2022NHK新人落語大賞(下)

NHK新人落語大賞の噺を個別に見ていきますよ。

桂源太「元犬」

【7点】
入門4年半の源太さん。
東西の落語の師匠の違いを描いたマクラは楽しい。
上手くて心地いいリズムだけども、まったくハネない。
後半、犬が出てきてからの工夫は自分で考えたものだろう。三三師の元犬にやや似ている。
かなりの工夫なのに、平板なんだよな。途中はちょっと退屈する場面も。
テンポを変えてメリハリつけないと。
そもそも元犬では勝てないと思うが。

桂天吾「強情灸」

【7点】
源太さんのオチケンの1年後輩で、入門3年半。
年季が明けて東京の二ツ目扱いだからこの年数で出られるのだけど、東京だったらまだ前座やってるので出場権がない。
多くの視聴者において、先の源太さんと印象がごっちゃになってしまったものと想像する。
スタイルがよく似ていて、互いに損であったろう。審査員も、小遊三師を除き、みな二人を同じ点数にしていた。
つまり実質的には審査していないのだと思う。

交通違反のマクラは不発。やらないほうがよかったんじゃないか。

上方の強情灸は初めて聴く。原典は大阪にある噺らしいが、どう考えても東京で発展した落語。
強情の落語(「意地比べ」とか)を多数大阪に導入している、ざこば師から来ているのだと思う。
「関口の旦那」というフレーズが出てきたのだが、関口はざこば師の本名である。
やいとを据えに行ってきた男が、カチカチ山の狸になって逃げ出してきたというのが、大阪っぽいな。

源太さんともども、間違いなく上手いのだけど前座としての上手さだ。
前座が寄席でこうやっていたら、実に敬服するのであるが。
出世するのは間違いないと思うのだけど。

私は、大阪の若手が予選でこの二人に敵わなかった事実が心配だ。

立川吉笑「ぷるぷる」

【10点】
吉笑さんはもっぱら落語作家としての腕を褒められている。それは当然だ。
ぷるぷるを長屋に持ち込んだ剛腕はすごい。
だがもちろん、演者としても抜群に上手い。そして演出家としても。
サゲ以外で直接口を開かない婆さんの使い方、改めて実に上手い。

文句ない圧勝だったが、この出番も非常によかった。
上方の若手ふたりがハネなかった状況で期待を受け、それを見事に活かした。

露の紫「看板のピン」

【9点】
ラストチャンスの紫さん、個人的にはわん丈さんと並び準優勝なのだけど、点数は伸びなかった。
コメントが放映された小遊三師も、赤江珠緒さんも褒めてるのに点は入れない。
でも再度聴いて、改めて私かなり好きだけどね。一昨年よりずっといい。
吉笑さんがかっさらっていった直後、やりづらい出番だったろう。でも、まったく動じない強いハート。

紫さんのこの演目は、ラジオで聴いたことがある。この大会に、2度めの出場を果たしたあとだったかな。
桂二葉さんも、男の落語を普通にやる人だが、さらに先輩がその技法をすでに導入していたのである。
まあ、紫さんは女のキャラもしっかり描くが、博打の世界を描く看板のピンには出てこない。
ラジオの際は、おやっさん(東京の人)の造形が少々無理やりだなと思わないでもなかった。
だが今回、完成形になっていたと思う。
おやっさんが静かに語りかけるシーン、露骨な笑いがないのに堂々と乗り切っていて立派。
この11分落語の大会で、笑いのないシーンを描くその余裕。その効果は高かった。

「上方から見た江戸の男のカッコよさ」は、東京の客にはややわかりにくいかもしれない。
私は関西にもいたので、感覚的に結構よくわかるのだ。

若い衆たちのツッコミも、軽くて好きだな。決してボケを殺さないほどのよさ。

林家つる子「反対俥」

【8点】
やだなあ。
大会で客いじりかよ。
M-1グランプリでかまいたちがやった客いじりに不快感を持って以来だ。かまいたちは好きですけどね。
まあ、客いじりしちゃダメなんてルールはないけど。
でも、嫌がってるプロもいると思う。たとえ林家でもだ。

つる子さんの反対俥は、2年前「堀船せんべえ寄席」で聴いた。せんべえとは、同期の林家扇兵衛(廃業)のことである。
あの際は、俥屋の客はまだ男だったし、演者は後ろを向かなかった。ニセサゲはすでにあったが。
当時不快感は一切感じなかったのだが。
彦いち師から教わったことを知ったのは、テレビの「おなじ噺寄席」がきっかけ。

座布団の上で回転するのは、先日桂蝶の治さんで観たので、二番煎じ感が拭えない。どちらが先かは知らないが。

そういえば、つる子さんを追いかけたドキュメンタリーには、女流の先輩として紫さんが登場していた。
あの番組を観て、つる子さんは「芝浜」を真面目にやる噺家だと思った人は、この高座を観てびっくりしたろう。

三遊亭わん丈「星野屋」

【9点】
実に良かったと思う。
新作落語の強い大会だが、古典だってちゃんと圧倒的領域に行けるのだ。ただ相手が悪かった。
この時間で楽しいマクラも振り、本格古典を演じるのは只者でない。
お花(妾)の造形がいいよなあ。可愛いのだ。
男の落語をやる女流がいて、女を可愛く描ける男の噺家がいて、いろいろですな。
わん丈さん、時としてクスグリが強すぎることがある印象もあった。噺を壊すクスグリを入れてしまう。
だが、この噺のクスグリは実に適切。
おっ母さんが銀紙をくり抜いているギャグは適切であり、爆笑。

星野屋という噺、実のところ設定が無茶苦茶である。
それをここまで説得力を持って描くわん丈さんは素晴らしい。

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作成者: でっち定吉

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