鈴本演芸場10 その2(柳家小平太「おすわどん」)

三遊亭歌武蔵師は、喬太郎師と「落語教育委員会」を組んでる仲間なので顔付けされてるのだと思う。
もちろん柳家でも古今亭でも、どの芝居に出ていてもおかしくない実力派の師匠だが。

ただいまの決まり手から、「本名松井秀喜と申します」。
ただ、最近松井さんをテレビでお見掛けすることがなくなりまして、だんだんこの挨拶もピンと来なくなったようですと断って、改めて。
「芸名を三遊亭歌武蔵、本名を石破茂と申します」。
まあ、短命政権でしょうからすぐ使えなくなっちゃいますけどだって。

猫の皿だが、これがまったく例を見ない一席で。
登場人物二人のこの噺をやる人は、噺のどこかに必ず手を入れる。現代ギャグもよく入る。
だが、歌武蔵師の手の入れ方は、古典落語の代々積み重なってきたクスグリを一から作りあげたというムード。
どこかにありそうでない一席。

茶屋の爺さんが、常に客をちょっとからかう人で、たまらない。
茶屋の前は絶景。小川が流れていて、銀砂なのでキラキラ反射している。だが魚がいない。
魚が棲まない理由があるのではと爺さんに訊くが、大丈夫です。この茶の水を汲んでます。
こんなの私は聴いたことがない。
サゲは非常にウケていた。

続いて、もっと聴きたい柳家小平太師。らくごカフェや墨亭に行けば聴けるが。
大勢のお客さんがお越しなので、せっかくなので怪談噺をしますとのこと。

こんな出番で怪談? なんのことはなくて、おすわどん。
正蔵師に教わったのかなと思ったのだが、展開が違う。
おすわは女中上がりの後妻ではなくて、妾。最初から本妻の勧めにより家に入ったという設定。
なるほど、話が早い。
本妻がおすわを妹のようにかわいがったのも事実だし、いっぽうで深い恨みがあると、おすわがじわじわ感じていても無理はないのだ。

とはいえ本妻が亡くなってからは一緒。
奉公人がみなビビりなので、夜な夜なやってくる「おすわどーん」の声の正体を確かめられるものがいない。
なので長屋に住むご浪人に頼む。この肝の据わったご浪人の、時代劇っぽいくだけた造形がたまらない。

「おすわどん」の正体がわかってからはスラスラと、サゲに向かう一般的な滑稽噺になる。
「手打ちになさいまし」というサゲが、猫の皿に次いで非常にウケておりました。
小平太師の売り物になりそうな見事な一席でした。

ロケット団。
いつものネタだが、「〇〇ハラ」シリーズに「ミズハラ」が加わっていた。
アルハラのように、イヤだイヤだというのにギャンブルを無理に勧めるハラスメントだそうだ。
あの事件のときに、すぐ思いつかなかったのがなんだか悔しい。
「キヨハラ」「マキハラ」はもうなかったけど。

水原一平氏の学歴詐称から、カイロ大学に持っていく荒業。
「小池さんもカイロ大学出てませんからね」
このあとちゃんとツッコミで否定しているところは大事だと思う。放置すると一部の客が変に喜ぶ。
三浦さんがやたらと「ユリコが」。「お前の女みたいに言うな」。

デコピンのネタから、倉本さんが「お犬様じゃねえんだよ。義経か」。
いや、綱吉だろ?
この言い間違えはスルーされてしまった。
仲入りのトイレ休憩確保と、客がぞろぞろ入ってくるから高座の切れ目を始めにくい理由からか、この日の色物の持ち時間はとても短い。

次の百栄師が、完全漫談パッケージでちょっと残念。
まあ、昔からこの師匠は鈴本ではこうだった。ブログ始める前も、期待して何度ガッカリしたか。
いつも「日本一汚いモモエ」から始まる自己紹介が長い人だが、今日はもう、漫談で終了だなと気づく。
なにしろ、浅草お茶の間寄席の収録ですらこんなことやる人だ。寄席の流れを重視しているのには違いないが。
浅草お茶の間寄席で、完パケ漫談高座に「夫婦でドライブ」というタイトルが付いていたのを思い出した。ネタ帳にはこう書かれるのだろう。
でも、すごくウケてた。文句は言いづらい。
ただ、漫談やるなら繰り返し聴いてる客にもウケさせてほしいなと。馬風師や、先の歌武蔵師のような。

仲入りの権太楼師は、学生時代に聴いた9代目文治の話。留さんの文治。
モノマネ入りの挨拶に、前にいたアベック(死語)の女が言う。
「みじめね」「どうして」「こんなトシになって働いて」
私もそのトシになりましたと権太楼師。

ツカミはいいけど、悪い予想通り代書屋。
ヒザ前だと当然のように代書屋のことが多いが、仲入りもか。
というか、以前トリで代書屋だったことすらあるけど。
さすがにもううんざり。別に完成したあとでさらなる進化を遂げてるわけでもなく。
根本的なこと言っちゃうと、代書屋が上目線過ぎるのもあんまり好きじゃない。

というわけで、ああ鈴本だなあという悪いほうの印象が、久々に、濃厚についてしまった。
寄席は初心者向けだからこれでいい? そうかもしれないが、池袋は全然そうじゃないしな。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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