さて続けて2席め。
マクラは「ちいかわ」映画について。
楽屋で歌武蔵師(3歳の娘さんがいる)が、娘さんと観にいった話をしていたという。
「どうですか」と訊いたら、「重い」。
重いのはお前じゃないか…嘘ですよそんなこと思いませんよ。
私にも3歳の子供がいるんですが保育園に行ってますので、ひとりで観てきました。
しかし、詳細な内容を語るわけにはいかない。なので観てない私にはなんだかよくわからない話だった。
ちいかわと一応つながっていた気がするが、職人について語る。
細工は流々仕上げをごろうじろを振る。
ということは、大工調べのお白州までやるのかなと。「上」で終えちゃうとこの慣用句は出てこないから。
啖呵の素晴らしい大工調べだった。
平日昼間に二ツ目の噺家さんから、過去最高の啖呵を聴けた。
実に幸せ。実に感激した。
この啖呵、「噛まずに言い切るチャレンジ」なんかではない。言葉が明瞭で、全部聞き取れる。
あお馬さん実際に噛んだりしてないが、甘噛みぐらいでも客は気づかないだろうと思った。棟梁としてはすべて言葉をアドリブで出しているわけだから、一瞬言い淀んだりしたとして、全然いいのである。
思い出しながら喋るのではなく、考えながら喋っている感じ。すべて考えて喋るなんて無理だが、でもそういう気持ちでやってるっぽい。
柳家の人は、啖呵終了後いかに客に手を叩かせないかを考える。中手嫌いなのだ。
客のほうも、「叩きたい」という作為は、少々野暮だ。
でも今回、客が全員一致で大きな拍手。
私も、心の底から手を叩きたくなったのだ。本当に。
それだけすばらしい啖呵。これに比べたら、世間に溢れる中手はだいたい義理じゃないかなんて思った。
さて冒頭から。
大工調べという噺、バリエーションがあまりない。クスグリもそれほど変わらない。
でも、あお馬さんのはさりげなく、明確に違う。
今年は三三師の大工調べを聴いたが、柳家でもまるで違う。出どころも違うのだろうが、演出も相当違う。
- 番町のお屋敷の仕事が取れたなんて話は一切出ない
- 棟梁は与太郎が出てこないから様子を見にきた
- 道具箱を大家が持っていくにあたっては、与太郎の承諾があった
- 出てこないおっかさん、どこかに出かけたという情報もない
- 誰が道具箱を持っていったのかに関する長いフリはない(!)
- 与太郎は世間水準の描かれ方よりはやや賢いが、パワー十分
- 溜めた店賃は1両と800
- 因業大家は悪すぎるということはない。800文さえ持ってくれば、それで矛を収めるんだという、筋の通った部分も見える
- 棟梁が怒り出し、大家のかみさんは「湯に行ってきます」(客爆笑)
- 啖呵に大家が、青くなったり赤くなったり。「俺りゃ七面鳥じゃねえや」
- 中手が入ったあとの「細く短く」のくだりはない
- 与太郎のなんちゃって啖呵は短い
冒頭、こんなに削れるんだと驚いた。こんな形でやった人は知らない。
「道具箱持ってちゃった」あたりのくだりが陳腐に感じるのだろうか。それとも、スピーディにお白州に続きたいのだろうか。
他にも場面転換が短いなど、刻むことにはだいぶ注力しているが、短さを感じさせるわけではない。
ともかく、あお馬さんの啖呵は自立している。多くの噺家が「大家そんなに悪くないんじゃないか? その大家を罵るなんてできないや」と悩んできたのだが、この悩みは無意味。
そんなことで悩むなら、啖呵を磨けばいいのだった。
七面鳥のクスグリは珍しいかな。刈り込むだけ刈り込んでおいて、こういうのは好きらしい。
七面鳥って、赤くなったり青くなったりするんですか?
大家が道具箱も返さないし、手付の1両も返さないし、棟梁怒って「取り上げババアか」。
ここで与太郎が一言だけ「ジジイだよ」。
この短い返しも、意外とないと思う。
私は短いツッコミが大好きなので嬉しい。普通は上に「ううん」って入るものだ。
棟梁は謝罪の最中、明らかにしくじったと気づいた。
なので、「たかが800」「放り込ませる」あたりを遡って謝る。
だが大家には通じない。大家が筋を通して欲しいのは、あくまでも800持ってくることである。
大家にとって棟梁の謝罪は無意味。「あっしが頭下げてるんですから」という棟梁の釈明はもっと無意味。
ここらへん、わかるなあ。
この戦いはどっちが正しいとかじゃないのだ。いかにも現代風。
たったひとつだけ気になるのは、「1両2分」だったら、数を勘定するのが6枚で合ってるのだ。1分金が6枚である。
古今亭型の「1両」なら、6枚にはどうしてもならない。「1分が3枚、1朱が4枚」だと合計7枚になる。
でも与太郎も大家も、6たび数えてるのである。
気にするほうが馬鹿なんだろうか?
続けて「下」に移るかと思ったら、いったん締める。
この会は最後にアンコールで、軽い噺をやることにしてるんです。
でも、様子を見ますと、この続きですかね。
客、大きな拍手。
というわけで、大工調べの「下」に入ります。