YouTubeで、喬太郎師の主演映画「スプリング、ハズ、カム」が無料で流れている。
2016年の映画。
興味はあったが当時見にいく気力まではなかった。
2020年の「浜の朝日の嘘つきどもと」も、見てない。こちらはYouTubeでは有料。
映画のストーリーは、「特にない」と当時聞いた覚えがあった。
観たら、本当にほぼなかった。ないけども、なかなか面白い。
落語にも、なんてことないのに楽しい人情噺あるでしょう。
あるいは、「火焔太鼓」みたいなクスグリだけでできた噺ともいえるか。東京03の角ちゃんがいい味出してたりして。
大学入学の部屋探しのため上京してきた娘と、付き添いの父の物語である。
物語の大部分は、住まい探しである。そうこうしているうちに大家を通して人間関係が地域に広がっていく。
娘の母は、産後の肥立ちが悪く亡くなってしまい、以後父は、娘を男手ひとつで育ててきた。
今日は映画の内容に深入りしたいわけではない。喬太郎師の演技についてだ。
喬太郎師の役は、「広島からやってきたタクシー運転手」。
だからその言葉は広島弁。
正確さまではわからないが、広島弁結構上手いんじゃないかと思う。
広島弁による、仁義なき戦いのモノマネまでクスグリとして入ったりして。
マクラでよく、博多弁など方言を取り入れてる師の姿を思い出す。広島弁を使ったネタはあいにく知らないが。
で、この役者喬太郎が広島弁なのに、高座で観る喬太郎師そのままで。
そのまますぎて、逆に違和感を覚えたぐらい。
広島弁のセリフをきちんと喋ろうとすると、むしろ素の喬太郎が出てしまうのだろうか。
と、ここまで考えて、また疑問に思う。
素の喬太郎?
素の喬太郎とは、おもしろマクラを喋っている人では? それも違うのではないか。
素の喬太郎とはどうやら、ボケたりツッコんだりしないで喋っている、物語の進行役らしい。
いつも書いているところであるが、喬太郎師は劇団の主催者である。
劇団キョータロー。私が勝手に言ってるだけなので、念のため。
喬太郎師の落語には、古典でも新作でも、劇団員が出てきて舞台を務めている。
劇団員が配役に合わせて、自分の個性をプラスしていく。だからしばしば、古典と新作、人情噺と滑稽噺を横断し、まったく違う演目で、同じ役者が舞台を務めていることがある。
例として、「仏壇叩き」の名人長二と、「ちりとてちん」の悪役六さんは同じ役者。再度断っとくがただの想像。
喬太郎師が一からキャラを作り上げるわけではないため、この方法だと、キャラづくりがだいぶ楽になる。
これは、声色を使い分けるなんてことではない。声色は、むしろ落語界ではよいとされない方法(あかね噺でひかるが使っている)。
喬太郎師は、声自体はすべて同じトーンである。
子供だと、高い声も出すが。
映画のこの父親、エキセントリックな役ではない。だからはみ出すぎな演技でもない。ご本人なりにリアルを追求していったのだろう。
喬太郎師の古典も新作も、もともとはみ出たセリフだけで構成されているわけではない。
高座に映画のような、一応リアルなセリフ回しもごく普通に現れるなとも思う。
映画のシーンとして「咳払い」がちょくちょくある。これが、喬太郎師がたまに声を通すために高座でするものとそっくり。
高座の咳払いなんて、なけりゃないほうが絶対にいい。それが映画で意図的に使われていたのは驚いた。
つい出てしまった咳払いを、映画本編に取り込んだのかもしれないが。
それにしても不思議だなと。
高座の喬太郎師は、個性の塊。どの高座でも濃厚な。
だが映画を観ると、基本の喬太郎師が現れていたのだ。
あ、この基本の人も、実在したんだなという感じ。
というか、「基本の喬太郎だ」と感じるということは、実際にお目にかかっているわけである。
基本の喬太郎師は、進行役。演者自身の言葉を発するなどで、たまに出てくる。
マクラを喋っている人は、この人とイコールではないのでは。
元々は一緒(基本の喬太郎)だったに違いないが、たぶんマクラ人格を作るほうが、師には楽。
だから現在の高座のマクラを務めているのも、劇団員なのではないかと思う。どの噺でも同じ人が務めている。
ユニークな劇団員をフルに使って高座を務める喬太郎師、映画の依頼が来た。
この際に、律儀な喬太郎師、自分の抱えるどの劇団員を使えばいいか、考えたのではないかと思う。
しかし依頼した側は芝居のプロ。喬太郎落語の中に潜む、劇団主催者物語進行役の存在を見抜いていた。
なので、普通にやってくださいと頼む。
普通って何だろう。
迷った喬太郎師、広島弁を覚え喋ってみる。セリフ回しをマスターするのが大変で、そんなに個性は乗せられない。
なので喋ってみると、劇団主催者喬太郎が喋り出す。
それでいいですよ。
以上、まったくの想像。
でも大きく外れてはいないと思う。
観てないけども、舞台「ハンバーグができるまで」では、喬太郎師はスーパー・イズミのエキセントリックなおかみさん(オーナー)として役者で出た。
ご本人は、映画に出ていた素の喬太郎より、そっちのほうが好きなんじゃないでしょうか。
この場合、劇団員に担当させていた役を、基本の喬太郎が乗っとるのであろうか。
それとも、好きな役なのでもともと密かに自分で担当していたのであろうか。