蒲田楽落亭の柳家あお馬(下・「大工調べ(お白州)」)

連休の池袋を1日挟みました。

大工調べの「下」、すなわちお白州の場面は、「品川心中」や「宮戸川」の「下」ほどレアではない。たまには聴ける。
啖呵で終わった上とはガラッと変わった楽しみがあり、面白いものである。
あお馬さんが、いったん切った気持ちはわかる。続きではあるがモードが違う噺なので、リセットしたいのだと思うのだ。
さて、さりげない改変をほどこしてくるあお馬さん、「下」も変わっている。

  • お上は御用多忙であり、くだらぬ民事を取り上げている場合ではないので門前払い
  • 駕籠訴ではない(「上」の終わりで、棟梁は『駆っ込むんだよ』とは、そういえば言ってない)
  • 棟梁が何度も訴状を書いて訴え出、お上が根負けしたそうである
  • お奉行の名前は出ない(!)もしかして与力だった?
  • 取り調べにおいて、再度大家から「与太郎が、道具箱を持っていくことに同意した」と主張がある
  • 与太郎はそれを認めてしまう(自白)
  • 与太郎、大工の手間賃を訊かれて「そんなに高くないです」。棟梁が慌てて否定し、「材料費高騰のおり手間賃も上がりまして」
  • 最後お奉行から大家に説諭がある(店子はかわいがらねばならぬと)

駕籠訴でないというのは、リアリティ追求であろうか。
もっとも、本当にリアルにやろうとすると店子の訴訟については大家が窓口になるので、この手段は採れないとは思う。
いっぽうで、町内五人組揃って出廷とか、そういう説明はバッサリカット。
リアリティを追求すると、お奉行が大岡さまであるのはおかしいということになるのであろうか。大岡裁きの噺は、のきなみ演者がここで遊ぶというのに。
蝠丸師など「さじ加減」でもって、登場してきた大岡さまを見て「わー、加藤剛だ」だもん。
とにかく、こんな大工調べはない。古今亭から出ているものだと思うのだが、古今亭にだってこんな大工調べはないと思う。
教わった通りにやらない、素晴らしいオリジナリティではないでしょうか。

大岡さまの名前を出さないことの目的はわからないが、効果のほうはわかる。
余計なギャグが入らないので、お白州の場面が緊迫しているのである。これを狙ったのだろうか。
与太郎がちょいちょい面白いことは言うが、与太郎では裁判の緊張感は破れないのである。
緊迫と言っても、落語だから緩いけども、でもふざけた場面ではない。
少なくともひとつ言えるのは、「上」の啖呵が素晴らしければそれだけ「下」はハードルが上がってしまう。
抜け殻みたいにしないためには、別の要素がいる。そこで「緊張感」を探してきたのかな、と。

お奉行さま、店賃の不足、残り800文についてはとっとと片づける。
払ったうえで、道具箱を迅速に引き渡すようにと命じる。
大家は裏でもって満面の笑み。

再度お白州に呼び出され、与太郎に対して店賃は支払わないといかんぞと言い聞かせて、裁判は終了。かと思いきや。
お奉行、ついでのように大家に訊く。質株はもちろん保有しておるのであろうな。
昔、いろいろ音源を聴いた際は、この無許可質権実行について、お奉行が咎めを申し付けるものもあった。
あお馬さんはそうは描かない。
質権から発生する「質権保有者が動産(道具箱)を合法的に留め置ける」権利が無効になったのである。
それにより、与太郎が仕事に行けなかった分の損失を補償せよ、となる。現代的な考え方。

もっとも、質権不成立からダイレクトに手間賃の問題に行くとは思えないが、それはまあいい。
落語には法律監修者がついてるわけじゃないし。

10年前に書いた小難しい記事です。

「大工調べ」の訴訟論

大工の手間賃は、銀200匁になるそうな。
金に直すと、3両2分(金1両 = 銀60匁)。
そんなにびっくりするほど儲かったわけじゃないのね。これもリアリティ追求だろうか。
しかし、お白州まで来て、単に800文払うだけなんてのじゃ提起した意味がない。棟梁も十分嬉しかろう。
大家は手持ちがそんなにないので、5人組に泣きついて貸してもらっている。
これを棟梁が与太郎の代わりに懐に入れて、最後のお白州となる。

柳家あお馬さんという人は、上手いのはわかっていた。
だが、こんなに圧倒的に上手い人だとは。心底びっくり。
コンスタントに出塁する人だと思っていたら、場外ホームランをかっ飛ばすパワーがあったのだ。底力を知っていると、評価がまるで違ってくる。
ちなみに、1時間以上かけて歩いて蒲田まで来たので、大工調べに入りかける際に一瞬うつらうつらし掛けた。でも吹き飛びましたね。

仲入り休憩を取っていないので、2時に始まった会は3時8分に終わった。しかし密度が大変高く、不満ゼロ。

あお馬さんの課題は、マクラ漫談でしょうか。
ご本人も、あと数年で真打ですと語っていた。
大工調べのこの啖呵を披露目でぶっくらわしたら、すごいことになると思います。
またしばらくして、この会に来てあお馬さん聴こうと思います。

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