マウンティング ハ ヤメマセウ

現場の模様をお届けしたので談志の続き物に戻るのが筋なのだが、多少は関係ありそうな話に一日おつきあい願います。

もうすっかり古い話。総選挙の選挙特番で太田光がやらかしまくったという。
あいにく見てないが、あんな人だからなにがあっても驚きはしない。
ただその後「これこそ芸人だ」みたいな論評が同業者から湧いて出たのは非常に気持ち悪かった。水道橋博士とか。

これが芸風だ。そう言いたいところまではわかる。
でも、大多数の人が結果を褒めてないっていうのは、結果としてスベッたということ。
スベッた事実を総括せず、ふるまいだけを取り上げて「これが芸だ」って姿勢はとにかく気持ちが悪い。芸人に結果を求めず、挑んだ努力だけ賞賛するなんて論調は不気味である。
本人も含め、やらかしていったい誰得だったというのか。
「これが芸人」という持ち上げ自体が、極めて陳腐な、紋切り型のフレーズに映る。
世間を思考停止させようとする努力など空しいだけ。世間の上に立とうとする、無益な試みもまた。

そんなことを考えていたら、このたび非常にスッキリする記事が出ていた。

選挙特番で炎上した爆笑問題・太田をキャバ嬢たちが一刀両断するワケ (日刊SPA!)

タイトル通り、一刀両断。
太田のやったことを接客のプロであるキャバ嬢が評価すると、「人を小馬鹿にしている」「モラハラ」「おもんない」「老害」と散々。
太田本人だけ「権威を笑う」スタンスでいても、若い女性からすると、このふるまい自体が権威をまとった俗物。ただそれだけ。
テレビで築いたひとつの権威が、政界に通用するか試してみようというチャレンジに過ぎない。
この構造から、「政界は聖域ではない」「権威を笑うのがプロの仕事」という薄い結論しか導き出せないのが、擁護している芸人の限界。
呆れている側の感覚はまるで違う。相手が政治家のエライ先生であるかどうかという属性には、誰も着目していない。
やたら乗っかってくる人は、人格破綻者。それが令和のジョーシキ。
政治家のほうだって、仮に偉そうな言動があれば太田と同じ評価を受ける。それだけのこと。
水道橋博士は、この後徳光和夫セクハラ問題でもって自ら地雷を踏んでしまった。むべなるかな。

徳光和夫は、明石家さんまを高評価しようと試み、自覚のないセクハラ発言をした。
そういえば、そのさんまも太田と同じである。
さんま本人はとにかく人をからかう立ち位置にいると自覚し、そうやってきた。だが本人の望まぬレベルにまで地位が向上した結果、今や若手芸人やアイドルに対する言動のすべてがパワハラとなる。
なんとかしなきゃという気持ちはあるだろうが、地位が下落することはないのだから、芸風を年齢に合わせ洗練させていく以外に道はない。
それができないってことは、もう終わってるんだろう。

芸人も、他人を「いじる」ことで笑いを得ようとするまではまだいいのだけど、人の上に乗っかっている自覚すら持ってない人は致命的。
太田は政治家ならマウントしていいと思っている。相手の社会的地位だけを見て、人を見ていないのだ。
そもそも年取って人気を維持できるタレントは、スキの大きな人だけ。
梅沢富美男なんて、下から気軽に来られポンコツ扱いされてもウェルカム。もちろん作法を守っての上ではあろうけど、こういう立ち回りのできる人は強い。
タモリも、勘違いした若手が下から不用意に突き上げたらたちまちしくじるだろう。だが、ご本人が常にスキを用意しておいてくれるので、下のタレントも安心してツッコめる。

落語界を背負っているつもりの立川志らくも、人に乗っかってしか生きていけない。
談志も、下からの批判を受け付けない点においては同じだったように見える。だが談志の場合は、情報のシャワーがとにかく多かった。
シャワーを四六時中放出していれば、場が持った。
志らくははるかに薄っぺらいので、まず情報を溜め込むところから始めないとならないが、教養がないので情報が溜まらない。でも、突き上げられるのは嫌い。
志らくと同い年の喬太郎師なんて、どんな場面でもスキを見せまくりである。実は結構偉い人なのに。

先日笑点について続き物を出したが、改めて思うのは笑点メンバーが日ごろから、どれだけ大きなスキを用意しているか。
歌丸師は振り返ると、ちょっとスキが足りなかったな。ハゲと死にそうだけだもの。
現在メンバー唯一、スキが足りないのが三遊亭円楽師。
「腹黒」と「友達いない」だけが材料だが、こんなネタでしかないものは、スキのうちには入らない。

円楽師の繰り出す主たるネタが、司会の昇太師に「司会の座を譲れ」というやつ。
これをシャレとして心の底から楽しめている人には悪いが、あんまりタチがよくないよなといつも思っている。
「司会」という「権威」を、権威の足りないお前から、最も権威のあるオレに寄越せ、そういう構造のギャグだからだ。
もうやめたほうがいいんじゃないのか。
円楽師ご本人は、本当はもっと、ファンから愛されるためのスキが欲しかったのではないか。他のメンバーのように。
そんな気がしてならない。
そうならずに現在の位置付けに収まってしまった。後悔もあるのではないだろうか。
とりあえず、昔取得したディプロマミル(金で買える学位)を、早いうちに自虐のネタにしておくべきでしたな。

作成者: でっち定吉

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