小助六師の禁酒番屋は、刃傷沙汰のくだりが詳しい。
酒屋に近藤さまが現れ、5合の酒×2を一気飲み。この際、ぐびぐび喉を鳴らして非常においしそう。
こんな器用なワザは初めて見た。ちなみに、徳利の栓を開けるときの「ポン」も口でいい音を立てている。
取り調べの役人の、水カステラに喜ぶ様子が実にわかりやすい。
最後のしょんべんのくだりは、東京には珍しく女にも入れさせている(かどうかはわからない)。だが品位は維持している。
水カステラと油でもって、役人の意地汚さが十分伝わっているところに小便が届くので、もう会場バカウケ。
古典落語の楽しさを十二分に味わわせてくれる一席でした。
いい客なのに途中携帯が鳴ってたのだけはいただけない。
最後に小助六師、立ち上がって襷掛け豆絞り、赤い蹴出しで粋なかっぽれを披露。
仲入り休憩時に、紙切り用にスクリーンを設置する。
途中、林家楽一師が「まだですよ」と客に断りながら高座に出てきて、セッティングを成幸さんと打ち合わせていた。
紙切りの注文は子供を優先。
最初のほうで「うさぎ」など動物が出てしまい、その後はずっと恐竜とかペンギン、猫など、動物シリーズになる。紙切りあるあるであろう。
「恐竜」には、頼んだ子供を、恐竜から逃げる様子として入れてくれる。
子どもたちが紙切り作品をもらい、嬉しそうにしていて、大人たちもまたよかったねと喜んでいる。
実に幸せな空気が漂う。楽一師はこういう空気を作り出すのが本当に上手い。
大きな声を出すのが恥ずかしい子供に配慮し、近くまで来て小声で教えてと伝える。
切りながらの漫談に、最高齢の紙切りの師匠が、「ウェディングドレス」を聞き違えて「梅にうぐいす」を切ったネタがまだ入っていた。
師匠・正楽が亡くなってもまだやるんだ。なんだか嬉しくなってしまった。
楽一師は、トリの蝠丸師と作り出す空気が似ている。
協会違いの実にいい組み合わせ。顔付けの妙と言えましょう。
トリは柳家蝠丸師。
出てきてすぐ、紙切りについて触れる。すごいですねと。
こないだ、最前列に親子が座ってたんです。紙切りの師匠がお子さんに何切りましょうかと尋ねますと、その子が答えて「親子の縁」。
つい先日も聴いた、電車で席を譲られたマクラ。
どこからどう見てもお爺さんなのに、お爺さんに見られてショックというネタ。
先代桂文楽の絶句のエピソード。
登場人物が出てこなくて、「勉強し直してまいります」と語り、そしてそのまま引退してしまった。
ちょっと間違えただけで引退なら、今日出た全員引退です。
これは「名人」のフリ。
甚五郎ものの珍品「叩き蟹」であった。昨冬の池袋で聴いたネタだけど。
しかし、被ってまったくイヤじゃなかった。もう一度聴いてもいいネタだったのもあるが、わずか1年でパワーアップしていたから不思議である。
故・圓窓から教わったと思われる。そうするとだいぶ以前に教わったのだと思うのだが、でもパワーアップしていたように思う。
どこが、ということでもないのだけど。
冒頭から蝠丸師の語りが、実に心地いい。改めて気づいたが、これはまんが日本昔ばなしの口調である。
話の中身の前に、その語りに身を委ねるだけで非常にくつろぐのであった。
おかげで蝠丸師は、それほど強いギャグを入れないのに客を退屈させない。
餅屋で坊やが万引きを働いたので、店主に咎められているところに左甚五郎がやってくる。
甚五郎が坊やに尋ねると、気の毒な身の上。産後の肥立ちが悪く母親は寝込み、大工の父親もまた、転落事故がもとで傷が化膿し寝込んでしまう。
近所の頼みを長子である坊やが引き受け、一家を支えているのだった。
甚五郎は亭主に許してやったらどうかと持ちかけるが、「情けは人のためならずだ」と答える店主。
甚五郎はことわざの意味を訂正するのはやめて、自分は火付けが趣味だと亭主を脅す。
故郷を出るときに、自分の家に火を付けてきたぐらいだ。
結局坊やのおみやを含めて甚五郎が面倒を見ることになるが、一文なし。カタとして、木彫りの蟹を作って置いていく。
店主が腹立ち紛れに蟹をひっぱたくと、木彫りなのに前に向かって歩き出す。
2年経つと、餅屋は大盛況。行列が日本橋から武蔵小杉まで伸びた。これはサービスですとのこと。
蟹のおかげである。今では「情け餅」と呼ばれている。
ライバルの幾代餅が商売あがったりなんだそうだ。落語に詳しいお客にしかわからないね、でもそんなのが我々の楽しみなんだ。
2年振りに現れた甚五郎、餅屋が本来の意味で「情けは人のためならず」を実行していたので喜ぶ。
みんながこんな気持ちになれば紛争はなくなるのだ。これを今度自民党の先生方に伝えるんだそうだ。
彫った蟹は餅屋に譲る。将来令和の時代が来たら、お宝探偵団でいい値がつくだろう。
ちょっといい話の叩き蟹は、ますます日本昔ばなしっぽい。
実に楽しい2時間でありました。
来年以降もいい顔付けだったらまた来たいものです。