渋谷らくご7 その4(古今亭菊之丞「付き馬」)

トリは古今亭菊之丞師。

鈴本演芸場で早朝寄席というものが復活しまして。
第1回ですから、理事が出ることになって私も呼ばれました。一応理事ですので(扇子を仰ぐ)。
当日、雪と選挙ですよ。
こりゃ、誰もいらっしゃらないんじゃないかなと思ったら、札止めでしたよ。
早い方は6時から並んでたんですって。
二ツ目さんに、断ってもらいました。断るほうもつらいです。
お客さんに札止めだって伝えたら、遅延証明書出してきた人がいたそうで。そんなこと言われましてもね。

早朝寄席、午前10時半から始まるんです。
どうして早朝って言うんでしょう。ファンだったころはそう思ってました。
ですが噺家になってみますとね。これはもう、早朝ですね。
起きられません。夜もお客さんと飲んだりしてますんで。
私が二ツ目の頃よくあったのは、先輩が来ないんですね。
まだ携帯電話の時代じゃないんで、家に電話すると、出るんですよ。

「ああ、ごめん。起きられなかった」
「間に合いますか」
「無理だ、悪い。3人で回しといて」

そんなことで長めにやったりしましてね。
二ツ目の寄席ですからね、受付も自分たちでやるんですよ。高座返しも自分で、メクリも替えて。
一度、2人来なかったってときがありましたよ。
太鼓叩いてましたらね、もう受付入れないですよ。
仕方ないので、「木戸銭はこちらに」なんて札立てておきましてね。
それでもお客さん、ちゃんと入れてくださいますね。

出番はじゃんけんで決めます。
「トリが取りたい」とか「トップに上がりたい」って人はまずいませんね。
だいたい、2番手か3番手です。
でもトリもいい経験になるんですよ。寄席の緞帳が、自分の前で下がっていくなんて二ツ目にはないわけですから。

マクラと本編は、強引につなげてあった覚えがあるが、なんだっけ?
廓噺の付き馬。
2020年の2月、つまりダイヤモンドプリンセス号の隔離があった頃に聴いた。

馬と牛太郎の話。
吉原へは馬で行くと格好がいい。だが散在しすぎて勘定が足らないと、馬子に頼んで回収してもらう。
ただ逃げる客もいるし、馬子の中にも、回収してトンズラするやつもいる。
なので、馬は必ず店から出ることになったと。

女が出てこない、珍しい廓噺である。
格別マイナーな噺でもないと思うけど、現場で聴くのはその2020年以来だ。
トリネタはそんなものだ。

久々に聴いて思ったのは、「全編言い立てでできている」噺だなと。
めちゃくちゃ難しそう。
トンズラ男のセリフが終始うたい調子だが、これが言い立てっぽい。
イメージとして、大工調べの啖呵や黄金餅の道中付け。
もちろん本当の言い立て(固定したフレーズ)ではなくて生きたセリフではあるのだけども、言い立てっぽくて高揚するのである。

トンズラ男のセリフ、実にそれらしく聞こえる。
人を高揚させるのに、中身はまるでない。詐欺商法みたいな。
よく考えたら、これは菊之丞師の得意な幇間ネタと同根だ。太鼓持ちも、気持ちのいいことは言うが中身はまるでない。

菊之丞師は、付き馬を幇間ネタに寄せたのでは。
自分の得意な領域で勝負する。
そういえば、湯屋番もわがままな若旦那なのに、同種である。

落語好きは当然この男が逃げることを知っているが、付き馬という噺を初めて聴く客にとっても、なにかやらかしそうなことはよく伝わる。
そして、「借金を取り立てに行くが戸が閉まっている」「湯に入る」「豆腐で一杯」「観音さまから雷門へと連れまわす」ことで、違和感がどんどん増幅していく。

客も徐々に騙されていく。
借金を受け取りに行く家、お寝み中らしいということでいったんスルー。
なら、時間を潰して戻らなければならないのに、この家は二度と出てこない。
もちろんテキトーに見つくろった人の家なんだけど。
若い衆は一応覚えてるのだろうけど、落語の客は忘れてるかもしれないな。

そんな道中の中、朝の静かな吉原の情景が、トンズラ男の口から一瞬描かれる。
テキトーなセリフだらけの中で、これは響きますね。

さすがの若い衆も、仲見世から雷門まで連れてこられて、一瞬怒りを見せる。
ここから早桶作りのおじさんのところへすっとつながる。

「おじさんって呼ばれて返事してたじゃないですか!}
「俺、おじさんだもん。おばさんって呼ばれたら返事しない」

というのは、落語屈指の名フレーズ。
菊之丞師は、「ここらへんの子供はみんな俺のことおじさんって言うんだ」と挟んでいた。

人が騙されるかわいそうな噺を、楽しく聴いて帰るのでした。

ところで付き馬、誰がやったら向いてるかなと考えた。
柳家花いち師で聴きたい。菊之丞師のようにはできなくても、マンガとして描くのが上手そう。

(その1に戻る)

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