池袋演芸場29(中・芸協の誇る色物「ナオユキ」「坂本頼光」)

池袋でナオユキを聴くのは初めて。
改めて、この寄席は観やすくて、距離も近くていいなあと。

ところで芸人には敬称をつけるもの。色物だったら先生(例:ぴろき先生)だが、どうもナオユキにだけはつけられない。なにも侮ってるわけじゃない。

聴いたことのない季節ネタ「サンタクロースがやってくる」から。
途中で「サンタクロースはイカれてる」になっている。
サンタにかこつけたプレゼントの予算を気にする親のテキトーさ、そしてサンタ自体のトンデモさを語る。
誰にも見つからないようプレゼントを届けるのに、真っ赤な服を着て鈴を鳴らしてやってくる、不思議な一同。
やってられないトナカイは一杯引っ掛けて鼻が赤い。

このあとは、もうおなじみの酒場ネタ。
内容ほぼ知ってる。
知ってることが楽しみに影響するかというと、まるでしないのだった。
ナオユキの話芸は、わかっていてもタイミングをずらされ、裏切られる快感がある。落語のほうでは「間」というものである。
どんな舞台でも同じように、テープ回すように進める芸ではなくて、ライブ感満載。
予定調和など一切ない芸。
ツッコミ(というか独り言)ひとつとっても、その出し方は決まってない。
客の様子を隅々まで観察している細やかな芸。

この芸は、同じ小噺ばかり、同じクスグリばかり入れてくる凡庸な噺家が学ばなければいけないものだ。つくづくそう思う。

笑福亭里光師は珍しい、四人癖。
上方から直接来てるのか、あるいは雷門助六一門からか。
観て楽しむ楽しいビジュアル落語。
みんなで癖の直しっこをする、「のめる」より人数の多い噺。
先輩のことを語っていたマクラが思い出せない。

仲入りは昔昔亭桃太郎師。
なんでも、12日13日とテレビ番組の収録があるらしい。ここ池袋の高座を撮るみたい。
裕次郎物語を語るので、前日である11日は予行演習をやりますとのこと。

故郷・小諸で小学生時代に母を亡くした桃ちゃんは、不憫に思った父から小遣いをもらい、毎週映画館に通う。
あるとき脇役で、やたらカッコいい役者を見つけた。
この人はすぐ、太陽の季節で主役デビュー。石原裕次郎を最初に見出したのは私だ。

若い人からは、裕次郎ってカッコよかったですかと訊かれることもあるが。それは太陽にほえろや西部警察の、太ってからのイメージだ。
あの人は親分肌で、飲みすぎたのが短命の原因だった。

漫談だけ。歌うわけでもない桃ちゃん。
昔話は面白かったが、一席バカ落語を聴きたい気分でもあったが。

仲入り後の幕が開くと、高座のうしろのふすまが開き、壁がむき出しになっている。
たまに漫才師が、この後ろは壁なんだみたいな話をしているのは聴いたが、実際に開いたところを初めて見た。
活弁士、坂本頼光先生が登場し、「初めてご覧になったかもしれません。壁だったんですね」。

他の寄席ではスクリーンを持参するが、ここだけ後ろの壁に映写する。
なので、通勤が圧倒的にラク。
普段はスクリーンを抱え、そして着替えを持参するのがほぼ不可能なので、最初から着替えてくる。
夏は地獄の暑さ。噺家さんみたいに絽とか紗とかいう生地ではないのだ。
しかも、マクラを終えて脱ぐわけにもいかない。実際に脱いで見せたら、上のカフェ・ド・巴里の店員みたいでしょ。

当たり前のことで感心するほうが変なのはわかっているが、頼光先生「無声映画」と言う際の「が」が鼻濁音。
もちろん噺家と同様、後天的に学んだのだろう。

講談師がよく「冬は義士、夏はお化けで飯を食い」と言う。
活弁師は、なにしろ手持ちの無声映画が少ないので、年中やってます。

ホイッスルを吹くと、照明が消える。
今回の映画は、「血煙高田馬場」。バンツマ主演。マキノ正博監督。
一年前の浅草で観た演目で、その後浅草お茶の間寄席で流れた。被って残念とかそういう感想は別にない。
赤穂義士外伝、堀部安兵衛が中山安兵衛だったころの、高田馬場の仇討である。

グズ安こと安兵衛は、喧嘩の仲裁が飯の種。
今日も町人の喧嘩の仲裁に入って、たらふく飲み食い。喧嘩なんかするんじゃなかったとトホホな八っつぁん熊さん。
この喧嘩の吹き替えが、まんま落語。

往来で寝ている安兵衛を、駕籠に乗った叔父菅野六郎左衛が見つけ、起こして盃を交わす。叔父は決闘に向かう最中であるが、安兵衛には知る由もない。
長屋に戻って置手紙ですべてを知った安兵衛、高田馬場に駆け付け、叔父を切り殺した連中をバッタバッタと18人斬り。

爽快なチャンバラがあり、ちゃんと話としてのクスグリあり。フィルムと弁士で完成する、ぜいたくな一席。

プロジェクターを自分で持ち、延長コードを引きずりながら退場していく頼光先生。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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