圓太郎一花二人会 その2(春風亭一花「厩火事」)

圓太郎師、座布団が大きすぎ、ふかふかすぎて座りづらいそうで。
新真打一花師については、「真打になって13日目です」と紹介。

圓太郎師は、親子酒。
これも浅草お茶の間寄席で流れていたのを繰り返し聴いてレビューしたもので、ほぼ頭に入っている。
なのに非常に面白い。
おかみさんが酒を飲みたい旦那にボケて、「くず湯」「とんがらしの湯」と次々ボケてくる。これにとどまらず。

くらくらするものが欲しいんだよ。
じゃあ、ハンマーでひっぱたきましょうか。
死んじゃうでしょ。

とどめが「滋養強壮、明日への活力になるもの」。
おかみさんが「ヤクルト?」

ここもう、私の気持ちとしてはヤクルト待ち。
ヤクルトもう一回、とどめに出てくる。

ようやく一本もらうと、もう半分、もう四半分となかなか終わらない。
この場面、偽装工作がないので驚いた。湯飲みの茶で羊羹を食べてるという。
以前からこうだったかな? 前からこうなら、触れてると思うのだけど。
偽装工作なんか今さらどうでもいいらしい。
ともかく、ともすると親子酒に感じる、予定調和の流れがないのでやたら楽しい。

酒を飲ませろという際、「1杯ぐらい我慢できないの。男でしょ」というかみさんに向かって「あんたは女でしょ。亭主の言うことにうんうんってうなずいてればいいの!」。
この後客席を向いて、「言いすぎました。申しわけありません」。
このコンプライアンスギャグは2席めも効果的に使っていた。

旦那は偽装工作なしに、息子と向かい合う。
あとは普通なのだけど、ここまでの貯金が大きいので、少々普通でも食いつぶす心配がない。

続いて春風亭一花師。
伝統ある芝落語会、2回目ですとのこと。
もともと正朝師匠からお話いただいたんですけど、正朝師匠の体調不良で圓太郎師匠になりまして、圓太郎師匠は(芸の筋で)叔父さまに当たる方です。
もともと前方の予定だったんですけど、圓太郎師匠がこんな形(二人会)にしてくださって。

「叔父さま」って言葉今までスルーしてたけど、よく考えたら違うね。
芸の筋から言ったら、一花師にとって圓太郎師は、いとこである。そりゃ芸歴は全然違うけど。

いま、新宿末広亭で披露目をやっています。このあとご予定ないかたは是非。
このあとご予定あるかたは、明日にでも。明日は圓太郎師匠も出ます。
それがダメな方はまた。なにしろ40日間あるんですよ。嘘みたいでしょ。
まだ折り返してもいないんですよ。

前回芝落語会に出させていただいたのは、NHK新人落語大賞に最初に落ちた直後でした。
この会の皆さまが、後押ししてくれたようなものです。
ですから、と断って厩火事。受賞演目だ。
NHKとは持ち時間が全然は違うわけで、同じ演目といっても同じようにはやれないけど。

一花師、マクラももちろん楽しいが、落語に入ると非常にホッとする。
マクラの女性らしい声から一転して、ダミ声を効果的に使った語りに入るので。ああ、これこれと思う。

二ツ目時代ずっと一花さんを聴いていたが、女性の登場人物も、いったん(男の噺家がそうするように)作り上げて出してくるなという印象を持っていた。
いつの頃から、だんだんと女性が演者の分身に見えてきた。厩火事は完成形だと思う。
必要以上に作りこまない女性で、どこまでできるかという取り組みなのでは。

厩火事の髪結い、お咲さんはお喋り。旦那(相談に上がったのに)の話もしっかり聞かない人。
これはまあ、現実に向き合えないお咲さんの葛藤を表すのだ。
古典落語として、もともとはそういう理由付けなのだろう。そして、それがゆえ亭主と喧嘩になるところまで、織り込み済みというのが普通。
だが、一花師、別のキャラ造形を考えたみたい。
なんだか、亭主に関する悩みがなくても、ひたすらこういう人みたい。
厩火事は教訓がマジで、風呂敷みたいなでたらめ格言の楽しさもない。一花師、まさにお咲さんの人の話を聴かない姿こそ、この噺の大事なボディなのだと。
実際に、聴いた感想はそう。
昔の厩火事がそうであったかのような。
本当の歴史は多分違っている。昔の厩火事はもっと、教訓色が強かったんじゃないかと思う。お咲さんも、役割ボケの人で、ウザくはなかったはず。
でも、気分としてはなんだか先祖帰りみたいな造形。
一花師にとっては、自分を解放する噺なんじゃないでしょうか。いえ、実際の馬好師はきっといいご主人だと思うけど。

お咲さんは、ウザくて楽しい。うざたの。
おばあちゃんになったら、あいつは女を連れ込んでイチャイチャする、そのときになって歯ぎしりしようとしても歯がないから土手ぎしり。
こんなのを女性の噺家が喋って、ウケる。
演者も楽しそうだし、時代は変わったなあと。

「孔子」という固有名詞は出なかった。麹町のさる旦那と揃えたのだろうか。
もろこしの学者さんとして出てくるので、「幸四郎」というクスグリはない。それでも、オリジナルサゲに大切な「しろうま」はしっかり残す。
このあと「さる旦那」でクスグリは十二分。正直多すぎるが、旦那の心中がそろそろ限界を迎えるので、このウザさがちょうどいいのだ。
旦那、限界が来てお咲さんを本気で帰そうとする。

すったもんだの末に皿を割れとレクチャーされ、とぼとぼ帰るお咲さん。
旦那の家を出て、自分の家までほんの数秒。この際の沈黙がすばらしいなと。
数秒の沈黙で、内心の葛藤を残さず語っている。
お喋りお咲さんが黙るのだから、効果絶大。

皿を割る、とってつけた理由は一切述べられない。結構乱暴。
そういえば「あいつ(亭主)はうちから出たやつだ」という言葉もなかった。

かなり作りこんでるなあと。
お咲さんが、「刺身で一杯やってる亭主」を非難する旦那に逆襲するあたり、まるで違和感がない。ここはギャグになり損ねているぐらいに。
亭主に不満を持つお咲さんも本当。旦那に悪く言われて本気で逆襲したのも本当。
人間心理が渦を巻いている。

満足の一席でした。

仲入り休憩時のロビーでは、たくさんいる芝落語会のスタッフ(みなご隠居)が、「仲入り後一席やったら帰るよ」「でも今着替えてるんじゃないか?」などと話し合っていた。
たぶん、支払いの関係だと思う。

続きます。

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