国立演芸場寄席@内幸町ホール2(柳亭左龍「甲府い」)

流浪の国立演芸場寄席に出向く。
今年3席目である。2月にここ内幸町ホールで、そして雲龍亭雨花師の披露目を紀尾井小ホールで。

この席でなく、久々に立川流に行ってみようかと思った。本日木曜の立川流すがも寄席。
面倒な人もいないし。私の好きな志のぽんさんも出ていて。
でも、よく考えたら柳亭左龍師だって2022年の3月以来とそこそこご無沙汰であって。
結局水曜の内幸町へ。5日間の芝居の初日である。

頭から入って、左龍師の弟子・小太郎さんを聴こうかとも思ったが、国立といえば仲入り後3割引。
午後2時前に出向く。
ちょうど仲入りの古今亭菊志ん師が高座に上がっており、音声が流れているのをロビーで待ちながら聴かせてもらう。
マクラが長めだったみたい。粗忽のマクラをちょうど終え、粗忽の釘に。
本編全部聴けてラッキーだ。

粗忽の釘菊志ん
(仲入り)
手水廻し㐂三郎
やかんなめ三朝
ダーク広和
甲府い左龍

菊志ん師もご無沙汰しているが、勢いのいい語りは音だけでも実に楽しい。
菊志ん師、粗忽と勢いという、相反する要素を見事に両立させる。
勢いがいいのだが、粗忽なので話の中身が脈絡なく先走ってきて、隣人も混乱している。
いきなり隣家でもって、「風船がパチンパチン」とか「つーつーつー」とか、あとの話の伏線を語りだす八っつぁん(名前は出てないが八っつぁんだろう)。
風船は祭りの水風船で、かかあとの馴れ初めに出てくるのだった。
そして「つーつーつー」は、師匠・圓菊の十八番。たらいで行水し、夫婦背中を向けて石鹸でこすり合う楽しい遊び。
お互い前を向いてやってみたらえらいことになった。
音だけで、高座の上の所作を想像するのもなかなか楽しい。
何しに来たか一切語らないまま、かかあとののろけ話を延々続ける八っつぁん。それもやたら長い。
たらいの底まで抜けてしまう。

最近の粗忽の釘は、粗忽者に悩まされる隣家をどれだけ深く描くかでみな勝負している気がする。
菊志ん師は、むかし風の記号的な隣人。
流れるような語りには、こちらのほうが向いているのでは。
打ち込んだ釘は、仏様の喉からこんにちは。

「あしたっからここにホウキ掛けに来なきゃならない」
とサゲたので、受付をしてもらう。
事前に新橋駅のATMで2千円下ろしたら、どちらも新札だった。
完全キャッシュレス派なので新札初めて見た。しかし、その2枚をじっくり眺めもせずあっさりここで使ってしまい、460円お釣りにもらう。
新札なんか持ってたら、現金使わざるを得ないとき、対応してなくて困るに違いない。
国立本場だと、仲入り後入場の場合もキャッシュレス対応してたんだけどねえ。

幕が上がると主任の弟弟子、柳家㐂三郎師。いつものようにVサイン。
今月池袋下席では、念願の主任である。
平日昼間からありがとうございます。
国立演芸場は、建て替えのため閉めて、その後なにも始まりません。あれから何年経ったんでしょう。
あの地から芸人を追い出すのには成功したようですが。
渋谷のなんとかホールとか、あそこのなんとかとかいろんなところでやってますが、内幸町ホールが一番ですよ。この中途半端な客席の暗さがね。

どうせならこの芝居ももう一度ぜひお越しください。
予定があってこれなければお友だちを騙して。

本編は手水廻し。最近流行っているのかね?
ただ、人をかなり選ぶ噺のようだ。アホな状況を気楽にスケッチできる人がいいが、㐂三郎師はぴったり。
ちょっとうとうとしてしまったのだが、気づくと頭の長い男が一生懸命振り回している。よくウケる。
ちょうずがわからなくてわざわざ大坂まで出向く主従を、マジにならずに見守る視線があっていい。

次は春風亭三朝師。温水さんに似ている。
やかんなめ。
これでNHK獲ったんだよなあ。相変わらずこれか。
いや、いいデキですけどね。どんどん軽くなっていて。
人情味と、困惑と、屈辱と、いいことをした爽快感と、すべてがバランス良く詰まっていて。
でも、マクラがありきたりすぎるなあ。
ちなみに「三朝」は今後「みささ」で変換することにした。そのほうが早い。

ダーク広和先生は、中盤からいつも少しずつ違うのがいい。
お客さんにトランプ3枚抜いてもらうのに、抜いてもらった3枚がどんどん増えるマジック。
「落ち着きゃ一人前」なんだそうだ。

ちなみに、高座返しは長身の三遊亭東村山さんだ。
この日は前座として高座にも上がったみたい。私は昨年、この人の前座独演会に行ったのである。
新作期待のホープ。

主任の左龍師登場。
私が終わると皆さま解放されます。
いつもこんなこと言っていますが、いったいなにから解放されるんでしょうね。
内幸町ホールは、同期・三三師とのネタおろしの会の会場。ここに上がる際はいつも非常に緊張している。
なので今日は別にネタおろしじゃないのに、なんだか緊張しますとのこと。
どうぞゆったりお付き合いください。
よく身を乗り出して聴いていらっしゃる方もいますが、それほどのものじゃないので。
どうぞ背もたれに背中を付けてくつろいで、目を閉じて、おやすみください。

袖擦り合うも他生の縁を振って、甲府い。

初日なのに地味な噺だなと思ったが。
左龍師、ひたすらイイ噺を堂々語る。ユーモアは濃厚にあるが、ギャグはまるでない噺を。
強調するシーンがまるでない。いや、これは意図してすべてのシーンから濃厚なやり取りを抜いている。
いい人たちが記号になった噺。
しかし物足りなさはなくて、むしろ突っかかるところがまるでないそのスムーズさ。
いいなあ。

主人公善さんがおからについ手をつけてしまい、ポカポカやる金公なんてほんとに影が薄い。
娘のお花だって影が薄い。
ここに演者の明確な意図を感じるのだ。
客の鑑賞の邪魔をしない。客に押し付けない一席。高い文学性まで感じる。

「とうふー、ごま入り、がんもどき」の節が、知っているメロディ濃厚なものと違った。
そして最後のがんもどきは引っ張らず、スパッと切ってしまう。

悪人のいない幸せなストーリーはどんどん進み、いよいよ甲府に出かける朝。
やってきたときに二升の飯を食らっていた善さん、もうそんなに食わない。
親方が、こう伸びあがって、下に落としてみねえな。
なに、茶筒じゃありません?
はは、茶筒じゃねえんだから。茶筒。
ひとりウケている親方が、ウケながら一瞬グッと感極まる。ここたまらない。

実に楽しい2時間であったが、極めて軽めのそのもよう、今日1日で終わってしまう。
楽しかったですがね。

作成者: でっち定吉

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