用賀・眞福寺落語会(下・柳家㐂三郎「試し酒」)

権之助師、夢の話から天狗裁きへ。
うーん。楽しいマクラの後だが、これはもうひとつの感。
難しい噺だと思う。
常連客の前で、繰り返しでできた噺を新鮮に語るのは、とても難しい。
ハマると実に強い噺だけど。
ご本人もあまり手応えなかったのでは。天狗の造形など面白いところもあったが。

しかし、仲入り休憩を挟んで再度の権之助師、「真田小僧」は見事だった。
マクラでは、前座が二ツ目に昇進したら、途端に優しく接してくれる師匠がいるなんて語る。名前は出さないが正朝師匠ですだって。
さらにコムマコの話など軽く振って、本編へ。
時間はたっぷりあるので、「薩摩に落ちた」まで通しでやるのだろうと思う。
天狗裁きよりずっと数多く、聴く機会がある真田小僧。
いったん「じゃ、お前も1文出しねえ」のサゲを振るので、え、終わっちゃうのかな、そんなはずないけどなと思ったが、まだ続く。よかった。

通しを予感させるゆったりしたスピードでありながら、その実内容は刈り込んでいる。
按摩について、「白衣」とか「ステッキ」「黒メガネ」のアイテムは使わないのだ。男がおっかあに手を引かれて上がり込んだと、まっすぐ進んでいく。
ネタバレも実にスピーディ。
噺のアイテム、全部使う必要はないし、全部使ったらくどくなる。編集が見事。

なにがよかったかというと、金坊の造形。
憎たらしい子供である必要のある金坊だが、権之助師が描くと、ストレートに可愛い坊やである。
知恵がまわる子供は、憎たらしく映るのが自然だが、この金坊は知恵が回ってなおかつ可愛い。
これはもう、選ばれた人にしか描けない造形だと思う。

ただ、魅力的な金坊の秘訣はちょっとわかった気がする。
金坊の描き方が客にどう響くかは結局、親父の描き方次第なのだ。
権之助師の真田小僧では、親父がもともと感情をむき出しにしていない。
金坊にしてやられた感を出さないのだ。だから金坊が、肥大化したモンスターキッドにはならない。
といって、ダメージゼロの親父だと、話が進まない。ストーリー的にやりこめられた事実をしっかり踏まえていながら、キャラとしてはそうでもないのだ。
結構大変なことだなこれは。

後半の真田三代記のくだりに入ると、もともと嫌味な子供でない金坊が、親父の講釈をすらすら再現するのが、落語の客にも気持ちよくなってくる。
実に結構でした。
いいデキなのに、今日の記事の表題にしないのはトリの㐂三郎師もよかったため。トリがよかったらそちらの名前にしないわけにいかない。
私のさじ加減だけど。

その㐂三郎師、二度目の登場ではVサインはないのだな。
マクラはそこそこに「試し酒」へ。

これがトリらしい見事な一席。
そして㐂三郎師は、権助キャラである酒飲みの久蔵がとても上手い。実に自然な山出し。
格別変わった演出はないのだが、4杯の酒をしっかり飲み分けていた。
一席目の破天荒なイメージとは異なりきっちりした噺だが、でも久蔵はやっぱり破天荒ではある。

試し酒は私も好きな噺だが、この噺に関しては、演出を凝らそうとしてもムダかもしれない。
緊張感にものを言わせる噺であり、爆笑ものにしてやろうなんて気持ちで挑んでも、軽く跳ね返されるはず。
工夫を凝らせるのは飲み方ぐらいだろうか。あとは都々逸をセレクトするぐらいか。
㐂三郎師の都々逸は、「お酒飲む人花ならつぼみ 今日もさけさけ明日もさけ」「あだな立て膝鬢かきあげて 忘れしゃんすな今のこと」。
それだけでき上がった噺で、難しいのだろうな。でもとても儲かる噺だと思う(いやらしいな)。

試し酒で最も着目しているのが、最後の一杯を飲む際にスリルがあるか否か。
もちろん飲めるに決まっているのだが、上手い人のものだとスリルがあるのだ。
㐂三郎師、ゲップ、ウグともったいを付けておいて、綺麗に飲んでいった。ここは当然中手が飛ぶところ。

2時間半もやらない。2時間程度で終了。満足です。
一席終わった後、常連の拍手が常にちょっと早い点だけ気にはなる。フライングではないけれど。
少ないがご浄財を賽銭箱に入れてきた。真田小僧の講釈と違い、あと払いでよし。
次回は1月9日で、権之助師と駒治師なんだそうだ。新年最初、お参りを兼ねていいかもしれない。

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作成者: でっち定吉

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