昇太師は新作・宴会の花道。
披露目の弟子が古典専門なので新作を出したのだと思う。いにしえの作品。
音源だけは聴いたことがあったか。あるいは速記本だけかもしれない。
昔の作品だが飲み会における飲酒強要がテーマ。実に先見の明がある。
強くもないのに飲まされて、そしてあろうことか「飲んだら吐くな」。
こんな飲み会は嫌なので、部長に提案して各自好きなものを注文する会費制の飲み会にする。
部長も、二次会三次会と延々続くのに辟易してきたから賛同。
しかし5,000円の会費で、アルコール抜きで好きなものを注文するとなると、すごい量。
部長の好きなショートケーキもそうそう食べられない。なので結局人に押し付ける。
こういう新作落語、架空の状況を描くわけだから、どこかに無理が生じるもの。
それはまあ仕方ない。多少の無理は承知で楽しむ。
だが、さすが新作レジェンドのひとり昇太師の作品は、驚くほど無理がない。世界が実に自立していて。
これ、研究してみる価値がありそう。研究して面白いものが書けるかどうかはさておき。
ひとつ気が付いたことを言うと、「登場人物がみな60%のリアル」。
成立させるのが見事だが、40%を埋めないので「リアルな人間として成り立っていない部分」も存在しない。
サゲも綺麗。
新作落語の本寸法であるな。本寸法なんていうと混乱するが、王道である。
仲入りは、落語芸術協会参事の三遊亭小遊三師。出囃子はボタンとリボン。
昇太師も小遊三師も、池袋で聴いたことはなかったかも。一番よく来る寄席なのに。
超ベテランのたたずまいは美しい。
先に出た昇太師のことを。
しょっちゅう笑点で会ってるから、楽屋で会うと照れるね。
あれはね、独身で、自分で好きなだけカネを使えるというのが唯一の自慢だったんだよ。
結婚してる先輩たちに向かって、皆さんは奥さんに半分持ってかれるから、かわいそうですねって。
半分じゃねえよ、全部だよ。
そしたら結婚してね。
奥さん、宝塚だよ。すごいよね。
でもうちのかみさんもすごいよ。結婚前、宝くじ売ってたからね。似たようなもんだよ。
昇太は結婚より前だけど、弟子も採るようになってね。
今日はその弟子の披露目でね。
披露目だからね、めでたい噺をしたいんだけどね、そんなにはないんだよ。
奥さんへののろけがつながって、なんと短命。
人が死ぬ噺のどこがめでたい? いや、短命でなく演題は「長命」なんでしょう。
同じ噺だけど。
一度円楽党の披露目で、やはり短命が掛かるのを聴いたことがある。
披露目のワキで出るめでたい噺というと、一般的には「一目上がり」「黄金の大黒」「寿限無」「ざるや」ってとこか。
小遊三師の長命、聴いたことがあったかどうか。
設定は他で聴いたことがないもの。でも、きっと昔からあるんだろう。
「短命だよ」と訳知り顔のほうは、隠居ではなく仲間。ちょっとだけ歳が上と思う。
そして、別に悔やみを教わりに出向いたわけじゃなくて、往来でばったり。不祝儀なのにニヤニヤしてる男(たぶん、植木屋)を見つけて声を掛けたのだ。
圓太郎師から、これと通常の短命の中間のような、往来で隠居が声を掛けるというものを聴いたことがある。
小遊三師は世間のイメージとは異なり、エロな噺はほぼしない。「汲みたて」ぐらいだと思う。
この長命が、一番エロ。いや、全然下品じゃないけれど。
2番目の丈夫な亭主が、ボビー・オロゴンみたいな丈夫な男。なんか悪いことしたらしいねと。
この丈夫な男が、みるみる衰えていったのだと。
小遊三師の噺は、もうひとつ押せるところを押さないという印象。江戸前だ。
だから「爪の間から毒が」はあったけど、コタツでもって「足の先から毒」はない。その一歩前でさすがに気付く。
わからない男をいつまでも楽しむ噺じゃなく、ちょっと色っぽい。
あー、俺は長生きだ。
よくよく考えたら、仲入りで短命は軽い。
でも振り返って、物足りなさのかけらもない。やっぱり強く押し切る手前で成立しているからだ。
つくづく大変な噺家だと思います。
仲入りの間も客がどんどん押し寄せ、平日昼間でも大盛況。
幕が開くと口上。
下手から、こう。
- 昔々亭慎太郎…司会兼師匠の代わり
- 昔昔亭喜太郎…新真打(本日のトリ)
- 春風亭昇吾…新真打
- 春風亭昇太…落語芸術協会会長兼新真打の師匠
- 三遊亭小遊三…落語芸術協会参事(元会長代行)
人数的には、もうひとり並んで欲しい気もするが、上手の二人がビッグだから釣り合い取れてるか。
喜太郎師は、師匠桃太郎が亡くなり、兄弟子のもとに移籍はしなかったそうで。
それでも兄弟子が師匠代わり。
慎太郎師の司会、なかなか面白いものだった。
昇太師が司会の発言にウケて笑顔を振りまき、そして小遊三師が不思議なたたずまいでそこにいるという、魅惑の口上。
続きます。