桂宮治「道灌」(真打ち競演)

2日休んでしまった。
結局、書こうかと思っていたネタにする。
NHKラジオの「真打ち競演」は聴いたり聴かなかったり。たまたま聴いたものに触発されて。
明日土曜日新たな番組が出るため、この回のらじるらじるでの放送は本日までだ。

いっぽう、毎週聴いている上方落語の「なみはや亭」「ラジ関寄席」今週のものを聴いていない。
経費削減のためradikoプレミアム一旦やめようかな。月額385円だが。
久々に入会した神戸新開地喜楽館の配信も、1か月でやめてしまった。

宮治師匠へは私、いっときアレルギーを起こしていた。
当ブログにも書いているのだが、その頃の記事を読んでいく人は少ない。
真打昇進前後のあまりにもな毒舌がちょっと。
その後笑点のおかげもあり、取り返している。
それに当時の悪態、パワハラ撲滅時代の今になると、かえって宮治師のホンネのほうが正しかった気もしてくる。

嫌いになった人も取り返すことがあるので、そのまま評価を固定はしない。
ちなみにいまだに取り返すに至っていないのが、春風亭一之輔師である。
嫌おうと努力しているわけじゃないのだけども。
一之輔師のギャグいっぱいの高座がどうも。しかし、以前は間違いなくそれを好んでいたのだ。
当時の記憶を濃厚に持ちつつ、やはりしっくり来ないまま。
で、宮治師の落語も、噺のいじりかたが割と似ている。既存のものを壊して笑いを取る芸。
これがNHKラジオに出ていて、非常に気に入った次第。
で、一之輔はダメで、宮治はいいのか。
さすがに私の中でも、これを正当化する理屈はない。結局生理的に快かどうかである。
だが、一之輔と宮治の、違いよりも共通点のほうが目立つのだ。
理屈っぽい私は、これに悩んでしまうのだ。今日は悩んだまま先に進む。

宮治師、売れっ子なのに道灌。でも自信はあるのだろう。
どこの誰かわからないような人間に盛大な拍手をありがとうございます。
地方ではまだやってるんだな。

道灌は代表的な前座噺のひとつ。
宮治師の所属する芸術協会では、それほど頻繁には聴かないけども。

八っつぁんが隠居のうちを訪れ、さすが宮治師。ギャグだらけ。
隠居に対して悪態の限りを尽くす。
仕事もハンチクなんで、横丁のでこぼこのところで半日とぐろ巻いてやろう。
隠居さんちのまずい茶、臭いね、きったないね、触ったら病気になりそうだね、病気になりそうだね、隠居さんのまずい茶うまいね。
ことによると横丁の隠居ってのはベロベロベロじゃねえか。

これが快になるかどうかはもう、聴き手次第なのだった。
なんて失礼なと思う客も。あるいは既存の古典落語のように、どこまで行っても隠居と八っつぁんは仲良しなんだなとの理解もできる。

スピーディで見事なリズム。
柳亭小痴楽師もスピーディでリズムいい高座だが、もっとずっと本格派。宮治師はやはり、良くも悪くもギャグに固執している。
だが固執の仕方は前座のスタンプカード芸とはまるで違う。
スタンプカード芸は、教わったクスグリを全部入れて、入れるたびに脳内スタンプカードを押していくやり方(でっち定吉命名)。

宮治師は、古典落語で使うすべてのクスグリを、自分で作り直してから入れる。
道灌なんて聴き飽きてる人にも、初心者にも響く。
分米について散々引っ張ったあと「分米ってなんです」。
やらない米はやるまいだ。食べてしまえばおしまい。備蓄米はどうなる。

こんなの真似しても全然面白くはならない。むしろ最悪。
魂のこもったギャグではないのだから。
宮治師も、別にギャグで直接ウケようとはしておらず、躁病的な八っつぁんを客に見せるためやっているのだ。

徳川さまが道灌さんから城を買ったんだね。安く買ったんだろうね、イエヤスってくらいで。
このギャグ、最初に文蔵師から聞いたときはのけぞったが、今じゃ珍しくもなんともない。
で宮治師は、「面白いこと考えちゃった」と言って、客に先にわからせておいて一人で回答を言わずに盛り上がっている。
流行ったおかげで陳腐になったギャグも、使い方で蘇るのだ。

ちなみにラジオなのに、表情が見えてくる。
八っつぁんの終始嬉しそうな顔も、隠居の苦虫を噛み潰した顔も。

ストーリーは本当に膨らませない。
道灌にもともとストーリーはないが、それでも普通は太田道灌公のかりくらの様子や、家に帰る途中の八っつぁんに道灌遊びをさせたりするではないか。
こんなところ全部カット。

しかし見逃せないところもある。
隠居のところ辞して、「隠居のうち行くと勉強になりますよね」と独り言を呟いて、「ただいま」。
散々悪態はついておいて、やはり気になる客を救おうということみたい。
神経細やか。
さすが笑点メンバー。変な褒め方でおしまい。

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