真打の決まった柳家小はぜさん登場。
小はぜ「みなさん私のことはご存じないと思いますが…」
客「知ってるよ」
腰を折られて、若干グズグズになるのだった。頑張って、どこのお坊さんだろうと思われるなんて振っていたけど。
小田急沿線・鶴川などで会をやっている人。私だってここ棕櫚亭でも遭遇している。
だから腰を折ったお客さんを非難したりはしません。
ただ、女性客の多くは見たことなかったみたい。この後仲入り休憩時に、小はぜさんを褒めている人多数。
普段落語を聴く頻度にかかわらず、聴いて「上手いね」とストレートに感じやすい芸である。
市若さんが旅でいないということで。
市若さんが百合ヶ丘。私は柿生です。なのでお鉢が回ってきました。
重役出勤になってしまいましたけど、それでいいって圓太郎師匠言ってくださって。
私は柳家です。圓太郎師匠は、今は橘家ですけど小朝師匠のお弟子さんですから元は春風亭ですね。林家の一門です。
林家の師匠に、柳家が呼んでもらえることって本当にないんです。実にありがたいです。
小田急沿線に住んでていいこと別にないんですが、今日だけは良かったなと思いました。
縁というものは大事で。この座布団だって(ヘリを触る)、あ、ごめんなさい。なんでもないです。
座布団って、本来お客さまのほうへ縫い目を向けないんですよ。後で直しておきますから。
その場では直さないのだった。圓太郎師は気づかなかったみたい。
この後マクラ何話してたっけか。いずれにしてもあまり大した話ではなかった。
神田連雀亭でマクラ振らずに噺を始めると名人なのだが、マクラの腕は正直凡庸。
真打になったら、寄席に出てもマクラはほぼ振らないと思う。それでいいと思う。
得意なことだけやればいいじゃないか。
上手い真打でも、独演会でしか自分のマクラ振らない人って結構多い。人間国宝・雲助師だってそうだ。
野球だって、守備の上手い選手ならそれで一軍ベンチに入れる。打つ方のスキルを上げてからでは間に合わないのだ。
守備や走塁のスキルで試合に出ているうちに打席数が増えてきて、レギュラーになる。
たとえが妥当かどうかわからないけど。
隠居のところに、八っつぁんが訪ねてくる。八っつぁん、何か用があってやって来たのだが、忘れてしまった。
浮世根問でも始まるのかと思った。珍しめの前座噺だが、一度聴いていたく感心したことがある。やはり連雀亭で。
八っつぁんが隠居に婚礼の話を訊いても、なお浮世根問かと思ったが、高砂やである。
柳家の人がやる噺という印象。
それにしても、こんなたっぷりな高砂やは初めて聴いたかも。
隠居と八っつぁんの会話が随分続いて、ようやく用事を思い出した八っつぁんが仲人について尋ねる。
そして隠居が、祝儀が必要だと。
それにしても、話が先に進まない。
別にいいのだけど、先の馬の田楽にちょっとこんな気配があったもので。
圓太郎師の噺がぐるぐる回るのは気にならないのだが、続けて同じスタイルになっちゃうとやや焦れた。
小はぜさんが初めての客はみな魅入られてるのであり、焦れたのは私だけかもしれないが。
ギャグはほとんどない。
この人の場合、古典落語のクスグリ以外にはめったに入らない。
豆腐屋のクスグリも、そんなには広げない。
だから、ぐるぐる回ると言ってもありもののクスグリ全部入れようなんて芸(スタンプカード芸)なんかではないが。
仲人の八っつぁん、いよいよ本番で祝儀ぶっくらわせる。
豆腐をひと節唸ってから、高砂やへ。
そして親戚一同不調法。
八っつぁん、帆を上げたり下げたり困っているのだが、突然皆で詠唱が始まって、「婚礼にご容赦」でサゲ。
入船亭小辰さん(現・扇橋)で聴いたことがわずかにある。
「巡礼にご報謝」のシャレ。
と言っても、なんのことやら。三代目小さん型らしいのだけど。
誰もわからないサゲを、形としてやってみるっていうのが柳家っぽくはある。
座布団を45度回して返す小はぜさんであった。
というわけで、初めて小はぜさんを聴くお客さんはみんな感心していて、たまに聴いてるでっち定吉がちょっとなと思った一席。
まあでも、こういう人ではある。
昇進後は、寄席に呼ばれて15分で軽く一席やって沸かせると思う。

