渋谷らくご7 その3(林家きく麿「暴そば族」)

きく麿師の本編は「暴そば属」。
聴いてる最中は「そばっ子エンペラー」というタイトルなのではと思っていた。

もともと九州だからうどんだけど、東京にもう30年いるからそばが好きだと振る。

主人公サトルは実際に登場する前に、そばっ子エンペラーの構成員の会話の中で語られる。見事な構成。
総長はサトルに(特攻隊長だったか)いろいろ任そうとしてるのだけど、サトルの親友アキラが阻止に掛かる。
「大船」とか「箱根」、「小諸」などのワードが先に出て、最後に「富士」。
そばっ子エンペラーは立ち食いそばを攻めまくってるらしい。
要は集団食べ歩きじゃないかと思うが。
マイ箸を持って、集団で「バーソバソバソ」。笑った。

立ち食いそばブームだし、時流に乗った噺。
「かき揚げを制するものは世界を制す」。なんのこっちゃ。

そして、きく麿師のそばを食う様子、実に旨そう。
私は「食欲増進落語」というジャンルがあると思っている。時そばもそうだが。
きく麿師のそばの食い方、古典の技法だけど、実に見事。
中手入れようかと思ったぐらい。最近は中手嫌う演者が増えたので、やめたけど。
実際、帰りに駅そば食べて帰ったもんね。

主人公サトルと、その彼女(名前なんだっけ)は、そばっ子エンペラーを脱退しようとしている。
彼女が「サトルう」といちいち「ル」を口をすぼめて強調するのが面白い。
これってヤンキー口調? そうだと言われればそんな気もする。

脱退する際には、厳しいお仕置き「ゴールデンフォックス」を受けなければならない。
なんのこっちゃわからないけど。とにかく、乳首をかきあげで1週間こすり続けられるのだそうだ。
乳首についたかき揚げのにおいは一生取れないんだとか。
サトルだけでなく、彼女も自らゴールデンフォックスのお仕置きを受けることにする。
そんなことしたらお前、左の乳首が一生かきあげ臭くなるぞ。母乳を左の乳でやれなくなる。
いいよ、右でやるから。
だが総長にも掟に反し「こっそりうどんを食べている」という隠れた弱みがあり、結局サトルがうまい立ち食いそばをこしらえれば脱退を許してやることになる。
ここで、旨いそばの食い方が入るのである。

このご都合主義展開もたまらない。
駒治師の世界観、そして「アタイ」口調の入れ方とも似ている。
親友のサトルとアキラが仲たがいしたのは、ルックチョコレートの食べ方。

新作には珍しくサゲを覚えている。書かないといずれ絶対忘れるけど、まあ忘れてもいい。

落語に限らないが、「異なるジャンルのものを結びつけるとアイディアになる」とよく言う。
暴走族と立ち食いそば。そのいい例である。

2分のインターバルを置いて、田辺いちか先生。
二ツ目の噺家を「師匠」というのはNGだが、二ツ目の講談師を「先生」と呼ぶのはNGじゃないと思う。どうでしょう。

きく麿師匠は、北九州の大先輩です。
きく麿師がすでに、いちかさんの真打昇進が決まったことにも触れているので、当人はあまり語らない。
さらっと、流れるように真打昇進を語っていた。これじゃ手も叩けない。
「中手拒否」に通じるものがあるな。
客は「おめでとう」って手を叩きたいんだから。

梅の季節です。
梅は桜に比べると地味ですが、味わい深いもので。
落語が桜、講談が梅です。

明治の話。
雪の中客待ちをしている車夫に警官が声を掛ける。

(車夫の制服である)股引きがないではないか。
実は家族を養うため、質に入れまして。
警官は自費でもって質出ししてやる。
その日車夫の車には、大金の入った紙入れが忘れられている。これを持ち主に返す。
持ち主は5円のお礼をしようとするが車夫は断って、50銭だけ受け取る。
改めてのお礼。たまたま車が数台あるので、これを無償で貸し付けるから商売しないか。
ようやくうんと言って、人を使った商売を始める車夫。
順調に行っていたが、ある寒い日に、みすぼらしい格好の元警官を見つける。
警官は、質出しをして遅くなったため、咎められて罷免されたのだ。

いちか先生は「正直車夫」と語っていたが、スクリーンには「報恩出世俥」とあった。
「情けは人のためならず」系統の読み物。
いい話だなと思ったが、落語にはならないなとも思った。いや、徂徠豆腐やさじ加減が成り立ってるのだから、これも落語になるかな?
徂徠豆腐はともかく、講釈由来の落語には、どこかにぶっ飛んだ共通項が見られる気がするのだ。井戸の茶碗や抜け雀、鼓ヶ滝。

長屋に住む車夫、紙入れの落とし主が訪ねていくからと姓を問うている。
「五尺八寸」と典型的な返しの後、車夫が使ったことのない名字を思い出しているのが落語っぽくはある。
つまり山田喜三郎であるな。

トリの菊之丞師に続きます。

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