次回をお楽しみに、と言いながらさっそく今日続きを出します。
3日もやると、最終日のアクセスが落ちたりする。
今回は最後まで同じテンションだから大丈夫じゃないかと思います。
富士詣り
富士詣りは、大山詣りと並ぶ江戸時代の風習で、講を組んで皆で出掛けた。
落語の富士詣りは、大ネタの大山詣りよりぐっと頻度が落ちる。
金原亭馬久さんから聴いた。演芸図鑑では柳家権太楼師が掛けていた。
まあ、珍品の類でしょう。
富士のお山でにわかの悪天候。
隠した悪事を白状しなければ助からない。
そこでよそのかみさんにちょっかい出したのを白状することになる。
若い馬久さんが、なかなかムズムズする描写をしていた。
突落し
日本の話芸で入船亭扇遊師が出していた、極めて不謹慎な廓噺。
吉原でどんちゃん騒ぎのあげく、付き馬を堀に突き落として逃げる、計画犯罪落語。
なにしろ事後強盗の既遂である。
最初から馬を出す状況である点を、若い衆にすんなり飲み込ませているところが見事だ。若い衆もまさかと思っている。
立川笑二さんは、これを心理バイオレンスドラマに作り変えていて驚いた。
便宜上の役割が、やがて仲間内での力関係を決めるという、心理学の実験みたいな一席だった。
意地比べ
先代柳亭小燕枝、現柳家さん遊師から黒門亭で聴いた。
私のバイブル「五代目小さん芸語録」で一節割かれているが、でも珍品。
西では桂ざこば師が掛けているそうで。
登場人物の全員が意地っ張りという、なかなかすごい噺。
意地っ張りといっても、自分にウソをついて生きていたくないという、実は美しい思いである。
往来でもって向こうから来る男と道を譲りあいたくないので、いつまでもそのまま対峙しているというバカシーンがハイライト。
全員が意地っ張りのため、ムダな争いがいちいち生じるのであるが、でも気持ちのいい江戸っ子の噺。
浮世根問
昔はよく出たらしい前座噺。
3回聴いたから、珍品とまでは言えないかもしれないのだが、骨格のスタンダード振りと裏腹な出現頻度に、やはり珍品という思いを強くする。
道灌や一目上がりとほぼ共通の冒頭から、淡々とこの世の疑問を薄く解き明かしていく、地味であり愉快な噺。
解き明かしていきそうで、デタラメなんだけど、千早ふるほど本気じゃないデタラメ。極めて落語らしい。
前回も名を出した珍品ハンターの柳家圭花さん、それから柳家小はぜさん。
それから期待の前座、柳亭左ん坊さん。みんな柳家。
火の用心
瀧川鯉朝師から教わったということで、春風亭かけ橋さんが出していた。
大師匠、七代目柳橋もやってたんだとか。
前回取り上げた「八九升」と同じく、ひどい内容の噺である。
子ほめを裏返し、とにかく人の生まれたばかりの子供をボロクソに言いまくるという。
かけ橋さんが、このひどい噺を売り物にできますように。
狸の鯉
非常にメジャーな前座噺の「狸札」かと思ってぼんやり聴いていると、化けるものが札でなく鯉だったとき結構驚く。
これも3回聴いた。落語協会で徐々に流行りつつあるみたい。
「狸の鯉」は、アニイの家の出産祝いに、狸の化けた鯉を持っていく噺。
金原亭馬太郎さんは、札を終えてから鯉に入った。
たぬきの噺は、「札」「賽」「鯉」そして「狸の釜」があるが、釜は聴いたことがない。
「たぬさつ」「たぬさい」と縮めて言うのは普通だが、「たぬこい」「たぬかま」とは言わないと思う。
磯の鮑
廓噺と与太郎のドッキング。
「錦の袈裟」以外にも、与太郎の出てくる廓噺があるのだ。
廓噺得意の、橘家文吾さんから聴いた。
珍しいが、ちゃんと「オウム返しの失敗」という普遍的テーマが入っている。
三遊亭歌太郎(現・志う歌)さんがこれでNHK新人落語大賞を獲った。
紫檀楼古木
珍品というか、入船亭扇辰師しかやらない噺であろう。
わりと寄席でも聴けるはずです。
今ではすっかり廃れた「狂歌」がテーマ。地味ながら実に楽しい噺。
「下」で取り上げる予定の柳家蝠丸師もそうだが、扇辰師も珍品が多い。トリネタでは「雪とん」なんて聴いた。
電話の遊び
先日、三遊亭遊子さんがzabu-1グランプリで出していた。
一門の遊雀師から教わったのだろう。
遊雀師は、恐らく五街道雲助師から教わっている。
遊雀師のものは池袋で聴いた。最近、浅草お茶の間寄席にも登場。
遊雀師、珍品のイメージはない人だが、たまにこんな飛び道具を持っている。
選挙に出る息子は、親父に遊び歩いて欲しくない。
なので親父は、開通したばかりの電話でもって、芸者の唄を聴きたい。
だがたまに混線がある。
文明開化に入っても、商家の生活はそれほど変わっていないという時代背景がうかがえて面白い。
遊びといっても吉原ではないので、上方ダネである。ハメモノも入る陽気な噺。
前回に引き続き、楽しくこのシリーズ拝見してます。今回ハッと思ったのが「浮世根問」。頭の中では珍品のイメージがなかったのですが、言われてみれば聞いてないなあと。もっとも、これは「浮世根問」だろうというのが、別の題で掛かってたのもありました。
私も珍品好きなんですが、扇辰師オンリーの「紫檀楼古木」はこの一年で三回聞いてました(笑)それだけ扇辰師にふれている証拠ではあります。
いらっしゃいませ。
浮世根問は、柳家の噺家さんにリバイバルで流行るかもしれません。
パンチのまるでない噺なので限界はあるでしょうが。でも好きですね。
紫檀楼古木は誰もやらないんですかね。
扇辰師だと実に楽しいですが、若手がやってもポカンとされそうな。
電話の遊びは去年雲助師匠ので聞きました。
電話室という部屋をわざわざ設けていた時代の話、昭和初期のイメージでした。
いらっしゃいませ。
いい噺ですよね、電話の遊び。
雲助師のはCDで聴きました。
親父さんがいかにも鷹揚でいいですね。
遊雀師の「電話の遊び」は今年の仙台花座初席で聴きました。
寄席がハネた後、飲み屋で「あの噺、今で言うスマホのリモート飲み会みたいなもんだね」と一緒に行った仲間と盛り上がりました。
最近、昇也師がやってる「引越しの夢」は珍品?
地方の落語会ではあまり聴く機会のない噺なんですが。
リモート時代を先取りした噺だったんですね。
引っ越しの夢、大好きです。
でもテーマが夜這いですからね。
女性が、男のバカさを笑ってくれればいいんですがね。
たまには遭遇しますが、珍品かもしれないですね。
「紫檀楼古木」は春輔師匠や正雀師匠が時たま独演会でお演りになります。寄席ネタとして演られるのは扇辰師匠と朝枝さんぐらいかな。春輔師匠は他にも「松田加賀」「蕎麦の殿様」をかけられますし、正雀師匠、藤兵衛師匠、彦丸師匠、彦三さんと、林家の系譜は珍品揃いですね
情報ありがとうございます。
春輔師は一度も聴いたことがありません。
「松田加賀」? はて。
朝枝さんが紫檀楼古木をやるのは、そういえば知ってました。
聴いたことはありません。
「松田加賀」は、こちらも林家譲りのネタで、春輔師匠しかお演りになりません。検校がぶつかってきた小僧按摩を杖で打擲していたところ、近くに住む神道者が「手前は本郷の松田加賀と申すもの。ここは私にお任せくだされ」と割って入ったが、興奮していた検校は「前田加賀」と聞き違え、平伏する。一部始終を見ていた連中がドっと笑うと、検校が「流石は百万石の加賀様。お供揃えも御立派だ」、という素晴らしい噺です。寄席にて、当代正蔵師匠が春輔師匠に頼み込んでこれを演ってもらったこともあるそう。
春輔師匠いいですよ〜。彦六師匠の芸風を最も色濃く継いでらっしゃるのは、この師匠だと思います。寄席は代演での御出演が多いですが、よく黒門亭やエムズさんの会に出られています。たいめいけんでは、まだ会をおやりになってるのかな?お気が向いたら、下の動画もご覧ください。
https://youtu.be/_oa6r_I2DYY