両国寄席9(中・好楽一門の楽しい二ツ目たち「笑い茸」「替り目」)

寄席の開演中100回に渡り客席、しかも自分の背後をねめ回す客にうんざりした両国寄席だが、前半はまだ、そこまで気になってはいなかった。
まだ汚染の度合いの少ない楽しい高座の様子を書ける。
前座が上がる午後5時45分の時点では薄い客席だったが、その後どんどん入ってくる。

2番手は三遊亭好青年さん。元じゅうべえ。
二ツ目になってからは初めて遭遇するスウェーデン人。実際に、ワキの仕事が多いはずなのである。
日本語がまたしても上達している。インテリが字から覚えるやり方でなくて、相撲部屋の覚え方みたいな。
インテリなんだけど。
高座に終始ユーモアが漂っていて嬉しくなる。
番組トップバッターから、長屋の花見。ちょっと大きめのネタだ。
セリフの中に、「もうだいぶ散ってきたけどね」「まだ咲いてるよ」みたいな現実のやり取りを加え、まだできる噺なんだと結論付ける。

白人が高座の上にいる、というちょっとした違和感を、最速で楽しさに変えてみせる。
違和感を、メタ感に変えるのだ。
前座のときは、教わった通りにやるから吉原の説明を入れて、お客に「お前知らないだろ」と思われる。だけどお客さんだって知らないでしょ。
狭い長屋の暮らしなんて、西洋の私にはわからない。日本人の酒の飲み方(おちゃけだけど)なんてよくわからないけどこういう仕草するね。
なんてことをしていても悪ふざけにはならず、すべてユーモアになる。手練れである。

店賃のくだりを端折ってもなお大きいネタなもので、時間をオーバーしてベルを鳴らされる。そんなアイテムあるんだ。
あれもう時間? と発して、そこから2分で茶柱まで持っていく。
自分は自分でしかないという達観が、なんだか長屋の住民と通底している気がするのだ。
落語だねえ。

二ツ目が3人続く番組。
落語協会や芸術協会の定席でこんなことがあるのは二ツ目の披露目のときだけだ。円楽党は毎日こうというわけでもないが、これも平常運転。
二ツ目の2人目は坊主頭の三遊亭ぽん太さん。

好青年さんの「花見だ花見だ」の仕草面白いですね。なんだかサンバ風でしたけど。
ぽん太さんは、圓朝モノでなければ珍品の小品を掛けるという人。
神田連雀亭で、金原亭馬久アニさんと珍品の話題で気が合いますなんて語っていた。

そのぽん太さんが始めたのは、知らない噺。
これはまったく知らなかったので、帰りに受付に置いてあるネタ帳をチラ見した。「笑い茸」という。
亭主がまったく笑わない人。悩んだかみさんが医者にやってくる。
笑い茸を酒に浸して飲ませるといいと、もらって帰る。
笑うなんてはしたないことと言い切る亭主に笑い茸の酒を飲ませ、見事笑わせるのに成功する。

いにしえの芸協新作っぽい。実際に芸協新作ではなく古典の扱いのようだけど、でも空気が昔の新作。
談志がかつて出したらしい。
昔の新作落語というのは、ストレートに出すと、古典よりもはるかに違和感を与えるものが多い。
一見違和感のある噺を、スムーズにぽん太さんは語れてしまうから不思議。
古典落語としての腹で語っているからじゃないだろうか。珍品であることに逃げず、しっかり本質を捉えてみせる。
そういえば、こんな人が他にも思い当たる。芸協の三笑亭夢丸師。ぽん太さんも感性が似ているかもしれない。

笑いに抵抗を持つ亭主がついに笑いをこらえられなくなるのがハイライト。
結末は忘れてしまった。それでいいのだ。
楽しい一席。

3人目の二ツ目は、先日神田連雀亭で聴いたばかりの三遊亭らっ好さん。
前座から、すべて好楽一門である。
酔っ払いのお噂で。
太陽と月の酔っ払い小噺がウケて、替り目へ。こんな噺やるんだなと思う。
ベテラン向けの噺で、二ツ目さんはあまりやらないと思う。入船亭扇橋師は得意ネタにしていて、NHK新人落語大賞でも出していたが。
夫婦愛の噺で、難しいのは当然だろうが。
難しそうな噺なのに、見事に語るらっ好さん。

替り目は、大師匠好楽の得意ネタの一つ。らっ好さんも「元帳見られちゃった」まで入れていた。
だが細かい部分は相当違うので驚く。自分で作ったのであろう。

らっ好さんは落語界屈指のヨイショの達人。
だから、酔っ払い亭主に嫌みはない。終始ご機嫌である。面白いことをかみさんに言って楽しませる雰囲気が濃厚。
サゲ直前で、おでんを買いにいくかみさんに悪態を初めてつく。この必要な場面で初めてアレッと思わせる。そこまで威張っていないから。

車夫をからかって遊ぶ冒頭シーンは、「あそこの家の灯りを(邪魔だから)消すよう掛け合ってくれ」である。
地味に理屈が通っている。車夫は、まさか亭主の家とは思っていないわけだから、その家を夜中に叩くにあたっては明確な理由が必要なわけだ。
そして、亭主は車から勝手に降りない。勝手に降りたら危ないからでは。
かみさんが車に乗ったままの亭主を見つけるわけである。
既存の噺の不自然さが気になったら、放置しないで演者の納得いくように作り変えるのも大事だ。

亭主の独白に、「あんないいかみさん大事にしないと、俺たちが許さない」と友人たちがそう言っているというくだりがあった。
地味に人情漂う。細かいところまで気が配ってある。

亭主が江戸っ子江戸っ子だと威張るのでかみさん、「長崎出身じゃないの」だって。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. いつも楽しみに読ませて貰ってます。
    当日客席に居た者です。
    好青年さんの高座の半ばで鳴り響いたチャイムは、私の前の列に座る方のスマホ(or 携帯)から発していたようです。
    結構デカイ音で、あるいはこれも演出の一部だったのかもしれませんけれど。^_^;

    1. いらっしゃいませ。
      あれ、たまたまだったんですか?
      スマホ鳴らしちゃいけませんが、タイミング絶妙だったんでしょうか。

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