春風亭一之輔「笠碁」(上)

笠碁/夏泥

毎日やってる春風亭一之輔師の配信。楽しみに聴かせていただいてます。
どこでやってるのかと思ったら、らくごカフェだったのか。8日目にそう言ってた。たまに行くのだが全然わからなんだ。
5日目以降の演目を予想したところ、早速5日目が見事「青菜」で的中。
さらに期待したところ、6日目は「らくだ」。これは10日目の演目として予想したのだが繰上げ。まあ、準的中。
続けてどうだろうと思ったら、7日目は「笠碁」で外れ。
8日目は「鰻の幇間」で完全ノーマーク。この季節のものだ。
この配信は、初日のように時間無制限でやるのかと思っていたが、らくだは途中までだった。
一之輔師のらくだは、5日目までのバカ落語の系統に入れると、ちょっと違うかな。
この噺における「暴力性」の見事な扱いについて、ずっと感服し続けている。いずれ当ブログで取り上げようと思って久しい演目なのだが、取り上げるにしてもこの配信からではないと思う。

さて、7日目に出した笠碁が今日のテーマ。こちらには、いたく感銘を受けた。
6日目まで、コロナを吹き飛ばすバカ落語を続けたので、一之輔師もちょっと変えてみたくなったのでしょう。
ちなみに一之輔師の笠碁、持っていたのは知っていたが、聴いたことはなかった。
ゴロウ・デラックス」で一之輔師を取り上げた際、「春風亭一花二ツ目昇進記念公演」でこの演目を選んでいる師を映し出していた。

すでに桂宮治さんが笑わせた後だったので、人情噺を選ぶ師に焦点を当てるTBS。
この会を観にいった人のブログに、「一之輔らしさが出ていない」なんて書かれていたのを思い出す。
わかってないねえ、なんて思いつつ、私自身は聴いたことがなかったのだけど。
でも、「一之輔らしさ」なんてわざわざ言う人がいるところを見ると、きっと、笠碁はしっとりした演出なのだろうと思っていたが。
実際今回聴くと、まるでそんなものではなかった。師自身が一席終えてから、今日は静かな落語をしようと思っていたが、結局私の落語はうるさいですねとコメントしていたぐらい。
でも、骨格はちゃんと人情噺。
一之輔師、自分で語っていたが、噺によっていじりまわしてしまうか、教わった通りやるかを変えるそうな。
笠碁については、ちっとも教わった通りではない。といって、ギャグまみれにしたわけでもない。
ワンアンドオンリー。ま、この人のは全部そうか。
この人の落語は、新作落語の世界の上に載っているというのが私の見立て。なんだか実際、笠碁の人情が、新作落語の人情噺みたいなムード。

この日もマクラは絶好調。
笠碁のテーマ「退屈」の伏線として、コロナ禍の一之輔師の家庭の話題。
それから、一朝師に弟子入りしたときの話。
これは、大学卒業後の、ちょうどこの季節のことだったから。この楽しいマクラについては、何度か聴いたことがある。
その前にもうひとつ、「サザエさん一家がGWに動物園に出かけたので炎上」したというエピソードを引っ張ってきたのがすごい。
日曜日のオンエア直後に炎上があり、炎上したことをもって月曜日の高座に掛けて、爆笑を取るのである。アドリブみたいなもの。
サザエさんの世界なんか、いまだにテレビが家具調なんだよ、三河屋さんが御用聞きにくるんだよ、だからいいじゃないかだって。
ネタの引出しが多いから、なんだってギャグにできる。ラジオで鍛えた腕もそこにある。
人情噺をやると決めたので、その前にたっぷり笑わせることにしたらしい。磯野家の便所の様子まで想像して爆笑もの。
最近の噺家の不安をちょっと語って弟子入りの話をよみがえらせ、そこから最後にもう一度家庭の話題を持ってきて、本編につなげる構成は見事。

笠碁は、柳亭小燕枝柳家小里んという、先代小さんの弟子のものが私は大好き。
笠碁という噺は、「友情の破綻と再生」といった、壮大なテーマとして扱うことが多い気がするのだが、この師匠たちのものはとても軽いのだ。
特に小燕枝師のもの、仲直りのハードルがやたら低い。劇的に描かず、隠居たちの喧嘩を日常的に描く演出にいたく感動したものだ。
橘家文蔵師のものも、あのいかつい師匠に似合わず、端正なものだった。あれもまた、柳家から来ている笠碁だろうか。
他に笠碁は、金原亭の系統もある。当代馬生師も、日本の話芸で最近掛けていたっけ。
一之輔師は文蔵師と同門だが、笠碁についてはどの師匠から教わったのだろう。「(嫁の)おっぱいがでかいと思って」というフレーズがあるので、金原亭系統なのかと思わせる。
もっとも、独自のギャグが多いから、教えた人の噺を聴いても気づかないかもしれない。

今回は、「千早ふる」のときのように6日もダラダラ続けません。次かその次で終わりますのでどうかお付き合いのほどを。

続きます。

 

あくび指南/そば清/目黒のさんま/笠碁/幾代餅

作成者: でっち定吉

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