圓太郎師はネタ数が多く、よく聴いているがあまり被らない。
そんな中で馬の田楽という珍しめのネタが被ったが、別に嫌ではない。
ちなみに仲入り後に語っていたところによると、馬の田楽は今度ラジオで出すそうだ。真打競演なんでしょう。
だからやってみたとのこと。
ちなみに今日会場に来たらポスターに「夏の噺」と書かれていた。
なので春の噺だと理解している馬の田楽から、炬燵を排除してみたんだそうで。まあ、夏っぽくなっただろうか。
舞台が完全に田舎で、江戸とまったく関連を持たない古典落語の演目は珍しい。粋な江戸弁はまったく出ない。
他には夏の医者や田能久ぐらいか。もっとも田能久のうわばみなど、バランスとって江戸ことばだけど。
喬太郎師の復刻落語の「仏馬」も舞台は田舎だが、主人公だけ江戸ことばだ。
「馬方船頭おちの人」を振る。
「おちの人」は「お乳の人」つまり乳母のことを言うのだと理解していた。馬方、船頭と同様に、無茶なことを言いがちな人の例だと。
ただ、圓太郎師の説明によるとどうやら「落ちの人」らしい。馬方と船頭は、世間から落ちた人という意味みたい。
とは言いつつ、この噺に出てくる馬方の田十どんは、唯一まともな人なのだった。これまた面白い。
馬の田楽の登場人物。主人公の馬方以外、皆でたらめな人。
- 馬方
- 味噌の配達先・丸三
- 悪ガキ2人
- どもり
- 耳の遠い立場の婆さん
- 呑気な百姓
- 酔っ払い
丸三(三州屋)は尋ねてるのに種まきしてて出てこない。地面が黒くて種が黒いので、どこまでやったかわからなくなっちゃうんだって。
なので馬方の田十どんなら留守番させてもええかとゆっくり種を撒いている。
この人、馬がいなくなってしまっても、軒下探せとかしょーもないことしか言わない。
近所の悪ガキは、馬方に散々、悪さすんでねえよと念押しされてるのに、馬に悪さをする。
「押すなよ。絶対に押すなよ」の先駆けだ。
悪ガキのせいで味噌樽積んだまま馬は疾走。どっちに向かったのかもわからない。
気が気でない馬方が尋ねても、どもりは何言ってるかわからない(NHKでは抜きそう)。
耳の遠い婆さんは最後までついに質問が通じない(こっちは出すと思う)。
馬が通らなかったか百姓に尋ねても、話が長いだけで中身がない。「おら今出てきたところだから知らねえだ」で済むのに。
酔っ払いは、婆さんのところで名前がすでに出ている。こいつは昼間っからぐでんぐでん。
馬が消えて馬方が本当に焦り心配しているのに、呑気な連中ばかり。
落語にはコミュニケーションギャップの噺は多い。この話の耳の遠い婆さんも典型例。
だが、話が通じているのに通じないという構造の噺は非常に珍しい。
圓太郎師は、まともな馬方の視線に入り込むのではなく、まともでない人物たちをフラットに描く。
そうすることで、馬方の心配が浮かび上がってきてより面白い。
もともと、味噌樽は配達間違い。丸三でなくて、峠一つ手前の角三のほうだ。
この出てこない角三の番頭もズボラみたいで、慌てて署名するから四角が丸に見えてしまった。
馬は峠を越えてくたびれてる。早く積荷を下ろしてやりたいが、受取りもらわないとトラブルになるから背負わせたまま。
唯一、まっとうに仕事をしているのが、最底辺の馬方なのだ。
まともな馬方だが、子供には馬方だから乱暴だと理解されていて、恐ろしがられている。
そう思うと深い噺。
馬が逃げた後で悪ガキに質問するが、「馬方こええ」ばっかり。
ようよう聞き出すと、馬の下を潜って遊んでも馬は動じなかった。とんぼ釣りのために馬の尾を2〜3本抜いても馬は動じなかった。
だが兄弟の多い子のために8本まとめて抜いたら、馬が立ち上がって、味噌樽背負ったまま逃げた。
災難を楽しく描くのも落語の真骨頂かもしれない。
実に楽しい話でした。
そして、結構くどい話なのだ。ループ部分が多く。
そこをダレないのが圓太郎師。
落語だから、馬がその後どうなったかわからないままだ。
圓太郎師、高座は返して退場。メクリはスタッフに任せる。
高座から降りる際のステップが小さいみたい。
「私、何度もここ寄せていただいてますが、以前より降りにくくなりまして。ステップが変わったんでしょうか。老化でしょうか」
などと言って去っていく。
ちなみに、圓太郎師は気づかなかったようだが、座布団の縫い目が客に向いていたみたい。
運営もどうしたのだろうか。
3日も掛けて、ようやく最初の1席が終わりました。
それだけ面白かったのだ。
柳家小はぜさんが登場。
眉毛の上が赤い。何かかぶれたのだろうか。その説明はしなかった。
真打になることも言わなかった。すでに出たからか。