アニメ「昭和元禄落語心中」の落語(助六再び編)/第三話

第三話に出てくる噺はふたつ。

《大工調べ》
この物語では、意外にも初登場の演目だ。
いかにも先代助六がやっていそうだが。当代助六の与太郎、啖呵を「教わったとおりにやっている」と樋口先生に話しているが、いったい誰に教わったのか? 八雲師匠はやらないと思う。
因業大家を凹ませスカっとする噺だが、「この大家、ボロクソにののしられて、お白洲に引き出され、しまいには大枚はたかされるのだが、それほど悪いことをしているのか?」という疑問をいったん持ってしまうと、噺家さんも、もう掛けられないんだそうだ。
落語は肚で演ずるもので、なんの噺でも、いったん疑問を持ってしまうとダメのようだ。
古今亭菊之丞師も、疑問を持ってしまったので掛けられないらしい。
ここに焦点を当てたのが、春風亭百栄師の新作落語「マザコン調べ」。スーパーの御曹司のママが、レジ係に「うちの息子と付き合ってくれ。結婚させる気はないがおもちゃ代わりに」とひどいことを言うのだが、この親子が啖呵を切って、しまいにはお上に訴えて出るという、百栄ワールド。
だが、疑問を持つのが実はおかしい。ほんのちょっと足りない店賃を持ってこない限り道具箱を返さない因業大家は、落語の世界には珍しい、江戸っ子の風上に置けない輩なのである。
先代小さんなど、間違いなくこの肚でやっていたはず。
噺そのものから、ダイレクトにこのことが読み取りづらいのは、噺自体の欠点かもしれない。あまり掛からない、お白洲の場面(下)まで聴くと、多少わかりやすいのだが。
教わった通りに啖呵を切る助六の稽古を眺め、樋口先生、「ちんけいとう、蕪っかじり、芋っ掘り、タコの頭、しまいにはあんにゃもんにゃってなに?」と疑問をぶつける。
以前気になって調べたが、辞書にも載っていないと。インターネット時代の今だと、すぐわかるんですがね。
まあ、意味よりも確かに、助六の言うとおりリズムが大事。助六も、気持ちよく啖呵が切れると、歌ってるみたいだと。
先日、この啖呵の途中でつっかえた師匠の高座に出くわした。啖呵でつっかえたらこの噺は終わりです。あとはペンペン草も生えない。
「大工調べ」については、先日ちょっと法律論に絡めて書いたのだが、もともと理屈っぽい当ブログでも筆頭の理屈っぽい記事になってしまった。
理屈で落語聴くもんじゃないと思う一方、理屈で落語を考えるとなかなか楽しい。

《居残り佐平次》
師匠と親子会をやりたいという助六に、「居残り」を覚えろという八雲師匠。ご本人はすでに手離した噺ということだが、助六に直々に稽古をつけてやる。
しかも、八雲本人の噺でなく、先代助六のスタイルで。ちなみに第一シーズン第九話で、先代助六が自らの披露目で掛けた。協会会長に勝手に憤って、会長が得意の居残りを掛けたのである。破門の伏線になった因縁の噺。

作成者: でっち定吉

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