新宿末広亭3 その3(柳亭左龍「長短」)

緊急事態宣言下での寄席継続のニュース、案の定世間では極めて評判悪いな。ヤフーのコメントを見る限り。
ただ、「信用できないお上に逆らう落語界は偉い」という、はなはだ勘違いした賞賛コメントはそれほど多くはない。世間は結構まともだね。

夜席は、昼席終了後とっとと始まる。午後9時の終了時間を30分繰り上げている関係で。
前座が出てくるのは20分早くて、午後5時半。
最近は普通に初めて1時間早く終えていたので、時間短縮が極端だった。そう連雀亭で橘家文吾さんのマクラで聴いたが、もうそんなやり方はしていないみたい。

春風亭貫いち「平林」

前座はどのみち持ち時間は短い。
春風亭一之輔師の4番弟子、貫いちさんで、平林。
この人はいいな。一之輔師の弟子は、面白過ぎる師匠に引かれてか、どうしても過剰アピールしてしまう印象を持っていた。
上のふたりはもう二ツ目で、さすがにそんなことないと思うが、前座時代の印象。
だが貫いちさん、決して無駄に弾まない。実にいい。前座は、前座らしく喋ることで最短距離で上手くなる。

平林という噺、どうして町の人々が適当な読み方を教えてくれるのかという、大事な点が解消されない。本当にわからないのか、いたずらなのか。
時代背景からすると、本当にわからないのが正解なのだろう。でも現代では通用しづらい。
といって、いたずらを逐一説明するのも野暮だ。実際、説明しすぎて野暮になるのもよく見る。
そこもさらっと進める貫いちさん。
最後の「ひとつとやっつでとっきっき」のお爺さんからだけは、軽い悪意を感じる。個人的な好みからはこれも抜いて欲しいところ。でも、非常に軽くていい。
また聴きたい前座さん。

(2022/11/13追記)

貫一じゃなくて、「貫いち」でした。一門の「彦いち」師匠と同じ付け方。
1年半にわたって名前間違えてまして、貫いちさん本当に申しわけありません。

入船亭遊京「初天神」

二ツ目枠は、主任扇遊師の2番弟子、入船亭遊京さん。いつものように、扇辰師の弟子ふたりとの交互。
遊京さんに当たると私は結構嬉しい。他の人(小辰、辰乃助)がイヤなわけじゃないが。
昼席の高座返しをしていたいっ休さんの、京大の先輩ということになる。
遊京さんがさらっと演じる前座噺は、常に味わい深い。大ネタだって上手いけども、二ツ目は寄席の浅い出番をあっためられてこそだ。
初天神に連れてってくれという金坊の強いアピールから始まる。おかみさんは出てこない。
短い時間を巧みに編集する遊京さん。こういう席でもって、腕が現れる。

飴玉を選ぶくだりをカット。完全に噺が肚に入っているからこそ、自由自在に抜けるのである。
先日、隅田川馬石師が、ほっぺたを膨らませて飴玉を表現していたが、遊京さんにもこのワザがある。
団子がまっしろけになったところでおしまい。
ダイジェスト感などまるでなく、親子の関係性がしっかり描かれた楽しい噺。

(追記)後で思ったのだが、飴玉選ぶのをカットしたのは、コロナ禍への配慮と思う。

林家あずみ

次が色物で、三味線漫談の林家あずみさん。
この日が誕生日だそうで、盛大に拍手をもらう。
誕生日なので、立花家橘之助師にもらったとっておきの着物を着てきたとのこと。
昨年の誕生日は寄席の休業時で家にいたあずみさん。師匠(たい平)が突然部屋に来て、プレゼントを渡してくれたという。
あまりの嬉しさに、号泣してしまったあずみさん。
師弟関係っていいものだなあと思う。
プレゼントの中身は、「緑のたぬき」2ダースと適当だが、コロナ禍の弟子を案ずる手紙が添えられていて、またも号泣。

柳亭左龍「長短」

末広亭らしく、おなじみの前座噺がしばらく続く。
柳亭左龍師は、長短。これは難しいから前座はやらないが、でもどことなく前座噺っぽい。
師匠・さん喬の得意演目である。左龍師は結構、師匠譲りの噺が多い印象。もちろんそれ以外も多数あるけど。
スタンダードな型で、ひねりはない。にもかかわらずというか、だからというか、場内大爆笑。
こういう演目で沸かせるのが、末広亭の浅い出番の作法。
また左龍師、長さんも短さんも、どちらにも向いた顔をしているのだ。落語の神さまが与えたもうた、とっておきのギフトといえる。
だから、左龍師がやると短さんのほうも面白い。こんな長短、寄席では実に貴重。

林家ペー

どんどん進んで林家ペー先生。79歳。ご自分で年齢は言わないが。
浅草お茶の間寄席で観て記事を書いたので、つい最近お見掛けした気になっていたが、2年ぶりだった。

大きなマスクで登場。そして最初からピンクのギターを抱えている。
さっそく、あずみさんの誕生日をネタにする。
50歳になりました。ウソです。

林家では、こん平師が亡くなったのでペー先生が一番上になったとのこと。数多い一門は、みんな舎弟、ぼくが若頭だって。
駅メロを数々歌って、最後に赤羽。赤羽の駅メロは、エレファントかしまし娘。
緊急事態宣言を吹き飛ばす楽しい高座。吹き飛ばしちゃいけません。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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