東京シティアイ落語会 花粉症に負けない笑福亭茶光

無料の東京シティアイ落語会(東京駅KITTE地下)は年4回開催。
昨年行ったあとカレンダーに入れておいてよかった。おかげで今回は東京かわら版には載っていないが、こうして出かけられる。
この日は笑福亭茶光さん。

今回も前説の女性が「笑福亭茶光さま」と紹介。
茶光さん開口一番、今日はすごいですね花粉が。私も花粉症でして、よりによって仕事の日に当たってしまいました。
またここオープンスペースでね。

急にあったかくなったから花粉が飛んでもおかしくない。
なかなか大変そうだったが、頑張って務めあげる。
45分、2席やるとのこと。え、短いな。枠は1時間だが。
花粉症がしんどいので短いの?
よくわからないのだが、内容は上々で満足した。

落語初めてという方います? たまたまやってたから入ってこられたという方、え、ひとりもいませんか。珍しいですね。
逆に落語聴いたことあるという方は? ああ、皆さんですね。
そういえばなんだか見たことある方多いですけど。
初心者がいると「落語とは」みたいな話をしますが不要ですね。

みなさんは聴こうと思っていらしてますが、聴きたくない人の前でやることもあるわけです。学校寄席ですよ。
芸術鑑賞会という名目で、小学生から高校生までの前でやるわけです。そちらの立場で参加された方もいらっしゃるのでは。
落語以外に狂言などもやりますね。音楽の場合はだいたい寺内タケシとブルージーンズです。私のときもそうでした。
たまに中国雑技団とか。
子供は落語なんて興味ないわけですよ。中には好きな子もいるかも知れませんが隠れキリシタンみたいな存在ですね。
それでも、偏差値の高い学校はいいんです。興味なくてもちゃんと聴く姿勢になってくれますから。
東京のある高校行きまして。階段状のホールに生徒たちが並びましたが、驚きました。黒い髪の毛がひとつもありません。
黄色に金色に赤に青に緑、ちりとてちんかよと。

静かにしない生徒たちを、竹刀持った生活指導の先生が脅かすという、学校寄席あるある。
多少のバリエーションはあれどしょっちゅう聴くので、またこのネタかよと思うことも多い。
だが茶光さんはさすがで、ここから爆笑を引き出していた。
先生がたびたび、噺家に対し失礼なことをポロッと言うシチュエーションがたまらない。

手ぬぐいで鼻を拭き続ける茶光さん。
この季節はもう落語できませんねと。
この会場に、「花粉が来ない街 釧路」というポスターが貼られていて笑ってしまったが。

本編は軽く、動物園。
東京にいても、頻繁に聴く上方落語である。軽くガッカリ。
だがマクラと同様、茶光さんは何のネタでも面白い。
多くの人がこってり演じる動物園を、軽快に飛ばしていく。上方落語に江戸前の要素を盛り込んだハイブリッドである。
兄弟子の希光さんからも聴いたが、茶光さんのはさらに江戸前。
茶光さんは皮をさっさと着こんで、サイズピッタリ。
このあたりを最低限しか描写していかないのはすごい。ウケどころをもったいないって思わない潔さ。

移動動物園に就職するため、田舎道をはるばる歩いていくシーンが珍しい。
なかなか現地に着かない。本当はこの部分短いのだけど、鼻を拭いてるので時間が掛かるのだった。プロ根性だ。
何も一席早く終えて、鼻を堂々拭きたいわけではないだろう。

鼻を拭きながらまたマクラ。マクラは鼻拭いてもいいでしょうとご本人。
私の師匠は鶴光です。77歳で、一世を風靡した人ですがいまだにラジオで下ネタ言ってます。
最近、ほんとは「つるこ師匠」なのが知られてきたので前説の女性も「つるこ師匠に入門し」と語っていた。でも弟子は平気で「つるこう」と言う。

師匠に弟子りした話。
どこも弟子入りは簡単には行きません。志の輔師匠に2年間お願いし続けて、結局弟子になれなかったなんて話もザラで。

出待ちしてたけども、最初は噺家が高座を終えたらさっさと帰るのを把握しておらず、会えなかった。
ようやく師匠が帰っていくのに遭遇し、声を掛ける。
「鶴光師匠、弟子にしてください」
「ええよ」
エエよと言った師匠、立ち止まらずキャリーバッグを引いてどんどん歩いていってしまう。茶光さんが頭を下げているうちに先へ行ってしまう。
必死で追いすがって「このあとどうさせてもらえば」。
「羽光に電話して」。誰やねん。
それでも弟子になれた。

しかしひとくちに弟子入りというが、茶光さんは当時プロの漫才師だったわけだ。それは語らないが、本当はもっといろいろあるのだろう。

二席目は、弟子入りについての新作落語。演題は調べたが不明。
割と新しく、そして自信作と思われる。
面白いことに、上方ことばを一切使わない落語。
大阪にいる上方落語家が江戸っ子ことばを使う際は、ほぼギャグ。そういうムードはなくて、自然で達者な江戸弁。
純粋な東京の噺家ですら、ギャグとしてしか語れないだろう領域。
といって茶光さんもマジではなく、ことばの面白さ自体は追求したかったらしい。
つくづく器用な人である。自作でなかったとしても。

スラムで育った外国人が、日本の寿司屋に弟子入り志願にくる。
最初は外国人に寿司なんか握れるかと拒否する親方だが、スラムを抜け出してみんなに希望を与えたいという思いに共感する。ただ、なんでお前ボクサーにならねえんだ、そういうときはボクサーかヒップホップだろと親方。

故郷から対立するギャングのボスが復讐に来たり、アクセントもたっぷりついている。クスグリもジャンプ、ワンピース、りぼんなど持ってくる。
動物園と同じく、やはり描写は実に控えめ。これは相当に徹底している。
ネタおろしして間もないなら、つい伸びちゃうのが普通だろうに。この欲しがらなさは、東西どちらの落語界でもじつに貴重な資質だと思う。
といってもちろん刈り込みすぎてダイジェストになるわけでもない。

サゲもキレイに決まってフィニッシュ。サゲは書かないといずれ忘れるが、忘れて構わない。

約束の45分まであと3分。
スタッフはもう終えて構わないという意思表示をするが、茶光さん、律儀に数分、耳鼻科漫談を話していった。
家の近所のわけわからない、客の来ない耳鼻科。
これをまたしても東京弁で描写する。

1時間のつもりで45分だったが、中身が濃いのでずいぶんと満足した。
以前から(一門ごと)一目置いてる人だが、この日のコンパクトな噺の組立て方法論はつくづくすごいなと感心した。

東にも西にもいないユニークな二ツ目さんだ。
もちろん西でもウケるでしょう。

作成者: でっち定吉

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