「無学 鶴の間」柳亭小痴楽の爆笑トーク

「無学 鶴の間」という、もともとU-NEXTの配信番組だったものをBSイレブンで放映している。
笑福亭松鶴の旧宅を鶴瓶師匠が買い受けて寄席にしているのだ。そこにゲストを呼んでいる。
と言ってもこの番組毎回録画しているわけではない。ゲストに噺家が出るのはほんの一部だし。
過去には、ゲスト桂宮治、桂二葉の会を観たことがあるだけ。

このたびゲスト柳亭小痴楽の会が撮れた。調べたら2023年の収録。
これがもう、ひたすら面白かった。
鶴瓶師が小痴楽師にツッコんでくれるトークも、高座に入ってからのマクラも、本編「一目上がり」もみな面白い。
面白いので繰り返し観てしまった。
落語と無関係なトーク番組を録画していたとしても、こんなに繰り返して観たりはしない。
さらにマクラのネタも、高座で聴いたことのないものだった。

ただ、この収録の場にいた大阪のお客は、配信を観るまで内容ほとんど覚えていなかったのではないか。
配信が観られない人の場合、その後きれいに内容忘れてしまったのではないかと想像する。そういう種類の楽しさ。
テレビ画面ですら繰り返し観た私には、よくわかる。
原因として、小痴楽師の特性ゆえというのも感じないではないのだ。入念に組み立てて話をする人ではないので、一体なんの話をしているのかわからないところもあるのである。
でもそこもひっくるめてやっぱり、たまらなく面白い。トーク番組らしくもあり。

鶴瓶師はずっと小痴楽師を呼びたかったというのだが、それでも大阪の客にはなじみが薄いので、成金から話を振ったうえでゲスト登場。

いちばん面白かったのはお父さん、五代目柳亭痴楽の話。
なにかエピソードを小痴楽師が語るたび、鶴瓶師が「配信やで」「今とちゃいますよ。昔やからね」。
現代では絶滅したのではないかという無頼な人。
生活費がちょっと足りなくなると、息子の貯金箱割ってマージャンやゴルフをしに行き、そして当面の生活費を稼いで戻ってくる痴楽。
息子の中学校に電話してきて、今から家族で福岡にゴルフしにおいでという痴楽。
学校サボって福岡まで行くと、前半は息子にゴルフさせてくれない。プレイ中のホールがクラブハウスから見えなくなってようやくクラブを持たせてくれる、ケチな痴楽。
どんなときも「スジを通せ、ケジメをつけろ」と言う痴楽。
鶴瓶師が「ヤー公と一緒やがな」。でも小痴楽師の行動原理になっている。
兄貴はカタギですと話す小痴楽師に、わしらも反社やないねんと鶴瓶師。

小痴楽師の面白さは、幼少から培ったものなのだなと改めて思う。
親父といるといつも面白いことだらけだったそうで。
怖いお父さんに萎縮してたのかとなんとなく思ってた。まるで違う。
そして明星学園という環境もまた大きく影響している。高校中退なのにドロップアウト感のかけらもないのだった。

本気で落語が好きだったお兄さんの話はたまに聴く気がするが、お兄さんの名がシンタロウで弟がユウジロウだというのは初めて知った。「ふざけたのは親父ですから。ぼくらはマジメに生まれてきました」

高座に入っても、マクラを快調に飛ばす。
日ごろは落語やっててボケっぱなしだったりするが、鶴瓶師にツッコんでもらえて貴重な体験だったと語る。
学校寄席行って、仕事が終わってからも地元の子どもたちと遊びすぎる話、そして自分の坊やと遊ぶ話。
親父と坊や(当時2歳)はほぼ対等。
坊やもいつも楽しい小痴楽師の影響を受けてるから、噺家にしようなんてしなくても勝手になってしまうのではないか、そう思ったりする。

歌丸師匠に可愛がられた話も。
そして一目上がりを演ずるにあたり、歌丸師との関係性を隠居と八っつぁんに反映させているのだそうだ。
一目上がりは上方にはほぼなくて、出すと喜ばれるそうで。

小痴楽師の一目上がりは、「近江の鷺は見がたし、遠樹の鴉見やすし」、一休禅師の悟、そして七福神のくだりも極めて短い。以前取り上げたときは気づかなかった。
バカを装うのに長けた小痴楽師は、この噺に隠れた教養を語りたくないのかなと思う。
私は一目上がりの隠れ教養が好きなのだが、異なる方法論があったってもちろん構わない。
しかし、この方法論が使える人は少ないだろうな。教養を語っていれば、古典落語はとりあえず持つものだがそれを放棄するのだから。
小痴楽師は、そこに頼らない。でも別に特殊なやり方を探し求めるというわけでもなくて、本格派。

私は常日頃、柳亭小痴楽こそ次の芸術協会の会長にふさわしいとそう思っている。
今回の番組観て確信しました。

作成者: でっち定吉

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