柳家花緑弟子の会11(中・柳家花いち「狸の紹介」)

花いち師の一席目。
ぼく、弟弟子の圭花さんとよく一緒に仕事行くんです。
圭花さんとは仲良しです。先輩に、誰と仲がいいんだと訊かれたので、圭花さんですと。
同業者なんでぼくが先輩ですけど、本当はもっと横並びなんです。学生時代に同じクラスにいたら、一番仲良くしてたと思います。
そしたら圭花さんは、俺のほうはそんなことないんだそうで。
同じクラスにいたら、ぼくは目下の扱いなんだそうです。

いつもながら自虐が絶好調。変な空気になどしない。
軽くやりますとふわっと本編に。
なんと「たぬき」だ。
子供たちから狸の子供を救うシーンから。
狸の子がなんでもお役に立ちますと言うまでは、完全に古典だと思っていた。
古典のつもりで聴いたこの噺が、実に楽しい。
花いち師は寄席では新作派とされているが、古典落語も実に面白い。
それにしても、前座噺をこれだけ楽しく語れる人は、そうはない。改めて驚いた。
聴き手の脳内に刻まれた古典落語のテキストを、露骨に裏切るのではない。ごく軽くズラしてくるところがたまらないのだった。
親方のまたぐらくぐった狸が、「ふんどし汚れてますね」。
それに答えて、「ごめん」。
こういうところ。
これなんかズラしが強い方で、多くはもっとひそやかである。

実にスムーズに新作に入っていった。
「たぬき」だって、札かな、賽かな、落語協会だと最近は鯉が流行ってるなとか想像しながら聴いているわけだ。
そのどれでもなく、新作だというのはなかなか愉快。

古典落語の改作やる人も多いが、古典落語の強すぎるボディの前に、大失敗することもある。
廃業した林家扇兵衛さんなんて「狸の札束」というのをやっていたけど、ポカンでした。
花いち師には、そんな変な空気はかけらもない。

親方がかみさんが欲しいんだよと言うので、狸の子供(たぬ吉)、任せてくださいと一度引きあげる。
女の子を連れてきた。ただし女の子も狸。

人間がいいんだけど。狸の世界では美人かもしれないけど、区別つかないよ。それにノミも見えるし。
そんなことないですよ。たぬ子さんはこんなに魅力的ですよ、とポーズを取らせる。

めちゃくちゃ面白かったけども、この先のストーリーはよく覚えてない。ストーリーがあるとしてだが。
ストーリーより、なんとか恩返しをしなきゃという狸の子供のズレ具合が楽しい。
昔からやってる作品みたいだが初めて聴いた。また聴きたい。

タイトル間違えてアップしてしまいましたが「狸の紹介」です。

続いて緑太師。
7年に渡り謝楽祭では、文楽師匠のペヤングの販売を手伝ってました。
昨年は文楽師匠が体調不良で、今年はもう出ないということで、新たな企画(謎とき)を考えたわけです。
ぼくがペヤング屋台に入ったのはたまたまです。事務局から手伝うように言われまして。
そしたら、ぼくの入った時間帯が一番売れたんですね。それで、翌年もやるようになりまして。
このところ、ペヤング屋台は文楽師匠と、緑太、鶴枝(元・市童)でした。
昨年は、急遽三三師匠が手伝いに入ってくださいました。メンバーがグレードアップしましたね。
お客さんはみんな三三師匠にサインもらいたい人でした。サインもらうため、2時間で完売しました。

文楽師匠、今ではもう友達みたいな関係ですけど、この師匠は若手の顔を一切覚えないという人で。楽屋では「おい」「アンちゃん」で済みますから。
その文楽師匠に数年したら認識されて、名前も覚えてもらえるようになりました。
思い切って、稽古をお願いしました。看板のピンです。
稽古をお願いする若手はそうそういません。文楽師匠、体大きいし怖そうでしょ。
怖いんですよ。
稽古つけてくださったんですが、講評が。
「アンちゃんはずいぶん言葉に訛りがある。訛りのあるやつなんて、落語やめたほうがいいんだよ」
自分だって訛ってるくせに。
まあ、稽古は終わったんですが。その後楽屋で先輩に訊かれました。緑太、文楽師匠のところ行ったんだって?
ええ。
なんでも、文楽師匠、あっちこっちの楽屋で言ってるんだって。あの緑太は、訛りがひどいから噺家やめたほうがいい。
出身訊いたら埼玉だって言うんだけど、本当は大分らしいじゃないか。誤魔化してやがって。
とんだ風評被害です。

そんなこともありますが、文楽師匠の会に呼ばれました。前座代わりに来てくれといことで。
川崎の会です。
その時、嵐が抜けた翌日で、晴れてますけど交通が不安だったんですね。
なので和光から、原付で行きました。クルマの間をすり抜けて、無事着きました。
交通は止まってましたが、ぼくは着きました。
そしたら開演時刻になっても、電車が動かなくて文楽師匠が来ません。
お客さんは近隣の人が多く、揃っています。
文楽師匠到着したら鐘を鳴らしてもらうことにして、一席やりました。来ないのでもう一席やります。
とうとう、3席目をやって閉演時刻になってしまいました。もうすぐサゲというところで文楽師匠が到着しましたが、そのまま続けます。
落語会はもう終わりですけど、文楽師匠が挨拶だけ出てきます。
「いやあすみません。電車止まっちゃって。今日は緑太がやってくれました。ところでこの緑太ですが、訛りがひどいんですよ‥」

老害のエピソードですと締めて、稽古が関係するあくび指南へ。

続きます。

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