橘家圓太郎独演会@棕櫚亭 その5(かんしゃく)

2時間の落語会を5日に渡って続けるとは、饒舌な私とはいえそうそうないことだ。
仲入り休憩後の圓太郎師も、さらに豊富なマクラがあるのだった。

若い小はぜさんをお楽しみいただきました。
本当はそんなに若くないんですけど。
この後「その2」に書いた、昇進後の名前の話題が出る。
一席目の馬の田楽の自己解説も。

今からやる噺は、人によっては好きじゃないかもしれません。
ひと昔前の、男が亭主関白だった時代の噺ですね。

うちの一門は結婚してもみな失敗します。小朝、玉の輔、そして私。
私はおかげさまで再婚しました。もうじき三度目があるかもしれません。

圓太郎師の私生活はよく爆笑マクラでうかがってるので、親しみがある。
入った噺は「かんしゃく」。益田太郎冠者作。
さすが圓太郎師、噺を豊富にお持ちである。
現場では、古今亭志ん丸師からしか聴いたことがない。
モラハラ亭主の噺であって、現代ではなかなかやりづらい。でも、一言断ってから始めるだけで、すんなり聴けるのである。
現代社会、無自覚にこんな噺を出しているのだと思われると、非常に損だし、客の満足度も低下してしまう。

実に楽しい一席で。
小言幸兵衛を楽しめる感性があれば、かんしゃくだって大丈夫。
そもそも圓太郎師が語ると、モラハラ亭主に愛嬌がある気がする。実際にはそんな要素、どこにもないのだけど。

1席めの馬の田楽もそうだし、この噺にも小三治のイメージがある。
といってもかんしゃくについては、日本の話芸で出ていた、それだけのことかもしれないが。
日本の話芸の小三治かんしゃくは、演者本人が亭主と二重写しになって、ちっともいいものじゃないと思った。
そのマクラで、なぜか「新作落語とは」を語り出す謎。かんしゃくは昔の新作には違いないが、古典の扱いだと思うのだが。
亭主でなくて姑を嫌な人にして、昭和の新作落語に替えたのが春風亭柳昇の「里帰り」だと私は思っている。
里帰りは、最近孫弟子の鯉橋師から聴けて嬉しかった。

ともかく、小三治孫弟子の小はぜさんが来たので、この日は小三治トリビュートなのではないかとちょっと思った。
ただあるとして、無意識のレベルに過ぎないかもしれない。

かんしゃくは、社長を務める一家の大黒柱が、家庭内でちょっとした暴君だという設定。
運転手付きの車でもって午後4時に帰ってくるが、奉公人が勢揃いしていないと気に食わない。
掃除のやりかけも許さないし、奉公人どもが玄関をこっそり使うのも気に入らない。
部屋の中は生けた花から掛け軸やら、すべてがきちんとしていないと許せない。
なので毎日小言小言。
私の関わるスカっと系だと、真っ先に退治されるべき人物。でもそんな噺ではない。

で、この小言が、実に楽しい。
これこそ圓太郎師の味。
小言はしっかり生々しい。下手すると、過去に味わった不快感の引き出しが突然開く、そんな客がまるまる一席楽しめないまま終わりかねない、そのぐらいには十分生々しい。
でも、終始どこかに余裕が漂う。
これはおはなしなんですよ、今、小言のうるさい亭主をカリカチュアして描いてるんですからご安心を、という。
余裕があるので、亭主の因縁の付けように迫っていくと、実に楽しい。
圓太郎師はどんな噺もそうである。日本の話芸に出た「厩火事」だって、ドーラク亭主を描くことで不快感を与えかねないのに、余裕のスパイスが振り掛けられていて実に楽しい。

旦那の帰宅後、いつまでも責められる奥さんも気の毒なのだが、これについては噺自体に予防がしてある。
描かれるのは亭主のかんしゃくだけなので、奥さんの内面は「お暇をいただきたい」まで出てこない。

お暇をもらって実家に帰る。
実家のお父さんは、嫁いだんだからお前のことは知らない、なんて言わない。時代背景的にそういう掟は共通認識としてあるのだけど。
さらに元々、お嫁さんが気に入った縁談でもあった。このエピソードなど、現代にたちまちリンクする。厩火事にも。
お父さんのアドバイスは観念的なものなんかではなく、実に具体的。
奉公人の動かし方がもろに詰まっている。なんでも自分でやろうとしちゃダメなんだ。
頭を下げて、全部任せなさい。手出しをしちゃいけない。そうしたら奥様のために懸命に働いてくれる。

この説得力、落語協会の事務で培ったのでしょう。
先日も圓太郎師、会員を全員寄席に出すという、実は非常にハードルの高いタスクをどうにか成し遂げたことを語っていた。
めったに寄席に呼ばれないのでこじらせた噺家を、人間国宝と交互にして呼ぶとか。

モラハラ亭主に詫びを入れて再度チャレンジ。1日にして見事文句のつけようのない家にする。
実に爽快感溢れる一席でありました。

この生田寄席は、高座のあとで師匠を囲んで茶話会がある。
それに参加してみたい気もするが、帰ります。

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