用賀・眞福寺落語会(上・柳家り助「子ほめ」)

またしても続き物をぶった切って現場の模様を。

昨日14日はいったんは埼玉・本庄の「柳家喬太郎・春風亭一之輔二人会」に行こうなんて考えたが、やめた。
ところで、当ブログを読んで「なんだ案外安く行けるんだな。じゃ行ってみようか」と思って実際に行ったという方が、もしいらしたら嬉しい限りです。

実際に行くつもりだったのは、雑司ヶ谷「拝鈍亭」。浪曲の玉川太福師匠を聴こうと考えていたのだ。
だが当日、東京かわら版を再度めくっていたら、頭の片隅にはあった「眞福寺落語会」が気になってきた。
浪曲もいいが、落語はさらに好きなもので。そして、昼間という点もいい。
拝鈍亭もお寺だが、結局用賀の眞福寺へ行先を替える。初めて行く場所だ。
今回の顔付けは、柳家権之助、柳家㐂三郎、柳家り助の3人。なかなかいいじゃないか。

先日、「売れる真打を予想する」と題して、昇進後間のない人の将来性を勝手に論じた。
その中に権之助師も挙げたのだ。挙げた以上、責任がある。ような気がする。
㐂三郎師の名は挙げていないのだが、明るい高座のこの人、嫌いではない。真打になってから聴いていないし、いいだろう。
拝鈍亭は1時間半だが、こちら眞福寺は2時間半取ってある。そんなにやるとは思わないが、これは二人会らしいなと。
たっぷり聴けていい。

ただし、この会に来たので水曜のスタジオフォー、巣ごもり寄席には行けない。
「吉笑・朝枝・福丸」というすごい顔付けで、先月から楽しみにしていたのだが、仕事しなきゃ。

眞福寺落語会は、無料。ご浄財をお願いしますと東京かわら版には書かれているが。
無料の会、本当に久しぶりだ。平和な時代が蘇りつつある。今後どんどん増えていって欲しいですね。
眞福寺は用賀駅からすぐだった。
真言宗のお寺で、Wikipediaにも項目が建てられている名刹。おんあぼぎゃ。
弘法大師のお導きです。

お寺には、どこでやってるともなんとも案内が出ていない。本堂を覗いたら、ここだった。
お客はつ離れしている。まあ、盛況でしょう。

時間になると権之助師が登場。この人も頭をごく短く刈っていて、お坊さんのようだ。
久々の会で、初めての方もいらっしゃるでしょうと、簡単な案内。トイレの場所と、この日の顔付けについて。

子ほめ り助
時そば 㐂三郎
天狗裁き 権之助
(仲入り)
真田小僧(通し) 権之助
試し酒 㐂三郎

 

り助さんは前座。協会を問わず、現在の前座の中で私がもっとも期待している人でもある。
コロナのため、二ツ目昇進が延びているようだ。下があまり入ってこないから、立前座がワリを食う格好ではある。
前座期間、3年半ぐらいの人もいるのに、扇ぽう、まめ菊、り助の3人はもう4年半前座をやっている。
実力とは全然関係なく(3人とも上手い)前座が長くなる不条理だが、でも前座とは、修業に絶好の期間ではあるな。

り助さんは、「噺家になるのを親に反対されてます。師匠にも反対されています」と挨拶から。
世辞愛嬌を振って、子ほめ。
いきなり八っつぁんが「タダの酒飲ませろ」と戸を開けて入ってくる。

実にスタンダード、普通っぽく、さりながらやたら楽しい一席であった。
春に馬石師の会で聴いた「寿限無」は爆笑であったが、それと雰囲気はまるで違うし、この日の客もそんなに笑っているわけでもない。
しかし、爆笑の一席にも負けない実に楽しい子ほめでありました。まったく、ただものではない。

この楽しい雰囲気がどこから来るかというと、登場人物のやり取りを、演者からかなり突き放しているところにあるようだ。
口が悪い八っつぁんの言葉が、距離のある分マイルドに響いてくる。だから気持ちがいい。
子ほめというのは実によくできている噺である。上手い人が距離を取って語ると、心底くつろいでくるではないか。

スタンダードだが、工夫は無数にある。
たとえば、「タダの酒」を隠居が拾わない。お前いきなり入ってきてなんだよ、世辞ぐらいあるだろと、そっちの話に入ってしまう。
もしかして回収しないのかと思ったら、世辞を教えたあと最後に隠居が、「ほら、灘の酒をおあがり」と勧めてくれる。
しかし八っつぁんは教わった世辞を駆使したくてたまらないので、もう酒には見向きもしないで帰っていく。
こんなの、スルーして聴いても全然問題ないところだが、スルーしたくない。

そして言葉にムダがない。展開をどんどん切り詰めるのに長けている。
伊勢屋の番頭さんが「ゆうべ湯屋で会ったよ」と返答してくると八っつぁんは、「その先お久しぶりです」。

子供の生まれたタケの家に行っても、八っつぁんモード全開。しかし適切な距離があるので、やはり気持ちがいい。
爺さんのことを「亡くなったご隠居さまに似て」と語るのはちょっと珍しい。確かに爺さんだもの、隠居だろう。

子ほめも、いじって爆笑落語にすることはできるのだろう、たぶん。
でも、すべての噺をいじりまくる美学じゃないのだ、きっと。
り助さん、二ツ目になったらブレイクするでしょう。
師匠の名であった麟太郎をもらうこともあるだろうか。

続きます。

 
 

 

作成者: でっち定吉

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