NHK演芸図鑑の柳家喬太郎

NHK演芸図鑑は、林家正蔵師がホストの最終週。
通常の最終回では、ホスト役の高座を最後に持ってくるのだが、そちらを繰り上げ、通常週と同じく対談をトリに据えている。

正蔵師が披露した「紋三郎稲荷」は、かなり良かったと思う。
そんなに起伏のある噺じゃないのだが、正蔵師にはそんなのが向いている。
三平が世間からこれ以上ないぐらいバッシングを受けている昨今だが、正蔵師はそれに抗って評価を爆上げしつつある。
どうやら世間にとっては、日本の話芸で出した「心眼」が大きかったようだ。
人情噺の大作もいいのだが、今回の紋三郎稲荷のような小品に実力が出る。

ちなみに冒頭の演芸は、パルト小石先生の追悼。ナポレオンズ・ボナ植木先生のピン高座。
九蔵の名前で正蔵師と揉めた、三遊亭好の助師の父上である。まあ、そんなことは誰も言わないけど、ちょっと脳裏をよぎる。

さて、高座に替わりトリに持ってきた、対談の相手は柳家喬太郎師。
なんともこう、実にしみじみ、いい気持ちになったのでした。
喬太郎師はこういったトークの機会において、最速で雰囲気を作り上げてしまう。
トークなのに実に落語っぽい。師の落語、特に新作の技能をフル活用するのだ。
師の落語と同様、キャラを演じている。演じているのに、素のままにも見える。
素の喬太郎を出すと、演技しているように見える、そんなところまで自ら知り尽くしているのだろう。

正蔵師と喬太郎師はキャリアの差は結構あるものの、年はひとつ違い。同世代である。
対談のいちばんしまいに、我々膝が痛いしねなんて正蔵師。喬太郎師も、今朝も痛風の薬飲んできましたと。

まず、コロナで変質した落語界について語る。
緊急事態宣言下で、娯楽がなくなった。これは喬太郎師にとっても一緒で、どこへも行けない。
そして思ったのだ。あ、娯楽って大切なんだ。だからオレも大事なんだ。ちゃんとしなくちゃいけないんだ。
決して先輩がマクラで語るような「なくてもなくてもいい商売」じゃないんだ。

緊急事態宣言下において、正蔵師は腐るもんかと決意して、稽古をした。
喬太郎師は、明日こそ稽古しようと思っていたら宣言が明けてしまったとのこと。
これ、ギャグ100%というわけではなく、本当ではないかな。噺家たるもの、具体的に出す予定があるから稽古にも熱が入る。
予定もないのに稽古はできない。
ただし、稽古はしなかったが読書をしていた喬太郎師。これだって立派な稽古だと思う。
読書の中には圓朝全集なども含まれる。
その結果、「あ、オレ落語ファンだ」と原点に返った喬太郎師。
落語が好きすぎて、それが欠点にもなるし自覚もしている喬太郎師だが、実に新鮮に落語ファンに戻れたのだと。
落語を追求し過ぎて鬱っぽくなる喬太郎師は、師匠さん喬も見抜いている。

なんのマクラだったか? 旅先でもって、有線の落語チャンネルを聴いていたという喬太郎師を思い出した。
紹介など一切ないまま、落語だけが延々と流れるチャンネル。中に、「あれ、この人誰だっけ」と思う古い噺家が流れる。
懸命に追っていって、ついに自力でわかったときの嬉しさという。

かつて焼肉屋で酔っぱらい、正蔵師が喬太郎師に、「俺のどんな噺が聴きたい」か尋ねてみたと。
その場では、またあとでと言っていた喬太郎師、別れて15分後に早速メールを送ってきた。
喬太郎師の聴きたい、正蔵師の噺。

  • 蛸坊主
  • さんま火事
  • 反魂香
  • てれすこ

こんな儲からない、マニアックな噺ばかり送ってきた喬太郎師を見て、「この人は、バカだな」とひとりごちた正蔵師。
落語バカである。
てれすこ」ってねと。
わかる人にはわかる、とてもいい話。紋三郎稲荷も脳裏をよぎる。

自分の噺家スタイル、どう分析します?と問う正蔵師。
喬太郎師しばし考えて。「やっぱり柳家なんだろうなと」。
新作も作るし、古典も変えてやる。笑いのために極端な方法を使う。そんな自分だが、それは柳家という肝があってのことだ。
そう熱く語る喬太郎師。
イメージとしての柳家からは外れてるかもしれないが、肝があれば柳家だ。
柳家らしいモノマネ落語を求めるお客さんもいるかもしれないが、そんなのはやらない。
カッコイイぜ。

新作やってるだけで柳家じゃないと先輩にも言われたらしい。
でも新作は師匠も認めてくれているもの。真打披露の口上で、大師匠小さんだって「これはまた新作などもやりまして、お客さまにご評判もいただきまして」と言ってくれた。
落語口調でモノマネも入れ、ユーモアたっぷりに語る喬太郎師だが、強烈な誇りと自負を感じるのである。
喬太郎師、入門してしばらくは、意地悪な先輩にいじめられたのだという。今回の対談では言わなかったが、白鳥師が語っている。

最後の最後に、「人生でやり残したことは?」という質問。
ここはもう想像がついたが、答は「落語」と喬太郎師。
圓朝モノもやりたい、白鳥師みたいな新作の連続モノもやりたい。
前座噺だって覚えてないものがあると。

ああ、いいなあ。
話がマジになりそうになると、ギャグも入れてくる喬太郎師。
ノーカットで全部聴いてみたい内容でした。でも、NHKは実にいい編集をしたのでしょう。

前週の尾上菊之助との対談でも正蔵師いいことを語っていて、それもどこかで取り上げようかと思っていた。
だが、十分な尺が取れたので編集の結果やむなくカットします。

作成者: でっち定吉

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