復活した落語百科事典、「と」の巻の2回目です。
「と」から始まる用語は非常に多く、スラスラ作れたのだがその分抜けがあった。
「どきょうてい」まで行ってしまったが、3つほど戻ります。
胴斬り
ごくマイナーな上方落語。辻斬りに上下真っ二つにされてしまうが、なんとかなるのんきな噺。
東京でもできる噺だが、聴いたことはない。設定が似ている首提灯もめったに掛からないけども。
斬られた上は銭湯の番台勤めとなり、下はこんにゃくを踏んでいる。飯も食わずにこんにゃく踏むので雇い主は大喜び。
胴斬り、マイナーな噺でもドラえもんのエピソードの元ネタになっているのである。
ものぐさなのび太が分かれた下半身に仕事をさせるが、いいようにお使いに使われる下半身がやがて自我を持ってくるという。
本家のほうは屁で会話ができるようになった下半身が上半身に、あんまり茶ばっかり飲むな、小便が近いというのがサゲ。
「あんまり女湯覗くな。突っ張って仕方ない」というサゲもあった記憶があるのだが、これは艶笑小噺だったろうか?
東京タワーラブストーリー
柳家喬太郎の新作落語。自作ではなく、落語協会台本募集の作品。
CD「アナザーサイド」の1巻にも入っている(タイトルは東京タワー・ラヴストーリー)。
東京タワーの展望台でもって地方の女の子が東京を踏みつけてやるバカ落語だが、でっち定吉は感情をむき出しにした人情噺だと捉えている。
唐茄子屋政談
落語の若旦那はだいたい親のカネを使いまくっていい気なもんだ。勘当されても二階に厄介になってるし(船徳)。
落語には珍しく、勘当されて困窮するリアル若旦那を描く噺である。
なじみの花魁にも体よく追い出され、食うものもなくて身投げしようとするところをおじさんに助けられる。
寄席のトリではおおむね吉原田圃を見ながら売り声の稽古するところで終わるが、落語会だと最後まで掛ける。
あとのエピソードは少々陰惨なところがあり、個人的には田圃で終わるのも好き。
徳ちゃん
なかなかレアな廓噺。柳家さん喬、桃月庵白酒が持っている。
実際の噺家のエピソードからできた噺のはず。
ヒザ前あたりで出せる廓噺は少ないので貴重だ。他には辰巳の辻占ぐらいじゃないかと。
下の下の遊び場を描いた噺。ここにいる女郎はもう、化け物レベルにすごい。
落語は、どんなすごい体験で取り込むのだった。
女流落語家も私の期待通り廓噺をよく手掛けるようになった。女性にしか出せない花魁のすごみというものもあると思う。
徳ちゃんやる女流が早く出てきて欲しい。
時計
寄席には必ず、演者から見える位置に時計がある。
これを見ながら噺の時間を調整するのがプロの仕事。
目が悪くて時計が見えない人もいるはずだが、この場合「この噺なら何分」と把握しているはず。
漫才のエルシャラカーニは、「堂々と時計を見る」というギャグを入れていた。
都電荒川線
都電荒川線ではたまに「都電落語会」をやっている。
もともと故・林家こん平の企画であったが、現在も現役。以前は小遊三師など出たはずで、笑点特大号でも特集されていた。
現在は二ツ目の会になっている。
電車に乗って落語を聴く粋な遊び。
そもそも荒川線沿線は妙に落語を聴ける場所が多い。梶原いろは亭、北とぴあ、巣鴨スタジオフォー、サンパール荒川、町屋、雑司が谷地域文化創造館。ばばん場も最寄りは都電。
先日都電に乗ったら、梶原いろは亭の案内が流れていた。
落語というものが、都電のある庶民の生活に似つかわしいことを語っているのかもしれない。
トナラー
自称百科事典に書くようなことじゃないが、先日ガラガラの席でもって、いきなり隣に座られ大変驚いた。
速攻場所移したけど。
パーソナルスペースに侵入してこないでください。
殿
落語には殿さまもよく出てくる。
架空の名前がついた殿さまは、赤井御門守。用人はだいたい、三太夫さん。
実在の殿さまだと、細川越中守。落語ではだいたいふんどし扱いされている。
伊達の殿さまも登場するが、これは「高尾」に絡んで。
あとは小田原の、大久保の殿さま。抜け雀に登場する。
いちばん偉い殿さまの出てくる噺は「紀州」であろう。なにしろ主人公は尾州公徳川継友。
戦国時代が舞台の珍しい噺が、「荒大名の茶の湯」(荒茶)。出てくる人が、加藤清正、福島正則、池田輝政、浅野幸長、加藤嘉明、黒田長政、細川忠興とオールスター。
とは
「千早ふる」の登場人物、千早の本名。
登場人物といっても、隠居のでたらめ話に出てくるだけだが。
千早は吉原で飛ぶ鳥を落とす花魁だったのに、なぜか3年経つと乞食になっている。
「とは」は昔は本名だったのだが、今は戒名のことが多い。
最初に戒名にしたのはなんと三遊亭円丈だったそうで。
千早ふるについては、次の「ち」でしっかり取り上げる予定です。
「と」の巻はもう1回続きます。