丁稚の落語百科(「へ」の巻)

百科事典、今日は「へ」の巻です。
「へ」で始まる落語関連の用語はあまりないですね。
無理やり集めてみましたけども。

謎のワード、知ったかぶりの和尚も知らない「転失気」の正体。すなわち放屁。
珍念さんがおならを借りに歩かされる。
最近二ツ目に昇進した噺家さん。前座のときに黒門亭で転失気を掛けていた。
医者の先生に転失気を教わり、和尚に「転失気とは何だった」と訊かれて「おならのことです」。

平成狸合戦ぽんぽこ

スタジオジブリのアニメだが、ジブリとしては大ヒットとは言えない作品。
狸の八畳敷が、海外でいささか物議をかもしたとか。
この映画、噺家がかなり声優として参加している。
ナレーションの志ん朝を筆頭に、先代小さん、米朝、先代文枝、こぶ平(現・正蔵)など。
狸といえばやはり落語なんでしょうね。

べかこ

桂南光師の前の名は「べかこ」。以前はテレビで「べかちゃん」と呼ばれていた。
「べかこ」はあっかんべえのことである。
漢字で書くと米歌子であり、米團治一門の名。
「べかこ」というタイトルの噺もある。南光師の大師匠、米朝の録音があるが、今ではやる人もいないかもしれない。
旅回りの噺家がお城でご難に遭うもの。

へそ

雷様の弁当箱を見つけた。蓋を開けてみると、一番上にへその佃煮が並んでいる。
その下はどうなってるのか覗いてみると、空の上から声がする。「へその下は見ちゃイヤン」。

へっころ谷

五街道雲助一門の演目「新・三十石」に出てくる、浪曲の小沼猫造先生の出身地。他の噺にも出てくる架空地名。
猫造先生が、ご存じ次郎長伝から森の石松「三十石」を語るのであるが、この先生、なまりがひどくて聴けたもんじゃない。
もともとは「夕立勘五郎」の中身を入れ替えた噺。夕立勘五郎という噺には夕立勘五郎が出てくるわけではなく、中身の浪曲は別に何でもいい。
有名な三十石のほうがいいという雲助師の判断だという。

へっつい幽霊

へっついが付く噺といえば、へっつい幽霊とへっつい盗人。
へっついは死語だが、かまどのこと。
へっつい幽霊には、若旦那が出てくるのと出てこないのとがある。出てこないほうがスピーディ。出てくるほうは、場面展開が多すぎて客がダレる危険あり。
博打好きの職人が、へっついの中に大金を埋め込んで死んでしまい、この世に未練があって化けて出てくる。

へび

「へび、なんてもんはあれは昔、『へ』と言ったんですな。あの虫は屁みたいだなんて。この『へ』がそのうち『びー』となってへびになったってな話で」

志ん生が話すと実に面白いのだが、冷静に字づらだけ追うと、なにがなんだか。

べらぼう

「江戸っ子はすぐこの、『べらぼうめ』なんてことを言いましてな。べらぼうってなんだろうなと思いますと、これ本来は「へらぼう」なんだそうで。まんまっ粒を潰すヘラをへらぼうと言った、つまりこの『穀潰しめ』ってなシャレなんですな。ただ、『このへらぼうめ』では間が抜けてますんで、ここは『べらぼうめ』ってなことになるんだそうで」

まあ、この手のエピソードはだいたいウソです。花魁が「尾いらん」だというのと同列。

屁理屈

「先生、そりゃ屁理屈で」「いつわしが減った靴を履いた」
「先生、そりゃ揚げ足で」「いつわしが揚げた足を取った」

へりどめ

代書屋に履歴書を依頼するアホな男が、数日間だけ売っていた商品。靴の減り止め。

へん

桂枝雀が提唱した、サゲの4分類のひとつ。サゲが大団円にならず、ふたつの要素が離れていってしまい客を不安定な気持ちにさせるもの。
あとの3つは「ドンデン」「合わせ」「謎解き」。
こちらで解説しております。お時間ある方だけドウゾ。

丁稚版・落語のサゲ分類

変顔

林家つる子さんがよく見せている。
「こないだラジオに出させていただいたら、リスナーから『顔がしつこい』って言われました」

変ずるなかれ

「たらちね」で、言葉の丁寧なお嫁さんが八っつぁんに挨拶する。
「いったん偕老同穴の契りを結ぶからは、百歳、千歳を経るといえども、必ず変ずることなかれ」
八っつぁんは、「変ずるか変ずらねえかはわかりませんけどね」などと答えている。
要は、夫婦になる以上は、死んだ後まで同じ墓に入るぞという宣言である。私も調べて初めて知ったのだけど。
このくだりは省略されることも多い。
この後、名を聴かれて、「父は元京都の産にして~」という有名なフレーズに入る。

次回「と」の巻をお楽しみに。

(2023/4/14追記)

「へ」で中断したままですが、人気がないためです)

作成者: でっち定吉

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