「あかね噺」の2巻を今頃読んだら、ちょっと面白かった

ジャンプの大人気連載、あかね噺はもう5巻まで出ている。
今頃、2巻を読んだという話です。
3周遅れのオレを笑ってください。

昨年、あかね噺の1巻を買って読み、そしてなかなかがっかりした。
その模様はこちら。

「あかね噺」が刺さらな過ぎて絶望する

1巻で挫折した以上、もう読まないつもりだった。
しかし、世間はいまだに盛り上がっている。
いつまでも取り残されるのも、世界一アクセスの多い落語ブログ(自称)としては名折れではある。

ebookjapanでもってクーポンがあり、137円だったので買いました。

日ごろは、LINEマンガとマガポケ(講談社)で、毎日無料でマンガを読む一文惜しみである。広告もしっかり見て。
自分でもケチなのは認める。小説は図書館で借りてくるし。
だが当ブログの読者の皆さんだって、無料で読んでるわけだから、おあいこだ。
誰が金出してまで読むかって? こっちだって金もらったらもっとちゃんと書くわい。

LINEマンガでは、「うちの師匠はしっぽがない」を読んでいる。
落語マンガでも、こちらは最初から楽しんでいた。
あかね噺との違いは、世界が最初から緩いこと。
狐の師匠と狸の弟子、いずれも女が、落語界で日々研鑽に励むという物語。こんな世界では、やってはいけないことなどない。
しかしむしろ、そんな世界から師弟関係のリアリティが湧いてくるというものだ。

マキバオーだって、ネズミを乗せた体重100㎏の喋る馬がレースに挑む姿に、リアルな競馬ファンがやがて感動を覚えていったのだから。

いっぽうで、あかね噺の世界は固い。
現実に即したこの世界が描かれていると、現実にマッチしない事象が過剰に気になるのだった。
そもそも、真打が目標なんて噺家いねえよお。
落語協会の林家けい木さんが監修なのに、真打昇進試験かよお。
デビュー前にらくごカフェ(物語内では落語喫茶)で一席やるなよお。

人によってはどうでもいい部分で、躓いてしまうのだった。
そして、躓いてしまう自分自身の狭い了見も嫌なのだった。

とにかく、2巻。
1巻で気になった部分が、だいぶ改善されていたのだった。
原作者に、落語が浸み込んできたのだろう。
やはり、リアリティは大事。物語の中だけで完結するリアリティだとしてもだ。

ここが気に入った。

  • 老人ホームで一席やるあかね。まずは自分を気に入ってもらうことから始める
  • 受け入れてもらってから、自分のやりたいテンポで演じる
  • 兄弟子・享二は師匠から「お前は笑わせようとするな。真面目にやれ。真面目が過ぎれば面白くなる」とアドバイスされている
  • 弟子入りしたはずなのに、「まだ弟子入りしていない」という理屈で学生の落語大会にエントリーするあかね。明らかに不自然な状況を、「不自然だ」と描写することで乗り切る
  • 言い立てを(単なる言葉の羅列でなく)ちゃんと粒立てて発声する
  • 兄弟子・こぐまはあかねの前で「今戸の狐」を掛ける。これは「知るおもしろさ」の噺

老人ホームで気に入ってもらってから自分のテンポに切り替えるというのは、高等技術である。
こんなもの、二ツ目だってそうそうできない。
居酒屋でちょっと働いただけで気働きを覚えるあかね。いささかご都合主義だが、いいでしょう。

あかねの教育係の享二は、あかねの前で堂々と固い「三方一両損」を掛ける。
固い落語であるが、固いのも突き抜けると面白いと師匠は言う。ひとり、思い当たる二ツ目さんがいる。
まるで面白くないが、ある種面白い。
もっとも、客の少ない神田連雀亭でこの人から「ヒルハラ」(昼間から来てる客を揶揄する、噺家のハラスメント)を受けて以来、聴く気を失ってしまったが。

学生大会に(本来は資格のない高校生のくせに)あかねがエントリーするのは、審査員に、あかねの父を破門した阿良川一生が登場するため。
どう考えてもすでに師匠に弟子入りしていると思うのだが、とにかく師匠の許可も得て出場するあかね。
この不自然な流れについては、「転宅」方式で切り抜けている。
転宅方式とは? 不自然な状況を、登場人物が一緒に不思議に思うことで飲み込んでしまうやり方。
泥棒と一緒になる女なんかこの世にいないが、そのウソを飲み込んでしまえば本当になる。
この辺りに、架空のリアリティを築き上げる努力を感じたのだった。

そしてさらに兄弟子のこぐまが掛ける「今戸の狐」。
今戸の狐は、いにしえの落語の師弟関係を教えてくれる、楽しい噺なのだという。
そして、地噺(という言葉は出てこないが、そういう意味の解説をしている)。
私の感性とはいささか違うのだが、でも「落語の中の教養が大事」というテーマならば、過去にも書いている。

落語と教養

大して累計アクセスはない記事なので、原作者が参考にしたとは思わないけども。
でも今後、当ブログもこうやってマンガの世界に影響を与えてやろうか。そんなことをちょっと思ったりする。

あかねは大会に、師匠の命により「寿限無」で出場する(やっぱり入門してるじゃんかよお)。
マンガに出る寿限無はNHK標準バージョンかと思ったが、若干違った。
けい木さんが師匠から教わったものらしいが、「五劫のすり切れず」「雲行末」と来た場合、「ヤブコウジ」「ポンポコナーのポンポコピー」になるパターンが多い気がする。
もちろんなんでもいいですけど。
ちなみにNHKバージョンは、「五劫のすり切れ」「雲来末」「ブラコウジ」「ポンポコピーのポンポコナー」になります。

落語のフレーズを唱えてみよう

というわけで、あかね噺、1巻のアレルギーは払拭しました。
まだ、あかねちゃんの魅力がイマイチ湧いてこないのだが。
3巻をいつ読むかというと、また安いときに。その頃は何巻まで出てるでしょうかね。

続編:「あかね噺」の3巻を今頃読んだら、なかなか面白かった

 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。