昔ながらのオチ分類 その4(ぶっつけ落ち)

長屋の花見/権助魚

昔からあるオチ(サゲ)の分類を見ていくシリーズ。第1回はこちら。
小難しい話題なもので、アクセス減り気味です。実際私自身も、落語初心者がオチになど興味を持つのはお勧めしない。
でも、まあいずれ価値が出ると思っております。
ただし私がしているのは既存分類の解説ではなく、そこに疑問をぶつけていくことなのであるが。

ぶっつけ落ち

分類のその4は「ぶっつけ落ち」。
このあたりになると、私も正直よくわからない。「ぶっつけ」と「とたん」と、違うの?
こんな細かい分類があるのに、なぜ「合わせ落ち」の概念はなかったのであろうか。
そして困ったことに、「ぶっつけ落ち」の定義が2種類あって、それぞれまるで意味が異なる。。
ひとつは「意味の取り違え」。会話において、違う内容をお互い言い合っているというもの。
もうひとつは、「まったく関係のないことで終わりにする」というもの。

後者はWikipediaに書かれているが、間違いだと思う。こんな定義では「とたん落ち」と区別がつかない。
「ぶっつけ」の語感に引っ張られているのだろう。ぶっつけというか、やっつけだ。
たぶん、本来のぶっつけ落ちとは、違う内容を互いに「ぶっつけ合う」のが意味だと思う。
以下、前者の「ぶっつけ落ち」について進める。こちらの意味のほうが重要だ。
なにしろこの意味での「ぶっつけ落ち」がないものとすると、落語の大事な要素であるコミュニケーションの断絶をピタッと説明してくれる分類が抜けてしまう。
ともかく、二人以上の登場人物が「違う内容を同じワードで言い合っている」というのはとても落語っぽい。
落語の基礎を感じるわけだ。

毎日参照している、芸協公式に出ている演目一覧だが、ここで「ぶっつけ落ち」の例として挙げられている噺、本当によくわからない。
「権助魚」がぶっつけ落ちなのはわかるけど、「蔵前駕籠」はどうだろう。「岸柳島」「馬のす」になるともう、かなり怪しい。
「置き泥」「試し酒」がぶっつけ落ちというのは理解不能。これらの噺は、双方のコミュニケーション自体は完全に成立している。

「権助魚」は、確かにいかにもなぶっつけ落ち。
「こんな魚が関東一円で取れますか」「一円でねえ。おら、二円もらって頼まれた」。
いろいろサゲのある噺だけども、よく聴くのはこれ。
おかみさんは地域の噺をしているのに、飯炊きの権助は金銭について話している。でも、同じ「一円」というワードに収まる。

「蔵前駕籠」は、登場人物のひとりがフレーズをぶつけるのではなく、パフォーマンスをぶつけたのだと解すると、ぶっつけ落ちでいいのかもしれない。
ふんどし一丁で吉原への駕籠に乗る、「女郎買いの決死隊」。案の定追い剥ぎに捕まる。
駕籠を開けて追い剥ぎが「もう済んだか」。
相手の誤解を、行動によって導くのである。
ちなみにこの噺、寄席で聴いたことないです。

駕籠つながりで連想しただけなのだが、「蜘蛛駕籠」もやや変形だがぶっつけ落ちといえるか。
これは、八本足の珍妙な駕籠を遠景で観ている爺さんと孫とが、勝手に「あれが本当の蜘蛛駕籠だ」と言っているわけである。
主人公である駕籠かきとのコミュニケーションも存在しないし、誤解をしているわけでもないが。
でも、地口じゃないから、ぶっつけ落ちでどうか。
もしかするとだが、今「拾い落ち」という新たな概念が成立するのではないかと考えていて、そちらのほうがいいかもしれない。
これは、昨日ちょっと触れた「合わせ落ち」という、既存の体系にないが実は重要かもしれない概念を表したもの。名前を替えてみた。

「地口落ち」で取り上げた「御慶」は、ぶっつけ落ちのほうが妥当かもしれない。
別に八っつぁんはシャレを言おうと思ったわけではないのだ。たまたま向うが聞き違えたので。
前座噺の「道灌」「元犬」も、地口落ちよりもぶっつけ落ちのほうがよさそう。それから「子ほめ」もだ。
「牛ほめ」「転失気」のような地口落ちと違うのは、発話者に作為がないこと。自覚的な言葉遊びをしようとしているのではないのだ。
「元犬」の場合、「もとはいぬか」つまり、「女中のおもとはいないか」を、シロが「元は犬か」と聞き違えるもの。
まあ、「いぬか」なんて日常会話にあり得ないフレーズを持ってくるところが、いかにも落語のサゲなのだが。

結局ぶっつけ落ちにふさわしいのは、「ごく自然にやり取りが交差してしまう」噺。
だから岸柳島や馬のす、置き泥や試し酒のような、なんらかの作為をベースにした噺は、新たに提唱する「拾い落ち」にしたほうがピタッとくるのではないかと。

既存の体系に、勝手に私が作った要素を加えてしまった。
読者を置き去りにして、もう少々続きます

 

代脈/蔵前駕籠

作成者: でっち定吉

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