夜席に少々居残りする。
池袋でもよく来る下席だと入れ替え制だが、流し込みの寄席はいいものだ。
そういえば鯉朝師、「夜席の遊雀師匠までどうぞお楽しみください」と言って、反応が変なので「夜席の主任が誰だか把握してなくて」。
夜は吉幸師です。
前座は主任の妹弟子、立川幸路さん。ゆきじ。
初めて遭遇する。
朴訥に語る人。別に悪いわけじゃないが、ひとつ決定的にいけないなと思ったことがある。
牛ほめでもって、おじさんを演じる際、常に眉をひそめている。
与太郎にいろいろ指導するのだからそうなってしまうのだろうが、女性が眉間にシワ寄せているのはあんまり気持ちいいもんじゃないなと。
女は男のようにやってはいかんのか? そんなことを言いたいのではない。
おじさんが、与太郎を追い詰めるモードでいる必要じたい、もともとないと思うのだ。
終始余裕あふれる大人が、与太郎をやさしくたしなめる程度のやり取りでいいと思う。
二ツ目の立川幸朝さんが聴きたかったのだが、朝確認したときは交互出演、兄弟子の成幸さんが顔付けされていた記憶が。
だが、幸朝さんが出てきたので嬉しい。
といって、目当てにしていたかというとやや違って、確認の意味合いが強い。
幸朝さんは、最近笑点特大号の若手大喜利に出ている。
あの番組の若手セレクトはすごい。高座をしっかり観て選んでいるのだろう。
上方の桂九ノ一さんもよく若手大喜利に出ているが、この人、今年のNHK新人落語大賞では実に見事なものだった。点数はさほど伸びなくても。
だから、笑点がセレクトした幸朝さんはきっと上手いはず、そう思って。
前座のときに幸朝さん(当時・幸吾)を二度聴いている。一度目の感想は「オチケンぽい」、二度目の感想は「オチケンから離れようとして徐々によくなっている」である。
さほど褒めてるわけじゃなかったので、特大号への出演には違和感が否めなかった。
しかしさすが笑点セレクト。見事な「たいこ腹」を披露していった。
二ツ目になっているからWikipediaが作られ、いろいろ情報が得られる。
幸朝さん、オチケンじゃなかった。そもそも高卒で入門している。
落ち着いた雰囲気が漂うので驚いた。また26歳だって。
広島の福山出身。
幇間の話を振るなら、昼席の八好師匠にも触れてほしいけど。
しかも「幇間は寄席に出ません」だって。出てたよ。
それはともかく、押し出しがよく、引いたときもよく、口調がよく、リズムとテンポのいい、見事な高座であった。
ちゃんと幇間・一八の困惑と物欲も濃厚に伝わってくる。
若旦那からではなく、一八の視点から始まるタイプ。別に「芸協はこう」ではないはず。
落語の客は、若旦那がなに用で一八を呼んだのかを知らない。私はこのほうが好きですね。
足袋のコハゼのエピソードで、少ない客がしっかりウケる。それは気持ちがしっかり入っているからだろう。
ところでふと気になったのだけど、扇子の扇の要から酒飲む所作っていいんだっけ?
試し酒だとダメだとされてる所作。たいこ腹には通常酒飲む所作は入らない。
猫のタマを殺しておいて、笑ってる若旦那の描写だけはどうかと思ったけど。
喬太郎師だって、正月のテレビで女性客に引かれてからこれはやめたと思う。
若旦那が一八の腹で、鍼を三度折ってしまうのは初めて見た。
軽快にサゲを駆け抜ける。
楽しみな人である。
居残りの最大の目的は、宮田陽・昇。
今年4席目になるみたい。長いのも二度聴かせてもらったし、よく聴けて幸せ。
もはや、ネタかぶりなど一切気にならない。漫才の古典落語化である。
そういえば昼の蝠丸師が、青森県を説明するのに「ここが北海道とすると」と日本地図を持ち出していた。
「今笑ったかたは芸協のファンですね」
「広島」の説明が新しくなっていたが、なんだっけ。
今日は広島出身者が多いね。
陽昇も選挙の後なので政治ネタに期待したら、ひとつ出ていた。
石破さんと野田さんがテレビで対決していた。石破の勝ち。顔が圧倒的にデカい。
全体を通しても、私の把握した新ネタはこれだけだった。
他はフランスの位置やオリンピックやマイケル・チャンや。
それにしても、陽・昇の気持ちよさについて改めて考えた。
二人は表面的な対立を一切持ち込まない。漫才の役割としてすら対立してない。
私が大好きな昇さんのツッコミは、実はツッコミというより「サポート」。
「アグネス」「チャンだろ」「ラムだよ!(ビシッ)」「お前のさじ加減じゃねえか」
というやり取りすら、全然対立していない。これが現代にピッタリ。
ロケット団ですら、表面的な対立は多少ある。
桂伸衛門師は私にはいまだによくわからない。わからないので聴いていく。
今回は新作で「老人ホームごっこ」。これは比較的よくハマる。
噺のストーリーは正直納得いかないのだけども、聴いてるときはなかなかいい感じ。
春風亭傳枝師で帰ることにする。
傅枝師は6日からの上席後半夜トリ。この日は小助六師の代演だが、私勘違いして、傳枝師と小助六師の両方を待っていた。両方は来ない。
師匠から来ているのか、死ぬなら今。
スピーディで軽い一席であった。
満足して帰ります。
池袋はいい。そしてこの寄席では少数派の芸術協会もいい。