合わせると大して面白くならないはずで、たぶんぶっつけのほうがいい。
だが、ぶっつけならぶっつけで、アドリブに優れていないと収拾がつかなくなる。
この点、ふたりの楽しいオープニングトークは、そのまま二人落語のマクラとしても最適である。

トークはコロナ禍の落語協会の情勢、打ち合わせができないがための謝楽祭の中止、新真打の披露目が中断してしまったことが気の毒である点などいろいろなところに飛んでいくが、常に面白い。
自分たちが一番楽しんでいるのに、もちろんしっかり見えない客を楽しませる。
これ自体、ひとつの落語である。こういった点からも、トークで構えちゃいけないことがわかる。

そして二人落語を。二人の持ちネタで共通している「道灌」を。
喬太郎師の道灌は、こちらで取り上げたことがある。
そして文蔵師の爆笑道灌も、かつて浅草お茶の間寄席で聴いた。
前座噺だが、構造のしっかりしている道灌は、結構二人落語にふさわしい。
もちろん、二人の道灌は同じではない。それぞれ独自の工夫を入れている。
そこにさらに、アドリブでいろいろ突っ込んでいく二人。八っつぁん役の文蔵師がアドリブの主導権を握るのは当然だが、隠居役、つまりツッコミの喬太郎師も負けていない。
どしどしアドリブを被せていく。

隠居の家に、「柳家わさびみたいな」ムンクの叫びがあり、落穂拾いがある。
これは文蔵師のアドリブで、ひとりの高座では入れないはず。喬太郎師を困らせようと思ってぶっ込んでいるのである。
落穂拾いがわかってよかったと、安堵の喬太郎師。
「狩倉」を「カリギュラ」とボケるのは、文蔵師のではなく喬太郎師の道灌のほうである。
冒頭、「道灌ってやってる?」と尋ねている文蔵師だが、喬太郎師の道灌も記憶にあるのだろう。

大きな土管から「大きな土橋亭里う馬」とか、あばら家から「横目家」とか入れてくる八っつぁんに対し、武将を「全亭武笙とかいうなよ」と被せる隠居。
横目家は現在不在だが、柳家一琴師の二ツ目時代の名(横目家助平)である。今でも一琴師を「横目家」と呼ぶらしいが。

そして文蔵師、「安く買ったろうね、家ヤスってぐらいで」で、と勝手に隠居のセリフも自分で「冗談言っちゃいけねえ」と突っ込んで終わってしまう。
喬太郎師きょとんとして、「で、いいのか」と。
思い直して、ただちに先を続ける文蔵師。でも、「ななべやべ」のくだりとかが飛んでしまい、いったん隠居の家を出た後で戻ってくる八っつぁん。自由だなあ。
そこに「千早ふる神代もきかず」とかでたらめを言ってあそぶ隠居。
二人漫才とは、基本的に攻守交代しながらの相方いびりなのであろうか。
といっても、構成をぶち壊すほどには入れない。

隠居の家を辞して一人になる部分は手短に。相方不在になってしまわないよう気を付ける、神経細やかな文蔵師。
隠居のときは遊んでいる喬太郎師だが、提灯借りにきた留公に変わってからは、「浅草演芸ホールの提灯」を除いて入れごとをせずに、文蔵八っつぁんの楽しい遊びに全面協力しているのも面白い。

こういう楽しい二人落語だったら、高座でもっと聴きたいですね。
黒門亭なんかでやらないかしら。

道灌/らくだ

作成者: でっち定吉

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