アニメ「昭和元禄落語心中」第三話に出てくる落語につきいろいろ書いてみます。
子ほめ
初高座でウケなかった噺。初太郎と差が開いて焦っている菊比古は、またもがんばって稽古している。
初太郎からは、師匠の言いつけどおり無理に声を張って喋らなくても、色っぽい噺のほうが向いているのではないかと言われるが、「前座噺もおぼつかないのに」と返す菊比古。
この後で廓話の稽古を始めた菊比古だが、時節柄、「明烏」などが「禁演落語」として「はなし塚」に封印されてしまった。
これは歴史的事実である。廓噺・艶笑噺だけでなく、「六尺棒」のような親不孝の話も封印された。「不動坊」「引越しの夢」などは不謹慎だからでしょうかね。
黄金餅
高座の「あまりうまくない」師匠に併せて、ちょうど稽古中の初太郎が楽屋で言い立てを被せている。
「黄金餅」といえば、ピカレスクな噺の本筋に負けず、葬礼道中の言い立てが有名だ。
なぜ、人は言い立てにしびれるのでしょうかね。
その効果を狙って新作落語でも入れてる師匠がおいでだ。柳家小ゑん師の「ほっとけない娘」とか。
あくび指南
七代目師匠について満州に慰問にいくことになる初太郎。
しばしの別れとなる菊比古からせがまれて子守歌代わりに喋る初太郎。
指切りしたふたりの間にセクシュアルな空気が漂う中、別れを惜しむには、いささかのんびりしすぎた噺ではある。
疎開中の菊比古も、離れた初太郎を思い出し寝床でさらっている。
あくびの稽古を習いに行くという、いかにも落語らしい浮世離れした噺だが、終戦で訪れた平和を象徴しているといえなくはない。
満州慰問には、古今亭志ん生、三遊亭圓生といった人たちも実際に行き、それは苦労したらしい。
昭和の名人圓生師匠も、満州で苦労してから急にうまくなったとか。
庖丁
七代目師匠の引上げを待つ菊比古が、お座敷で演じている。
サゲの「横丁の魚屋にけえしに行くんだよ」だけだが。
師匠不在の中、こんな噺ができるようになるとは菊比古、ずいぶん稽古したことがうかがえる。
新しい嫁に替えるため、今のカミさんを追い出そうと間男をでっちあげる計略をこらすものの、結局送り込んだ悪友が全部白状してしまって失敗するという、よく考えればひどい話。
計略だから本当に酔ってはいけないが、酔ったふりをしないとおかみさんには近づけない。難易度の極めて高い噺である。
圓生が有名だが、You Tube で聴ける噺では、桂文珍師の「庖丁間男」が人間のひどさをマイルドにしていて個人的には好き。
サゲの持っていきようは、大団円と思いきや、一瞬ドキッとさせてホッとさせる。「岸柳島」と同じ趣向。
蛙茶番
菊比古のナレーションにかぶさってなんの噺を掛けているのかよく聴こえないのだが、
「釜持ってくう? ふんどしの入れ替えに釜持ってくなんざ、縁があっていいや」
だけわかった。これでようやく「蛙茶番」(かわずちゃばん)と判明。
別に色っぽい噺でもなく、なんで菊比古が座敷でやっているのかよくわからない。
初太郎がやるならわかる。
まさか、菊比古と初太郎との関係を「オカマ」で暗示しているいたずら?
以下補足です。新たに調べました。
なぜ、菊比古が「蛙茶番」をお座敷で掛けているのかと書いたのですが、これも「はなし塚」に封印された「禁演落語」だったからですね。
「庖丁」もそう。
「庖丁」は間男噺だからNG。
「蛙茶番」のほうは、現代基準からは禁演の理由がもうひとつわかりにくいけど、要は下品すぎるということですかね。
禁演落語が解禁されたのは、昭和21年9月30日。終戦の1年後。
菊比古がお座敷で掛けているのは、まだ解禁前なのでこっそりやっていて、お客もそれを望んだということのようです。