三遊亭円楽「新聞記事」(上)

今月は二ツ目の、短めの席に2回行っただけ。道理で、日々の更新のネタに困っているはずだ。
池袋中席、柳家蝠丸師を楽しみにしていた。末広亭のトリに行くつもりだったのを、休演で行き先変更したので特に。
だが、昨年に比べ顔付けがもうひとつな気がしてやめてしまった。
年内のチャンスは、池袋の新作まつりぐらいしかないか。

クリスマスイブの24日、久々に亀戸梅屋敷寄席に出向いてみた。
円楽党の寄席も、一時ほど熱心には行かなくなったが、まあ普通の頻度に戻っただけだと思う。
主任は、最近注目している三遊亭円楽師。
円楽党のエース兼好師も顔付けされている。
超ベテランで人気者の円楽師匠、最近になって急に注目するのも失礼極まりないが、私の中では注目度急上昇なので仕方ない。
今回の亀戸、わりと早めに予定に入れていた。
亀戸や両国へはたびたび出向くのだが、今まで円楽師を目当てにしたことはない。
円楽師も、円楽党の寄席に通うようになり、弟子を見てからだんだん評価を高めていった。この点、好楽師と同じ。
逆に、弟子が数だけいてパッとしないようだと、師匠の評価も下げざるを得ないだろう。

亀戸梅屋敷に着くと、開演ギリギリでもないのに無常の札止め。
50人で打ち切り。直前に締めたようだ。
電車が遅れた理由もあるのだが、なか卯で悠長にうどん食ってるんじゃなかった。
何もせずすごすご帰ってくるには、亀戸はちょっと遠い。
なまじよく来ている場所だけに、今さら行くところもない。
年寄りはあまり外出しないと思い込んでいたが、円楽師の人気はすごい。

受付には、見習いらしい人が数人。円楽党、前座不足を懸念していたのだが、ちゃんとこの先の人材はいるようである。
円楽師、高座でこん平師の追悼はしたことでしょう。

ともかく悔しいので、勝手に円楽師の噺をひとつ取り上げてみる。
最近、円楽師の噺では、「寄合酒」をご紹介したところ。
今までいろいろ引っ掛かる部分の多かった円楽師が、ごく普通にやっていて、その点にいたく感心したのである。
普通にやると実に気持ちよく聴ける人だ。

今日はその前に聴いた、引っ掛かっていたほうの一席を取り上げてみます。
寄合酒と同じ「浅草お茶の間寄席」である。2019年5月の放送。
わずか1年前だ。
御年70の円楽師が、1年で急に変わるの? たまたま、テレビで流れたふたつの高座のデキの違いでしょ? と言われそう。
まあ、普通に考えれば、そうでしょう。
でもやはり私の中では、1年で円楽師が劇的に変わったのだというストーリーになってしまう。コロナ禍の魔法。
だからこそ、生の高座を自分の耳で味わい、確かめたかったのであるが。

新聞記事という演目は、円楽党でよく掛かる。まあ、落語協会でも芸協でもそこそこ掛かるように思うが。
王楽師から一度聴いたことがあるが、円楽師から来ているのではないかと思う。
原型は上方の「阿弥陀池」。これはそこそこ大きなネタ。
阿弥陀池から、「友達が殺された」というウソだけ抽出してできたのが新聞記事。
東京では、「つる」と同工異曲の軽い噺となっている。オウム返しもの。

円楽師、「待ってました」(珍しく女性だ)の声を受け、その返答から。
「こないだ好楽さんが出たとき、『待ってません』っていう人がいました」。
笑点でおなじみ、兄弟子の好楽いじりは紋切り型で、好きじゃない。
私は好楽師が落語も含めて好きなのだ。だが、本当は落語の上手い師をいじらないで欲しいなんてことではない。
そもそもどう考えたって好楽師、円楽師にいじられている恩恵のほうが大きいので。
でも、円楽師の上目線が高座で顔を出すたび、いちいち引くのだ。名人でもないのにと、思ってしまうわけだ。
もっとも三平いじりだと、誰も気にしないという、これは微妙な違い。
ともかく、冒頭から印象よくない。

ネタを拾うため、新聞は右から左までよく読むと円楽師。ただし電車の中で拾って読む。
自虐ネタなのに、なぜスタンスが上目線のままか。実に不思議。
目的は自虐なのに、いちいち引っかかってしまう。普段のスタイルは実に大事だと思う。
上目線の人が電車で新聞拾うのは、ギャグになりづらい。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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